勇者ですがどうやら私に冒険は無理のようです
ジェンダーフリーのこのご時世。何を言ったらセクハラになるのか、デリケートすぎる議論がある所。
もし、男×女(中は男)の組み合わせになると、どういう風になるのか?さらにシャッフルされてしまうと?
とある異世界のお話をしていきたいと思います。
「初めまして、異世界! さようなら。昨日までの自分! おれは異世界王になる!(ハーレム)」
異世界の地に降り立って最初の一言を宣言したおれは、明日から頑張ろうと思い、宿屋を探してお風呂だけ入ってすぐに寝た。
そう。この時は冷静な判断を出来なかったのだ。なんせおれが働いていた企業は転職サイトではぶっちぎりの低評価を獲得。さらには週休二日制とはこれ如何にとばかりに今月に入ってからは驚異の20連勤中。眠たくて仕方が無かったのだ。そもそも事の発端はあの時・・・。
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その日はいつもと変わらず過ぎていた。会社のパソコンの画面片隅に「異世界転生しませんか?そこのあなた!」とマジで邪魔なポップ広告が出ていた。
作業にちょいとした支障が出てはいたが、サムネの女の子が可愛かったのと、触ったりしたら作業を中断する必要があったため、時間に追われるおれは仕事が終わるまで、ほっといた。まさかこれが爆弾だなんて露知らずに。
や、やっと終わった~。帰れる!既に11時は過ぎており、終電には走らずとも歩いてでも間に合うこの至福の時。おれは缶コーヒーのタブを疲労でプルプル震える指先でこじ開ける。
「お疲れっした。」
「ああ、お疲れさん。また明日も頼んだぞ。」
そう。上司は良い人なんだ。同僚も頼りにしてるし、おれも時々頼られたりと、職場環境はかなり良いと言えた。
休日がないのを除けば。労働基準法?中小零細企業の末端までその威光で救ってくれる強い法律どうやら日本にはないようだ。
ふ。鼻で笑い、おれはパソコンをシャットダウンしようとした。いや、確かにしたはずだった。
まさか社会人3年目のおれが、パソコンの電源を消すのを失敗するなんて。
青い電源を落としています。あのメッセージの後に「あなたの人生をシャットダウンしますか」
と謎のメッセージが出てき、おれは変なアプリでも起動しているのかとふと疑い、ctrl + alt + del
でタスクマネージャーを開き、確認しようとした。
他に操作はおこなっていない。すぐにキーボードから手を離したので、誤操作はしていないはずなのだが、「受け付けました」画面にはその文字が写し出されていた。その後何事もなかったように
パソコンの電源は落ちたのだった。
くそう。何なんだ。おれの個人情報が流出していて、パソコンの会社用のアカウントをハックされてしまったのか? USB端子には何もささっていなかったし、ネットワークサーバー経由だとしても、うちの会社では見るページがブラウザでも制御されているくらいにはセキュリティ意識高いってのに。
明日、IT担当のあの方に頼むしかないな。
終電のスカスカに開いた座席に座り込み、おれは意識を手放した。
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おれがこっくりさんを始めたタイミングで、おれの座席のちょうど真上あたりの空気が割れ始めた。
裂け目は次第に大きくなり、中から神々しい女神が降臨し、おれに異世界行きの案内を始めたのだった。もちろんおれは話など聞いちゃいない。眠っていたからな。
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*女神視点
私がせっかく丁寧に案内してやっているのに、こいつ目を覚す気配がまるで何もない。
まあ良いわ。これと言っちゃなんだけど、この異世界行きの片道切符、不良債権でしかない。
ワームーホールも未確認未処理だし、現時点ではチート能力も何も特典無しで、ただ文字通り
飛ばされるだけなのだ。
都合の良いヤツが目の前にいるじゃない。奇跡的に私の話の最中に同意を頂かないといけない場面では、こっくりと相づちをとってくれる。まあ、首の前後運動をしているだけだが。
「・・・。そしてこの異世界行きは、今申し上げたデメリットがあります。よろしいでしょうか。」
こっくり
「チート能力はもらえず、一度死ぬとそれっきりです。そちらの点はご了承ください。一応、魔法ありありの世界観です。」
コックリ
「以上で説明を終了させて頂きます。他に何かご質問などはございますか。」
こっくり
「それではご契約頂きありがとうございます。料金は結構です。それでは最後にこちらのタブレット
に指紋の登録と、同意ボタンをタッチさせますね。私がお手伝い致します。はい。クーリングオフ不要にもチェックと」
あまりにもお仕事がスムーズに終わった私はありがとうと感謝の意を込めて、会釈をし飛び立とうとしたが、半ば強引にタブレットをタッチさせた事と電車が揺れたことが重なり、おっさんが前へと倒れ込んで来た。
気づけば、やつは私の胸に手を当てもみだした。おっさんへの嫌悪感と押しの神アイドルのライブへ向かおうとしていた私は、重いっきり手の甲をつねり、手をひきはなした。
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突然の痛みに目を覚ましたおれは、中指を天に突きたてながらおれの目の前に立ち尽くす女性が視界に入った。「では行ってらっしゃい。」一言意味不明なセリフを言い残して、女性は別の車両へ移動して行った。
昨今では、電車の中でもコスプレをするのだろうか。しっかしアイドル顔負けのべっぴんさんだったな。
次の停車駅は、やぐりがどう、やぐりがどう駅です。お降りの方は足元に気を付けてお降りください。
コンビニで夕飯を確保し、アパートの郵便受けの中を確認し、エレベーターのボタンを押した。
ふと違和感を覚え、ポケットを探ってみた。ハンカチのさらに奥の方にねじ込むように何か入っていた。
”人生をシャットダウンしたあなた!片道旅行券 領収書”
おれはすかさずバックを開け、書類ファイルの中に収納する。
これはおそらくパソコンの件とは無関係ではなさそうだ。何かの証拠になるかもしれない。
良く分からない事に苛立ちを覚え、ドアを乱暴に、されど近所迷惑にならないように開けると、突如
まぶしい白い光が視界を奪った。
フラフープで30周したくらいの目まいと言えば伝わるだろうか。軽い立ち眩みとともに、新鮮な空気が肺へと染み渡る。
マジか。とうとう来ちゃったよ異世界!
「初めまして、異世界! さようなら。昨日までの自分! おれは異世界王になる!(ハーレム)」
ステータス・オープン!!!
あれ。おれのステータス、スキルに全部鍵マークがついているんだが。
参考までに
Lv1/1.職業:勇者 カンスト済み
鑑定Lv1/99 ロックを解除してください
魔眼Lv1/- ロックを解除してください
魔法Lv1/99 ロックを解除してください
ユニークスキル:模倣魔法 ロックを解除してください
魅了Lv1/- ロックを解除してくださいロックを解除してください
体力 1500/2000 (平均1800)
*1なお、テスター勇者のため、ロックは解除できません。
*2覚醒イベントなし
*3イベント補正なし
*4冒険者は向いていません。平民でくらしましょう。
*死んだら終わりです。
・・・・。最後に絶望的な一文が見えた気がしたんだが。がやがやする路地裏で一人ため息をこぼした。なに、美少女(おれは少女より美女派)との出会いイベントもないってのか。
探り探りの投稿になります。作者的には主人公ハーレムもありかななんて思っていますが、どうやら物語の
進行が彼の恋路を邪魔するようです。仕方ない仕方ない!




