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ファンタジー小説の達人  作者: 鳥居 テンスイ
4/6

【04】

「――以上が私の率直な感想です」

 私は盛悟氏の作品を読みながら思ったことを全て伝えた。

 出来得る限り明瞭簡潔(めいりょうかんけつ)に話を組み立てたつもりだ。これならきちんと伝わっているはずだ。

「……わかりました。どうも……ありがとうございました」

 結果的にかなりの辛口批評になってしまった感は否めない。しかしファンタジー小説愛好家としての立場からの批評となれば譲ることのできないラインが確固として私の中にはあった。彼はあまりにも未熟で浅慮、そして不勉強だ。それらを看過(かんか)して甘い言葉を並べることは私にはできないし、それには何の意味もない。

 だから私は彼を傷付けることになろうとも、プロのファンタジー作家を志す彼のためを思って、あえて厳しく評価を述べた。彼が最初の読者に私を選んだのも何かの運命だ。ならば自らが汚れ役になることに(いささ)かの躊躇(ためら)いもない。私は与えられた責務を全うするだけだ。

「……ここは私が払っておきます」

 そう言ってゆっくりと立ち上がった盛悟氏の目はどこか(うつ)ろだった。彼もまさかここまでの辛口批評が飛び出すとは思っていなかったのだろう。どうやら彼はこの作品に過大な自信があったようだ。私が賞賛してくれると踏んでいたのだろう。しかしいつか誰かがその空虚な自尊心に引導を渡さねばならない。

「では……失礼します」

 ショックを受けたのだろうか。それともまだ認識が追いついていないのだろうか。どちらにせよ彼は私の言葉で一度挫けるだろう。夢が霞むだろう。もしかしたら筆を折ることになるかもしれない。

 会計を済ませた盛悟氏が扉を開き、ふらふらとした足取りで店から出て行く。鐘の音がカランカランと鳴り渡った。

 頑張ってほしいと思う。いつか私の言葉を乗り越え、相応しい力量を身に着けプロのファンタジー作家になって欲しいと思う。

 今日私と出会ったのはそのための最初の試練だったのだ。今は彼を傷付けるだけの私の言葉も、いつの日か必ず彼を大きくする苗床(なえどこ)の一部になるだろう。

 感謝されるのは彼が大成するその日まで待とうではないか。

 私は残ったアイスコーヒーを飲み干し、いい気分で喫茶店を後にした。


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