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ノマと魔法使い  作者: 鬼桜 寛
第1章 落ちこぼれ魔法使いとわがまま王子
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第8話 それでもいい、はずなのに

 城の廊下は無駄に煌びやかだ。歩く度にリリアは感じている。


 赤の国(ルーベルム)を統率するバーンズ・フラマン・カルバート王が暮らすこのフラマン城は、部屋の内部はもちろん、廊下や階段にまで派手な装飾が目立つ。金があるという権力の証明でもあるのだろう。


 リリアはこの城が苦手だった。苦手というか、実際のところ大嫌いだった。

 シシカ村の人たちは、バーンズ王のことをとても信頼している。国としては喜ばしいことなのだろうが、リリアは素直に喜べなかった。

 バーンズは偉大な王様だ。国民で彼の英雄譚を知らない人はまずいないだろう。

 彼は、三十年前に怒ったバグマ火山の大噴火から国を護った英雄として、今もなお讃えられている。


 大噴火の時、リリアは生まれていなかったので、当時のことは人づてに聞いただけだ。

 三十年前の大噴火の後、バーンズは王に即位した。そして王が喚んだ炎龍ヴァルノーヴァは、バグマ火山の噴火を鎮めた後、国の守り神のような存在になった。噴火によって出来たバグマ火山の火口湖には、炎龍に祈りを捧げるための祭壇も建てられた。


 母と祖母の話だけを聞いていれば、リリアもシシカ村の人たちみたいに純粋に王を讃えられていただろう。しかし、魔法使いとして城へ住むようになってからは、王に対して不審感を抱くようになった。

 バーンズ王をこの目で見たのは二、三度しかないが、英雄と称賛されたはずの王の瞳には、今や国民は誰一人映っていない。リリアにはそれくらい冷淡な印象だった。

 王だけではない。城内の人たちも冷酷な人が多い。あの王の支配下にあるから、仕方ないことなのかもしれない。


 城全体を包むひんやりとした異様な雰囲気に、リリアは居心地の悪さを感じていた。

 シシカ村の人たちは、ここと違ってみんないい人ばかりだ。

 こんな自分でも温かく迎えてくれ、毎日親切にしてくれる。シシカ村はリリアの心の安息所でもあった。


 リリアが所属する魔法団体リリックの本部は、フラマン城の西側に位置する塔の中にある。西塔へ続く中庭を歩いていると、リリアの前方からリリックの魔法使いが三人、西塔の扉から出てくるのが見えた。

 リリアの同期の魔法使いだ。同時期に魔法免許ソーサリーライセンスを取得し、リリアと同じく修行のため各所へ派遣されている。

 三人は仲良さそうに和気あいあいと話しているので、リリアには気付いていないようだ。


 どうかこのまま気付かないで。

 リリアは俯きながら錫杖を握った。知らないふりをして三人の横を通り過ぎようと、早足で歩く。


「あれ? 誰かと思えばリリアじゃない?」


 ──駄目だった。しかもこの声は、一番苦手なメイビィだ。

 逃げ出したい気持ちになり、リリアの胃が縮む。このまま無言を貫けば、余計に突っかかってくるのが目に見えている。

 メイビィの一言によって、残りの二人も連鎖的に声を上げた。


「本当だリリアじゃん! なんか久しぶりかも」

「相変わらずぼけぼけしてんじゃないの? 大丈夫? ちゃんと魔法力マナエナジー貯まってる?」

「貯まるどころか、派遣先のいい迷惑になってたりして」

「ちょっとメイビィ、それは言い過ぎ! 事実かもだけど」


 アンナとサリー、そしてメイビィは魔法学校時代からの仲良し三人グループだ。そして何かにつけて彼女たちはリリアをからかってくる。


「三人とも、お元気そうですね」


 リリアが作り笑いをして答えれば、メイビィがにぃと笑顔になった。


「まぁね。アタシの魔法力マナエナジーもだいぶ貯まったし、この分だと次の昇級試験も楽勝ね」

「さすがメイビィ! 私も頑張らないと。このまま年長Fランク魔法使いにはなりたくないし」

「大丈夫よサリー。だってFランクにはずっとリリアがいるもの」


 それもそうか、とクスクス笑う三人へ、強く反抗出来たらいいのかもしれない。

 しかし彼女たちが言っていることは事実なので、リリアは何も言い返せず苦笑することしか出来なかった。


 リリアは魔法使いだが、魔法が苦手だ。


 未だに初級レベルの魔法一つしか使えないし、空だって飛べない。

 リリア以外の魔法使いはみんな、錫杖に跨ったり腰掛けたりすることで空を飛ぶことが出来る。けれどリリアはいくら練習しても飛ぶことが出来なかった。


 魔法学校の卒業試験の実技試験では、学校史上過去最悪の成績を残した。卒業なんて出来るはずがなかったのだが、学科試験の成績が加味され、リリアはなんとか卒業まで行きつけた。賄賂を使ったんじゃないかなどと噂も立ったが、リリアにとってはそんな噂はどうでもいい。

 魔法免許ソーサリーライセンスが取れ、魔法使いになれたことが何より嬉しかった。


 免許を取りたての新米魔法使いは、魔法能力の基礎となる魔法力マナエナジーを得るために村や街へ派遣される。この修行期間で、魔法力マナエナジーを効率良く得る方法を学ぶのだ。

 王からの派遣期間は一ヶ月ほどだが、正直リリアは一ヶ月で次の昇級試験に合格出来るまでの魔法力マナエナジーは貯まらないだろうと思っている。大抵の魔法使いはこの一ヶ月で貯まるものだろうし、メイビィのようにすでに十分な量が貯まっている魔法使いだって当然いる。全ては自分の能力、才能のなさが原因だ。


 それでもいいとリリアは思っていた。自分は焦らず、長い時間をかけて力をつけてゆく。

 もちろん魔法使いとして上の階級であることや、強力な魔法が使えることは胸を張って誇れることだ。

 けれど、リリアの目指すものはそこではない。魔法使いとしてもっと大切なものがあると信じている。


 だってわたしは、人助けをするために魔法使いになったのだから。


「じゃあねリリア。免許剥奪されないよう、せいぜいがんばんなさいね」

「Fランクで免許剝奪とか、かわいそー」

「あはは、でもリリアならやりかねないね。なんにも出来ないからねぇ」


 メイビィたちは散々からかった後、リリアに満面の笑みを向けて去って行った。

 いつか彼女たちを見返してやりたいとか、そういった気持ちはない。

 しかし、「なんにも出来ない」という一言に、先日のサロ養鶏場のでのことを嫌でも思い出してしまい、リリアの胸の奥が締め付けられた。

 あの時サロは、魔法は何も出来ないと吐露していたが、魔法が悪いのではない。リリアの能力が低いせいだ。


 シシカ村で村人たちの助けになった時は心から嬉しかった。

 ありがとうと言われる度に、胸が高鳴った。こんな自分でも、魔法使いとして人を助けることが出来るのだと、生まれて初めて自信がついた。

 けれど、カックルの件でリリアは痛感させられた。サロとノマに「頼む」と言われてパニックになった。

 どんなに感謝されようが、自分が魔法使いとして落ちこぼれであることには変わりない。そのことがとても悔しかった。


 今のままの自分では、これ以上シシカ村の人たちの助けにはなれないのではないか。

 リリアは重い足を持ち上げて、西塔の扉を開いた。

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