第十三章 ---第三魔霊法大学--- (2)
理事長室は広く、奥の真ん中に大きな木の机があり、
手前に長いローテーブルと、左右に5人づつは
座れる立派な、濃い茶色のソファーがあった。
向かって右側のソファーに奥から中寄りにマリア、
続いてアリスと、車中と同じく並んで腰かける。
直ぐに理事長のお付きと思われる侍女が、
紅茶の入ったカップを、二人の前に並べる。
赤茶のストレートヘアを肩までのワンレングスに
して、出来る女性の印象だ。
実際に出来るのだろう。
所作にスキが無いようにも見える。
「わーッ!フラワリーオレンジペコね!」
マリアが、嬉しそうに香りを楽しむ。
理事長はデスクでなく、二人の向かいに座る。
帽子を取った頭は、眩しく予想通りだった。
ただ立派な白い顎髭を、15㎝程蓄え、
四角い年相応の顔の威厳を保っていた。
直ぐに、湯気の立つ緑茶と思われる湯呑みを、
ワンレンの彼女が彼の前に音も無く沿える。
マリアがティーカップを手に取り、続けて話す・・・
「おじさん、私の名前は、【鴨野まりあ】
にしたから。覚えておいて。」
勝手に話して、ティーカップを口に運ぶ。
「鴨野様と藤原様ですな。承知しましたぞ。」
円明寺理事長が湯呑を口に運ぶのを待って、
アリスはティーカップを取り、紅茶に口を付ける。
「マリアカラス様、理事長に例の件、お伺いされて
みては如何でしょう。」
アリスがそっと話す。
マリアはティーカップをデスクに戻し、思い出したように話す。
「あっ、おじさん・・じゃなくて円明寺・・さん、
この学校のどこかの研究室で、プラズマエネルギー
とか、M理論の研究をしているところ知ってる?」
「わしは、名ばかりの理事長でな、何か事が起きたら
ペタルズに報告する位しか、できんのじゃ。
学内の研究については、ノータッチでな。」
少し警戒気味に、理事長が答える。
マリアは円明寺の言葉に、かぶせ気味に話す・・・
「あの人と直接、話せるんだから 信用も実績も
有るのは間違いないわ。他の天下りの理事とは、
違うでしょう?」
「ああ・・・わしの祖父が、セブンビルダーズの、
あの、円明寺宗叡なのじゃ・・・
縁故で置いてもらっとるようなもんじゃ・・・」
ここでアリスが、丁寧に話しに割って入る。
「円明寺理事長、ご謙遜を・・・第三魔霊法大学の
財務を、一手に引き受けておられますでしょう。
理事長になられて、すぐさま大鉈を振られて、
裏金や犯罪に手を染めた、全ての関係者を炙り出して、
FBIに突き出したそうですね。」
「・・・やっぱり、おじさんってすごいじゃん。
あの人はおじさんを、別に疑ってるわけじゃないと
思うの。ただ、大学内のその研究で、将来、
良くない事が起こりそうなの。」
マリアからの話を聞き、理事長の緊張が少し解け、
肩の力が少し抜けた様子が見て取れた。
「そういう事であれば、まず学長のイーサン・アレン、
あれは、物理学者で博士号も持っとります。
わしの方から、順番に探りを入れてみると
しましょうかの。」
マリアがどう答えよう、とアリスを見る。
「恐れ入ります理事長、学長はマリアカラス様に
お会いされた事、ございますでしょうか。」
アリスが丁寧に質問する・・・
「まず お会いしたことは無いであろうのぅ。
彼は、学生で入学し、ずっとこの大学で
助教授から教授、 そして現在、
学長になっても研究を続けておる。
この大学の生え抜きメンバーの一人じゃ。」
「・・・マリアカラス様、お顔が射さないのであれば
理事長から学長へ、お会い出来るように、お口添え
を、お願いしてみては如何でしょう。」
あっけらかんとアリスは話す。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、わしの居る前で、なかなか面白い。
藤原と申したか、出来るのう。流石は、
お嬢様にお仕えされるだけの事はある・・・
今日は入学セレモニーやらで、学長も大変じゃろうて。
明日、朝8時に学長室を訪ねてみなさい。
変更の場合は、学内のネットワークを使って、
お嬢様へ連絡を入れますじゃ。」
「おじさん・・・あっ、入学セレモニー!忘れ・・・
円明寺、有難う。助かるわ。
私たちの名前は、覚えたわね。あと・・・
今日、遇ったことは誰にも言わないでね。」
あっけらかんとマリアも話す。
「ああ、判り申した。解り申した・・・
こんな老いぼれでも結構、忙しいもんでの、
今後、大学構内で解らない事、困った事に
遭遇した時は、こいつを使ってやってくれるかのぅ。」
先ほど紅茶を運んでくれた、赤茶のワンレンが進み出て、
「円明寺・プロテノール・パピリオです・・・
プロテノールとお呼び下さい。
ど、どうかお見知りおきを・・・」
アリスは、こんな出来るオーラ満開の女性でも
緊張するんだぁと思う。
「プロテは、実はわしの4番目の嫁じゃ。それなりに
仕事も出来る故、大事に使ってやってくれるかのぅ。」
「・・・おじさん!元気・・・・・」
アリスが、マリアの言葉を遮り、
「パピリオ様、鴨野、藤原で宜しくお願い致します。」
「・・・お、お嬢様、藤原様お会いできて
こ、光栄の至りです。」
「パリピー!緊張しなくていいわ・・・
あっ、パリピ様・・・良くてよ。」
アリスが釘を刺す。
「パピリオ様!・・・でしょ。」
アリスの冷たい視線を感じ、マリアは何事も無かったように、
真面目な顔で、向かいに座る、はにかむ円明寺を見ながら
紅茶を飲み干した。
◇◇◇
・・・二人が帰った、理事長室。
「あの、ビアノル・クラメルの一番弟子といわれる
お前が、目に見えて緊張するなど、どうしたのじゃ。」
「・・・申し訳ございません・・・最穏様・・・・」
「お嬢様は、それ程の高みに御出でだったとはのぉ・・・
それでは、お付きの藤原といったかのぉ、
あ奴はどうじゃ。」
「・・・最初は、一般人にみえました・・・・
脳手術を受けていない・・・普通の従者・・・・
ただ、通常のα波や電脳特有の電脳波が出ておらず、
読めません・・・でした・・・すべて・・・
かろうじて肌から体温を感知しました。
赤外線モニターには、映ると思われますが、
露出部分を隠されますと、ほぼ完全な隠形・・・・
その姿を見ていないと、存在すら把握できない・・・
もしかすると、ここに実体が無かったとか・・・
・・・何を言ってるのかしら私・・・」
「ふぉ。ふぉ。ふぉ。御歳は宗叡様には負けるが、
長生きは、してみるものよのぉ!」
プロテノールは机から、2つの空っぽのティーカップを
盆に乗せ、理事長室を出ようとした時、ふと気が付いた・・・
藤原様のカップも空になっている・・・
最初に口を付けられてから後・・・
いつ飲まれたのかしら・・・
◇◇◇
有難うございました。
続きが読みたい。いい感じ。興味ある。仕方ないな。
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