第十章 ジ アース (3) イーバからの攻撃
◇◇◇◇◇
ポォンと電子音がして、
「当機は間もなく離陸します。シートベルトをご着用下さい。」
自動音声のアナウンスが流れる。
「新京都ポルテシティー桂イノベーションパークまでは、
25分を予定しております。」
「到着予定時刻は8時55分です。」
4基のプロペラローターが回転を始める。
直接聞いても、普通の会話音より小さいモーター音の為、
ドアの空いた機内からでも、全く音や振動を感じない。
折畳み式4段タラップが収納され、
スライドドアが自動で音も無く閉まる。
機内は音的に外界と遮断されただけで、
違う世界にでも入ってしまったかの様な、錯覚を起こす。
高度2千メートルまで1分足らずで達するも、
全く縦Gを感じることは無かった。
また耳が痛くなる事も、体調に少しの違和感も無い。
室内気圧の精密コントロールだけで、
重力を制御したかの如く、機内調整が成されていた。
「光学量子迷彩飛行に移ります。」静かに音声が流れる・・・
可視光、GPSレーダーだけでなく、
赤外線や紫外線レーダーにも捕捉されない、
先端軍事技術によるステルス性能で、
ほとんどのレーダーに捕捉されることはない。
◇◇◇
ここより南々西に海上を40キロ程離れたところに、
国内最大のハブ空港であるSokkia(通称ソッキア)
(State Of Kansai,Kansai International Airport)
が存在する。
本来であれば、多くの航空機が離発着の為、
旋回飛行をこの関西湾上空で行う。
今朝は不思議なことに、レーダーに1機の機影も存在しない。
◇◇◇
「ダーシィ様、お飲物はいかがなされますか。」
セバスは自分の席を離れ、体重を感じさせない動作で、
彼女の前でテーブルを挟んで片膝をついた。
「その前に・・・九条!」
彼女の低めの乾いた綺麗な声から、
少し不機嫌であろうことはセバスにも解った。
「ははぁ!・・・」
まだ汗を拭いていた九条氏は、バタバタと音を立てて、
セバスの横で頭を下げ、片膝をつく。
「九条。あなた、本社のセキュリティはどうなっているの?」
落ち着いた声なので、余計に怖い。
「いや、あの・・・・」言い訳はできない・・・・
しどろもどろに言葉にもならない。
「九条。受付嬢の1人はノーマルの人間を置きなさい。」
彼女の静かで、淡々とした綺麗な声が室内に響く。
「恐れ多くも、お伊勢様のように、神が如く、
PPS全ての目を逃れられる、生物も霊子体も機械も存在しません・・・
ご存じの通り、ニューヨーク条約で危険が及ぶ可能性のある場所への
ノーマルな人間の配置は・・・」
うつむき話す九条氏の顎から、床にポタポタと汗が落ちる。
彼女は言葉を遮って、
「またそんな言い訳を私にするつもりなの!
それ位、考えるのがあなたの仕事でしょう。」
「ははぁ!畏まりました。申し訳ありません。
帰ったら直ぐに・・・します・・・」
九条氏は消え入りそうな声で呟いた・・・
セバスは無駄のない動きで、テーブルの横の冷蔵庫から
シャンパン、ウイスキー、緑茶、ワイン、弱炭酸水、
を出してテーブルの隅に並べる。
彼女は、緑茶を指さしたその手の甲で、
九条氏を席に戻るように追い払った。
セバスはもう、グラスにロックアイスを入れ、緑茶を注いでいる。
慌てて席に戻った九条氏は、数キロ走った以上の疲労感に苛まれていた。
(頭が上手く回らない、新種の精神攻撃を受けたようだ・・・)
(プリズムのビルの高度な監視網をいとも簡単に・・・・)
(どうすればいいのか・・・)九条氏は悩んだ・・・・
その時ふと、前回の25年前の新京都の会議場での事を思い出した。
父がまだ存命で、私は会議場のフロアの警備副責任者として、
PPSの特殊部隊を、数人割り振り緊張していた。
父が お伊勢様の警備を、何よりも誰よりも重要視していたからだ。
(・・・・・・お伊勢様!?)
(あの時もエレベータを使わず・・・
フロアへ階段を上から降りてこられた・・・・)
(赤いワンピースのドレス姿・・・)
「・・・ぁあ!」
小さく声が出てしまった。
外見やお顔に全く変化が無い事に、今更 気づく。
(そうだ・・・この会議は25年ぶりだ・・・
なのに若すぎる・・・超高級ダッチボディか・・・)
(・・・ぁあ!)また声が出そうになる。
(そうだ!祖父が亡くなる前の年に会議があった。
そうだ50年前、私は父に連れられ、
お伊勢様にご挨拶をした!
6歳だったがはっきり憶えている! 同じだお顔だ!
始めて女性を感じた。
きっと大昔から、細胞機械の身体と量子電脳を
アップグレードしてきているのだ・・・・しかし・・・
50年前にそのような、そこまでの電脳量子技術
はあっただろうか・・・)
少しいやらしい感情を奥深くに押し殺し、
少しでも考えると死罪になると、
必死で自分に言い聞かせ蓋をする。
父が病室で、最後に私に言った戯言を思い出した。
脳梗塞等で精神の異常があった為、
頭から信用してなかった。
(数億年を生きた英知・・・・
お伊勢様に就いてしっかりお守りしてゆくのだ・・・・)
急に、後方のお伊勢様のところからガタッと音がした。
刹那!ヘリ内部の照明が赤に変わる。
現実に引き戻された九条氏は立ち上がり、お伊勢様を確認すると、
セバスが抱き付く格好でじっとしている。
よく観ると、2人を透明なバブルが包んでいる。
お伊勢様の目の色が、赤く光り、血の涙が・・・
有難うございました。
続きが読みたい。いい感じ。興味ある。仕方ないな。
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