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決別の回想

作者: 春鳴イオ

さようなら。


別れ時、最後に部屋で放たれたのは、そんな言葉だった。




朝起きるといつもとは違う静かな部屋。その静けさの中、私は強烈な悲しさに襲われた。


───────どうして。


どうしてあんな風になっていると分かっていたのに、気にかけなかったのだろうか。


私は何をすればよかったのだろうか。


激しい悔いの中、私は走馬灯のように出会った頃のことを思い出していた。



私が''君''と出会ったのは、インターネットだった。

その頃の''君''はとても有名になっていて、どこの動画サイトでも見ることができた。


''君''は綺麗だった。


ボディは周囲とは比較にならない程だと友人と話していた。


私にとって、憧れだった。



その後バイトで知り合った同級生の友人に『紹介する』と言われた時は驚いた。


紹介されたのは''君''だったのだ。


初めて知った時とは違い、中身にも惹かれていた私は一緒に暮らしたいと思うのも時間の問題だった。

友人と一緒に食事をし、遊園地へ行き、ショッピングモールに行った。


そしてついに、帰る直前に私と''君''は将来一緒に暮らすことが決まったのだった。



その後私は嬉しくなり、どこへでも一緒に行くようになった。食事も、ドライブも、朝のランニングにさえ連れていった。


毎日の退屈だった灰色の時間が、段々と彩られていった。私は紹介してくれた友人に感謝しながら日々幸せを噛み締めていた。



変わり始めたのはその3年後だった。

徐々に''君''が動けなくなっていたのだ。


初めは少し。

気のせいかと思った。


次は1時間程。


1年後には半日ほどとなっていた。

おかしいと思った。

聞いてみると、あれはダメかもしれないと言われた。

この時、私は『そうか、ダメなのか』と思いながら、そのままにしていたのだ。


今思うと悔いしかない。



その1年後には1時間ほどしか動けなくなっていた。

部屋のベッドで横たわる''君''を見ながら、私は悔いていた。


───────どうして。


どうしてあんな風になっていると分かっていたのに、気にかけなかったのだろうか。


私は何をすればよかったのだろうか。


激しい悔いに襲われながら、私は別れを決意した。


「さようなら。───────私のスマホ。」



充電器に繋げたまま''君''を操作をして、バッテリーが使い物にならなくなった''君''は1時間しか動けなくなった。


そんな状況を、友人と話していた。


「あーあ、そんなつなぎっぱでスマホ使ってバッテリー使い物にならなくなるなんて初歩的なミス、誰がやるってんだ」


「おっしゃる通りです...あんなにも綺麗だったのに...」


「お前、めっちゃ目キラキラさせて、『あのボディめちゃくちゃ綺麗だね!!』とか言ってたもんな。大切にしてればもう1、2年はつかえたかもしれねーのになー?」


「分かってる!だから後悔してるの!」


5年もの時間を共にした相棒に激しい悔いを残しつつ、私はその飲食店を出て、家に帰ったのだった。



さようなら。


別れ時、最後に部屋で放たれたのは、そんな言葉だったなと思い出しながら、新しいスマホに話しかける。


「やっぱり''君''には劣るけど、ボディの黒は周囲とは比較にならない程綺麗だ。」


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