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第十六章  ---古都大学食堂---  (1)

二人は4階の廊下(ろうか)をそのまま進み、E棟(イーとう)にまで

達していた。


そこでマリアは、廊下(ろうか)に出されているA看板を何気なく見る。


「・・・古都大学食堂 10:00 開店!あッ、お姉さま!」


期待して、振り返ってアリスを見る。


「・・・まだ10:25分ね。ここにしましょう。」


マリアの喜ぶ顔を横に、アリスが先行する。


何故(なぜ)か、アリスが先に入口の自動ドアを開け、

気になる風に店内に入っていった。


マリアも追いかけて入ると、これは以前 何処(どこ)かで・・・

・・・記憶を探る。何とも(なつ)かしい香りだ。


「お姉さま、待って・・・」


挿絵(By みてみん)


店内には6人グループが座れるテーブルが、

ざっと50卓あり、椅子(いす)が3脚づつ向かい合わせに

置かれている。

フードコートと呼ばれるスペースだ。


正面奥(しょうめんおく)に長いカウンター、更にその奥が厨房(ちゅうぼう)で、

7人~8人の男女が調理に(たずさ)わっている。


香りの元はそこから、発せられているようだ。


入口を入ってすぐに食券機(しょっけんき)があって、アリスがすでに

カードをかざし、メニューも観ずにボタンを押していた。


「なになに、お姉さま、私も同じのをお願い!」


アリスはマリアをまじまじと見つめたまま、

(本当にいいのネ!)という顔で、

同じボタンをもう一度、押した。


食券が2枚出てきて、2枚ともマリアに渡す。


食券の文字を見つめたまま、固まるマリア。


「・・・お姉さま、これって・・・。」


厨房の方から中年の女性の声で、

「食券を、こちらにお持ち下さ~い!」


マリアが歩いていき、その女性に食券を渡す。


代わりに、呼び出し用のカードサイズのアラームを、

本来ならここで、受取るところだ。


「今日は、セレモニーだけやからね、一般の研究生も、

 大学関係者も少ないだろうから、

 料理が出来たらお持ちするわね。

 ・・・新入生の方ね。どこでもいいから座って、

 そんなに時間かからないから、待っててね。」


厨房(ちゅうぼう)の女性が、少し方言交(ほうげんま)じりに話す。


マリアが振り返りフードコートを見回すと、

厨房(ちゅうぼう)から()ぐ近くの2つ目の

テーブルの真ん中に、入口を背にして

アリスはこちら向きに座っていた。


マリアがアリスに近づくと、

「マリア、ここの真ん中に、ほらっ給水機が

 あるでしょう・・・」


アリスが、食堂の中央に設置された

ウォーターサーバーをじっと指さす。


「・・・わかりました!」


マリアは、水を入れたコップ2杯を持って戻り、

アリスに一つを渡して向かいに座る。


また厨房(ちゅうぼう)の方から、大きな声が届く。


「ご飯の量は、どうしはりますか~!」


「マリア、少な目でって言って・・・」


コソコソ小声で、アリスは下を向いたまま、

目も合わさずに言う。


「・・・あっおばさん!、少な目で~!」


マリアの振り返りざまの声が、

よく通り、思ったより大きかった。


フードコートの一番奥に座る、

男性4人のグループが、びっくりした顔で

こちらを見て、すぐに笑顔になる。


「・・・はい、どうぞ。」


厨房(ちゅうぼう)の女性が出て来て、先に小さめのお茶碗(ちゃわん)に、

7分目位に入った白米と、小皿に入った2切れの

大根のお漬物が、それぞれ二人に届けられた。


続いて、高齢の険しい顔をして鉢巻(はちまき)を巻いた男性が

2杯の丼ぶりをトレイに乗せ運んできた。

さあ、食ってみろと言わんばかりに、

アリスとマリア、それぞれの前に置く。


あつあつのスープからは沢山の湯気が上がり、

その香りを嗅いだ時に、昔 足繁(あししげ)く通った

あの店が思い出された。

(この店前で感じたものに、間違いなかったわ。)

アリスはお(はし)を持つ前に、添えられたレンゲで

スープを(すく)って飲む・・・(うなず)いて、続けて飲む・・・


アリスは顔を上げて、いつまでもこちらを見る

険しい顔の鉢巻の高齢男性に対し、笑顔で


「素晴らしいお味ね、おじさま。最高のラーメン!

 ・・・(とり)ガラ醤油(しょうゆ)背油(せあぶら)ちゃっちゃ・・・

・・・これは、古都(こと)老舗(しにせ)、「しらかわ」の

 お味ですよね・・・よくここまで・・・」


お向かいで、フーフーしながらマリアは、

男性に背を向けたまま、無言で(めん)をすすっている。


鉢巻(はちまき)の男性は険しかった顔がくしゃくしゃになり、

目には涙が浮かんでいる・・・


「お嬢ちゃん、いいかげんな事を言われてるのは

 わかっちゃいるが・・・本当にうめぇか。」


「・・・お姉さまが、美味しいって言ったら、

 美味しいに決まってるじゃん!」

振り返ってマリアが口を挟む。


男性は両肩を上下に微妙に揺らしながら、

「・・・「しらかわ」は祖父の代で終わったんです。

 あっしが生まれる前の話です・・・

 母親が関東州の江戸町に疎開して、

 古都の実家もレシピも戦争で・・・

 残っている訳も無く・・・

 あっしはその江戸町で生まれやした・・・

 ・・・・ぐっ、くっ、くっ・・・」


父親の顔も、たぶん写真でしか知らないのだろう。

どうも「しらかわ」の子孫のようだ。

思っていたより更に高齢だ。


厨房から先ほどの女性が出て来て、


「この人、この学食の初期メンバーでね、

 ここで40年以上も試行錯誤してはってね・・・

 (ほとん)ど誰もラーメン頼まへんから、厨房のみんなが

 心配しててね・・・・けど最近になって、

 おもてた味にたどり着いたて、言いうてはってね・・・

 それで今日、お嬢様方が 頼んでくれはって!・・・

 ・・・細川さん、ほんと良かったわね!」


高齢男性は細川さんと呼ばれているようだ。

女性の方の目からも涙が・・・


厨房の女性が細川さんの背を叩くと、

鉢巻の頭が無言で頷く。


両肩を抱えられて、

男性は厨房へ戻って行った。


「・・・お姉さま、横浜より美味しいわ。上だわ。」


マリアは(こと)経緯(けいい)綺麗(きれい)に無視して、

レンゲでスープを口に運んだかと思えば、

すぐに白米を口に入れる・・・次に麺をすすり・・・

一心不乱に食べ続けていた。


◇◇◇


・・・自動ドアが開き、新たに女性3人が入ってきた。


有難うございました。

続きが読みたい。いい感じ。興味ある。仕方ないな。

関心を持って下さった皆様。

【★★★★★】をお願い致します。

とても励みになります。

ブックマークも出来る方は、

どうぞ宜しくお願い致します。(りん)

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