口福の聖戦
癒され回。
主人公の初陣のようですよ? 異食バトル! ギリシャ風のスイーツのようです。
おれは、人生最大のピンチを迎えていた。一人孤独な闘いを強いられているのだ。
「姉ちゃん、がんばれ~!」
「く、くそう。自分に負けそうだ。」
「がんばれ!お姉ちゃん!」
意識を持っていかれそうだ。もう、ここまでなのか。おれは。
もうろうとしてきて、致命的な聞き間違いをする。
「お姉ちゃ~ん!ふぁいと!」
「おじさん、じゃなくて、お兄さんでしょ!」
「おじさんってだあれ?」
なんだと。かわええ。お姉ちゃんもう少しがんばりゅ!!
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*女は根性!(違うって言いたい・・・。)
ことの始まりはこうだ・・・。
今から1時間ほど前、スイーツ屋さんのテラス側のガラスに張り付いているちびっ子さんがいた。
「どうしたんだい。何か食べたいものでもあるのかい。」
「うん。あのね。あのチケットが欲しいの。」
「これか。ええと。スイーツ2皿分、”2人前食べたら、一日、ファミリー食べ放題券プレゼント!”って書いてるな。」
「今度、弟の誕生日だから、みんなでね、行きたいの。でもね。今ごはん食べたばっかだから、お腹でっかなの。」
「うんうん。よしよし。おれに任せろ!」
自信の程はだって? コンビニのスイーツ全制覇するくらいのスイーツ男子だったんだぜおれは!
2人前なんて、超余裕だっつーの。
「あの。これって、景品ゲットしたら、他のひとにプレゼントするのは、OKですか?」
「ああ、良いともさ! 先着1名、お嬢さんが一番乗りだ。まあ、控えめな量だから余裕だろう。」
ふ。なんだ。この程度か。チョロいな。目の前の2皿は、料理長の言った通りこじんまりした量のスイーツの盛合せだった。
んじゃまあ、いただきます。
「ブフウッ!?。」
こ、この味覚の暴力は。まさかキングなのか?
「食べやすいだろ、お嬢さん。一番甘さ控えめだからな。」
おっと、まさかのポーンくうんんんん? 甘すぎて、もはや反応が梅干しを食べたときのそれになっている。
「あ、あの。こちらのコーヒーをご一緒に頂いても?」
「どうぞ。当店では実は人気の一品なんですよ。」
「ゲホゲホ。」
「覚醒てんさい糖を使ってましてね。これがまた一度溶けたら、沈殿しない優れもの!味もマイルドに仕上がっているかと!」
砂糖が覚醒するんじゃねえよ。裏ボスだったんですけど。これ。農家が天才だわ。
逆にぐっじょび。もはやアジはシナクナリマシタ。
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15分後・・・。おれは2皿制覇したのだった。
なんとか、勝てたぞ・・・。
胃が喉が舌が大ダメージを受けたのはやるせないが。
「どうぞ。」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「いつ、誕生日なんだ? 忘れないようにわたせよ。」
「う~んとね。ちょっと前終わったばっかだから、1年後!」
かわええ。どうやら、おれの犠牲は無駄ではなかったようだ。ガクッ。
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「どうした。レイ。ソファーにへばりついて。」
「レイシャさん、レバーとほうれん草買ってきてくれないか。胃腸の調子悪くって。」
「しんどそうだな。すぐ買ってくるから、この胃薬飲め。安静にしろよ。」
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一時間後、レバーとほうれん草のソテーを作ってくれた。
ありがてえ。
「いただきます!」
「たくさんある。お代わりしろ。」
「うんめ~。舌が浄化されていく。」
「いったい何を食べたんだか。」
苦笑いされてしまった。
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真夜中、月明かりに下で、おれはさけんでいた。
「目が~!目が疼く! 痛い!」
「どうした。もしかして、中二病にでもかかったか。」
「だれが中二病じゃい! ね、念のために聞くけど、中二病ってヤバいのか。」
「ああヤバいぞ。毎年、中二病の患者が後を絶たなくてな。急に右目がうずくとか口走るようになり、眼帯を付け出してな。」
「ど、どうなるんだ?」
「ある、特定の言葉しか喋れなくなってしまうのだ。特に混沌、波動、闇の力、とか。後はずっとやれやれ言い続けて、会話が出来なくなると末期だな。」
お、おう。
「後はリミッターがあってな。中二病ゲージが満タンになったら隕石に当たって死ぬのだ。」
「・・・。」
「去年の被害は42件だったかな。一昨年は厄年で、53件でこれまたバカにならない数字だ。」
マジですか。大病じゃないですか。
大丈夫なはずだ。多分。だってまだパワーワード口ずさんでいないからな。
異世界の病気が怖すぎるう。(爆笑)
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スイーツ屋から出る時に、「あのね。さっきね。すっごきれいなお姉ちゃんにこれもらったの。
でもね。なんかしゃべり方お父さんみたいだったの。お姉ちゃんなのに。変なの!」
って聞こえた気がしたそうですよ。あ、ちなみに、ビタミンAの取りすぎはメッですよ。(きっと伝わる)




