第十一章 ジ アース (4) イーバからの攻撃
(・・・これは!個人用量子バリアなのか・・・)
九条氏は、目の前で起こっていることにも答えが出てこない。
お伊勢様は、何か独り言のようにブツブツ呟いている・・・
「・・・・有難うございました・・・・」
最後の言葉が、辛うじて聞き取れた。
「お伊勢様これは・・・・」
九条氏が話しかけるも、直ぐにお伊勢様は言葉を遮って、
「チッ九条!攻撃を受けた!EBEによるものだ。」
お伊勢様に舌打ちされる。(私は悪くない・・)
「・・・セバス、もうよい。あとは私がガードも索敵もする。」
優しく落ち着いた声でお伊勢様がセバスに促す。
「・・・ははぁ。」
セバスがゆっくりお伊勢様から離れバブルから出る。
「九条、京都と回線を繋いでおけ。」
「・・・ははっ!」
目まぐるしく変わる状況に九条氏はついて行けてない。
あわててコックピットの扉を開けて中に入ると、
運転席のSPを呼んで指示を出す。
SPは、九条氏に機体に問題ない事を報告し、
またそそくさと運転席に戻って座る。
(一体、何が起こったのか・・・・)
九条氏の気は休まらない・・・・
その時、機内を見ると、
お伊勢様との、テーブルを挟んだ空間に突如、
人型の光が像を結び颯然と、
一人の女性が現れた。
驚いて、運転席側のドアから顔だけ出していた、
九条氏の口がぽっかり空いたまま固まっている。
「・・・・・まさか・・・アリス姫様ですか・・・・・」
ようやく九条氏は言葉を絞り出した。
・・・アリスダリア尊姫
・・・十数年前、私の父(時貞)に連れられ、
州都トキオシティで行われた、
MoAの秘密会議。
オブザーバーで出席した私たちは、
5列目からだったが、一度だけ拝見した・・・
白い軍服姿・・・
・・・忘れもしない・・・・
金色にたなびく腰丈の髪は、ストレートで光り輝やいており、
当時の記憶のまま。
グレイと柿色のツートンに、ピンクのレースがあしらわれた
ワンピースは、どこかの学校の制服であろう事はすぐに判った。
後ろ姿でさえ、凛と伸びた背筋からは、気品と高貴な
強いオーラを容易に感じ取ることができた。
「・・・叔母様、大丈夫ですか!
セバスが付いて居ながら 何故っっ!」
悲痛な声でさえ、湧き水の如く澄んでいる。
セバスはテーブルの隅の狭い空間で、何も言わず
片膝で俯いている。
目から血を流すお伊勢様を、ご覧になり心配し、
また怒ってもいるのだろう。
容姿端麗と一括りで言い表せない
和人の奥ゆかしさもある。
身長は170㎝強位か、肌は白く、
目の色は青く東洋人の血の入った欧州人風・・・
語彙力の無い陳腐な例えではあるが、そう神々しい。
(・・・・最新の量子ホログラフィで登場か・・・・)
九条氏は働かない頭で見た光景を、そのままに思い描いた。
既にテーブルを越え、アリスはお伊勢様の横に座り、
抱き付いて泣いていた。
「アリス!どうして来たの!・・・危ないじゃないの!」
赤く血の混じった涙をハンカチで押さえながら、
お伊勢様は、九条の時と違い品よく叱責を口にする。
「アリス、今日は入学式でしょう・・・
私なら大丈夫だから・・・ほら、早く学校に戻りなさい。」
落ち着いた声で優しく諭す。
「・・・叔母様・・・今のイーバの攻撃でしょう?
私、アーミ(部隊)に戻った方が・・・」
泣きじゃくりながらも、アリスの澄んだ声は失われていない。
また芯の強さも感じる。
「・・・最低3年間は忘れるよう言ったでしょう。
マリアはどうしたの?マリアを叱るわよ!」
お伊勢様の語気が強まったその時・・・・
「・・・はい・・・こちらに控えております・・・・」
人が変わったように礼儀正しい。
九条の覗く扉のすぐ前の何もない空間から声がする・・・
母親にも気配を感じさせない陰陽。
伊勢マリアカラス唯花は、
伊勢ダーシィー円花の実の一人娘だ。
アリスの世話(ほぼ侍女)をしている。
「・・・すごいエネルギー波だった・・・」
お伊勢様の強い語気に答えず、アリスは独り言のように呟く。
「・・・アリス・・・本当のことを言うわ。
・・・ナインファーナスの皇太子様が・・・
・・・お父様が助けてくれたのよ。
お父さまが来てくれなかったら今頃、私たちは勿論、
この星自体も危なかったわ・・・」
アリスの目が輝く。
(・・・相変わらずね。デイティ!全く変わってない。
お会いできた・・・)アリスが心に思う・・・
アリスをゆっくり引き離し、肩に手お置いたまま、
落ち着いた声で、お伊勢様は話し始める。
「アリス、あなたのお父様はいっつも観ておいでよ・・・
・・・お父様が一瞬で敵を消し去った。
この辺境星系では、あんな強い魔物は数百年、
いえ数千年に一度、この星に来るかどうか。
この先、何百年かはもう来ることは無いでしょう・・・
・・・もう安心おし、アリス・・・
さっ 戻って戻って。本当に!あなたには、あの学校で
調査してもらう使命があるのよ。」
笑顔で、しかし反論は許さないといった目だった。
「叔母様。彼には、私のことは何も話さないでね。
私の事なんか忘れてるから、きっと。約束よ!」
◇◇◇
アリスは数千万年前の記憶が蘇っていた。
あれはこの銀河に近い、アンドロメダ銀河中心部に近い
一万三千番台の連星系。
そこに二桁のGと、それらを束ねるエリートGが、
銀河中心部のブラックホールを攻撃し、
アンドロメダ銀河は超巨大重力崩壊を招いていた。
エリートGは、下位のセイントにも匹敵する
力を持つといわれている。
幼かった私のせいで、デイタリウス様の軍は到着が遅れ、
アンドロメダ銀河を守るガーネ様の軍の一部を失った。
あの時、デイタリウス第七軍の陰の部隊といわれる、
プリムラヴァ大将の特務消滅部隊が動いて、
エリートGの軍団を完全消滅させる事に成功した。
(・・・デイティ様・・・ブラックホールも元通りに復元させて、
アンドロメダ銀河の重力崩壊も防いだのね・・・)
わがままだった私は、デイタリウス様の力と、
心の大きさを、この時に重ねて知った・・・
(・・・私のせいでぇ・・・・・)
(・・・尊、もう泣くな・・・ほらガーネは生きているぞ・・・)
(・・・私、早く大きくなってデイティ様や皆を守るのぉ・・・
それからデイティ様と結婚するの・・・)
(・・・ハハハハハ・・・僕も楽しみにしておくよ、尊!・・・)
◇◇◇
(叔母様・・・私の中では昔からお父様でなくてよ!・・・)
心で呟く。
刹那、アリスは爽やかなバラの香を残して忽然と消え去った。
有難うございました。
続きが読みたい。いい感じ。興味ある。仕方ないな。
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