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記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました  作者: 四十九院紙縞


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1/9

1.――「あの……どちら様でしょうか?」

「来週、気になってる映画が公開されるんだけど。一緒に観に行かない?」

「……ふうん」

「それで、映画の帰りに、行ってみたいカフェがあるんだ。ラテアートが可愛いんだって。そこも一緒に行こうよ」

「……別に」

 月に一度行われる、婚約者とのお茶会。

 家同士が取り決めた婚約者であり、幼馴染である櫨原(うつぎはら)侑誠(ゆうせい)は、私の向かいの席で、つまらなそうに生返事を繰り返す。

 別に良い。いつものことだ。

 小学校中学年頃から高校二年生に至る今日まで、私に対する侑誠の態度は一貫してこうだ。

 侑誠は、たぶん私のことが嫌いだ。それもそうだろう。侑誠にとって私は、親が勝手に決めた結婚相手なのだ。こうして、嫌々ながらも月に一度のお茶会に顔を出してくれているだけでも重畳なのである。

 幼い頃は「流華(るか)ちゃん、ずっといっしょにいようね」なんて可愛らしいことを言ってくれたりもしたが、所詮は子どもの発言に過ぎなかったというわけだ。

 今もこうして一緒におでかけする計画を立てているが、侑誠が来てくれる確率は半々。遅刻して、それでも待ち合わせ場所に来てくれたら良いほうだ。無論、侑誠からなにかしらのお誘いがあったことなんて、これまでに一度もない。

 侑誠との関係は没交渉気味だが、私はこの結婚に異論はない。

 侑誠は子どもの頃から知っている仲だし、こんなぶっきらぼうでも、悪い人ではないことを知っているからだ。

 たとえば、遅刻したときは決まって汗をかいていること。

 たとえば、遅刻してやって来たときは、心なしか落ち込んでいること。

 嫌っている人間を相手にそういう誠実な態度が滲み出ている彼を、私は好ましく思っている。……まあ、全てが順調に行って将来結婚したとしても、幸せな家庭を築けそうにはないけれど。家の為に、私たちが結婚することだけに意味があるのだ。

「それじゃあ、気分が向いたら、次の日曜日、朝十時に駅前広場に来てね」

「……ん」

 いつも通り、会話らしい会話もしないまま、その日のお茶会は解散となった。



 そうして、約束の日。

 私はいつものように一人で家を出た。

 侑誠と出かけるとき、私はそのときのお気に入りの服を着る。いろんな服装の私を見てほしいというのもあるけれど、なにより、好きな服を着ることで、自分の気分を上げているのだ。流石の私も、一日中ぶっきらぼうな人を相手にしていると、気が滅入ってきてしまうから、そういう心の武装は必要なのである。

 約束の時間までは、あと十五分。

 映画までの時間を考えると、かなり余裕を持たせた待ち合わせ時間だ。それは、侑誠がすっぽかしたことが確定した場合、一人でも映画を楽しめる時間にしようと思って設定した時間であった。

 しかし。

「きゃっ――!」

 突如、後ろから強い力でバッグを引っ張られた。

 次の瞬間には、背後からバイクがものすごいスピードで逃げていくのが見えた。

 ひったくりだ。

 そう思ったのも束の間、突然後ろからぶつかられた私の身体は、受け身も取れずに横転してしまった。

 頭に、鈍い痛みが走る。

 ぐらりと意識が揺れて、そのまま、暗転する。



 目が覚めると、私の身体は病院にあった。

 私の身体が横たえられているベッドの周りには、知らない人が何人も居て、ちょっと怖い。

「あの……どちら様でしょうか?」

 だから私は、思っていることを率直に言葉にした。

 すると、ある中年男性は医者に詰め寄り、ある中年女性は泣き崩れた。医者と看護師は私の状態を確認し始める。

 なにもわからない私を置いてけぼりにして、目まぐるしく周囲の状況は展開されていく。

 そして。

三塚(みつづか)流華(るか)さん。貴女は現在、記憶喪失状態にあります」

 医者は真剣な面差しで、私にそう宣告したのであった。


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