蝋燭
すごくマイルドですが津波の描写がありますのでお気をつけください。
彼女はいつもそのロウソクを見ていた。
「火は消えていませんか?」
私の言葉に彼女はゆれるロウソクのように儚くうなずく。
私はそれを確認すると、いつも奇妙な満足感に包まれていた。
自分には何一つ関係ないはずなのに、それがたまらなく嬉しかったのだ。
彼女は時折、姿を変えた。
ある時には若く、ある時には年をとり。
それだけであるならば老いと納得でも出来るだろう。
しかし、彼女は若くもなった。
私にはそれが不思議でしかたなかった。
「こないだより、歳をとりましたね」
私の言葉に彼女はうなずく。
「歳をとりましたから」
私は納得して海へ帰る。
「こないだより、若くなりましたね」
私の言葉に彼女はうなずく。
「生まれ変わりましたから」
私は納得して海へ帰る。
ある時、ふと私は疑問に思う。
私は何故、彼女に会うのか?
きっかけは何であったか?
しかし、思いつかない。そこで私は彼女に尋ねた。
「なぜ、私はあなたに会うのでしょう」
彼女は笑って答えた。
「昔、約束をしたからです」
私は納得して海へ帰った。
やがて、蝋燭の火が消えた。
彼女は。
私と約束した女の。
そのずっと後の孫は苦笑する。
「ダメになったみたいです」
私はうなずいた。
「明日に行う」
「はい」
「君はどうする?」
彼女は既に消えた蝋燭を見て笑った。
「見届けます」
私はうなずき海へ帰った。
翌日。
私は波となって陸を襲った。
かつての約束を果たすために。
人々は逃げ惑った。
私は彼らを溺れさせた。
最中、彼女を見つけた。
彼女は蝋燭の火のように儚く笑い、蝋燭の火のように、一瞬で消えた。