第九章 ジ アース (2) イーバからの攻撃
西暦2221年4月8日 午前8時
プリズムビルの屋上には4人の人影があった。
展開する黒服のSP3人と中央に九条時成CEOだ。
身長は180㎝位あろうか。
九条氏は、ブランド物の光沢のある、
エンジ色のスリーピースのスーツに
白黒のタータンチェックのネクタイが覗き、
足元は紫のエナメルの靴。
どちらかと言わなくとも、良いセンスとは言い難い。
黒く染めた髪はオールバックにしてポマードで固め、
黒服SP同様、レイボン製の黒サングラスをしている。
しきりに、スーンド製ドラバースの高級腕時計を、覗き込む。
そんな九条氏の耳に、金属製の非常階段を上ってくる
甲高いヒールの足音が聞こえてきた。
(下の階でエレベーターを降りたのか?
1階の受付からは何の連絡もなかったが・・・・
実物のお伊勢様に驚いて、連絡出来なかったのか・・・
PPSのセキュリテーは・・・困ったものだ・・・)
一瞬で走馬灯の如く、多くの情報が頭の中を駆け巡る。
100メートル程先に、足早にこちらに歩いてくる2人の人影が映った。
前を歩くのは濃い山吹色のレザータイトスカートと
黒のブラウスには、胸元にギャザーが入り襟元からは、
モダンフリルのシャイニーストライプが施されている。
胸のボタンがようやく留まっているのが、
離れた位置からでもはっきりと解る。
ハーフに見える美人顔は小さく、8頭身か9頭身に見える。
身長は180㎝は超えている。
現在、履かれているカーキ色のルータンのヒールを脱いでも、
170㎝は超えているのは間違いない。
歳の頃は20代後半といえばそうだし、
30代といえば悪口になるだろうか。
セミロングの褐色の髪は、大きくうねって肩の下まで達し、
風になびく部分は朱色に光り輝いて見える。
肩からそっと、執事が上着の山吹色のレザージャケットをかける。
「ダーシィ様、風がまだお寒うございます・・・」
執事の名はフィール・ドン・セバスドラクル。
本名であるかは判らない。
70数年前 旧ダゴン連邦国から、子供難民だった彼を
伊勢家が引き取ったのが始まりと聞いている。
ヒールを履いたお伊勢様よりやや高い位の身長で、
九条氏に比べ細くスマートな体形だ。
クラシック映画で観た、シチリアンマフィアの
50代といったら、失礼に当たる様な風貌は日焼けして、
額には、それなりの深い皺が刻まれていた。
シルバーグレイアッシュの混ざる髪は後ろで縛られ、
サムライヘアにしている。
黒服と同じような黒いスーツを着ており、
ネクタイだけが深い山吹色で、お伊勢様と
コーディネイトされている様にも見える。
まったくもってスキが無い。
こちらの黒服SP3人では、簡単に倒されてしまうだろう。
(この方と戦うには、PPSのシャドウ特殊部隊を出す必要があるな。)
有らぬ想像を消込み、九条氏は、自然な動作でサングラスを外して、
胸の内ポケットに仕舞い込むと、口角を無理に上げ、
うやうやしい態度で声を張った。
「お待ちしておりました!お伊勢様!ささ、こちらにこちらに・・・」
仰々しく、右手の赤いクアッドローターリムジン、
通称「赤影」に向けて手を広げた。
SPたちは片膝をつき頭を下げたまま、じっとしてる。
小刻みに震える者もいる。
彼女が実質的なサーティーンペタルズのトップであることを、
ここに居る全員が知っている。
それでもシェネルのナンバーだろうか、横を通る彼女から
うっすらと何とも言えない香りが鼻腔をつき、官能をくすぐる。
九条氏は忘れているが、子供のころお伊勢様を観て抱いた、
大人の女性への憧れと性の目覚めの感覚・・・・
良く言えば郷愁の念ともとれる感情・・・
高レベルの精神訓練を受けたSPらでさえ、
強い自制心を必要としていた。
九条氏は足早に「赤影」と呼ばれる、
赤いリムジンヘリの4段のタラップを駆け上がり、
お伊勢様を待って、右手を伸ばした。
彼女は自然体で左手を差し出し、九条氏の手を取った。
「有難う 九条・・・」澄み切った声は女神が如く、
触れた右手の先から痺れ 全身に伝わる。
一番後部座席の、赤いソファの、真ん中にゆったりと腰を下ろし足を組む。
流れるような立居振舞いに、九条氏の目は釘付けとなった。
セバスが後ろに立つことに、遅れて気づいて我に返る。
内ポケットを探り、ビバリーのハンカチを出して額を拭く。
「あぁ、セバス様はこちらにどうぞ・・・」声が少し上ずっていた。
動揺が隠し切れない。
「私に敬称は要りません。セバスでお願い致します。」
落ち着いた低い声が響く。
「ああ、判った解った・・・」
わかったを2回続けてしまい、自分の席にそそくさと座る。
額の汗を何度も拭く。
(私をこれ程までに・・・これは、精神干渉なのか・・・・
まさかそんな筈は・・・・)
ヘリの内部は運転席を除き、左右の窓に沿って、
縦に2席分づつ、カーキー色の白っぽい
ファーストクラス用リクライニングシートが並ぶ。
シートは、1.5メートルほどの高さの
楕円形の薄いナチュラルアイボリーで木目調の、
強化プラスチックの壁で囲われ、
プライベートシールドとなって、
パーソナルスペースを確保している。
またシートを完全に倒す事もできた。
ヘリの内径は左右4.2メートル、天井まで2.3メートル、
コックピットを除く、客室の奥行きは8メートルを超える。
真ん中に出来る通路は80㎝程で、
突き当り前方に扉があって、奥のコックピットに繋がる。
一番後ろはソファに合ったテーブルがあって、
その向こう側が後ろの壁に沿う形で、
左右、端から端まで3.8メートルの
真っ赤なレザーソファになっていた。
真ん中には、足を組んで座る彼女がいた。
あと、この機にトイレやシャワールームはない。
赤いソファから前を向いて左前にセバス、右前に九条氏が座り、
彼ら、それぞれの前にSPが座り、
もう一人のSPはコックピットに座った。
ただ自動運転のため、操縦の必要はない。
エアーコンディショナーにより、自動調整された
室内温度は26度に快適に保たれていた。
◇◇◇◇◇
有難うございました。
続きが読みたい。いい感じ。興味ある。仕方ないな。
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