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ファンタジー小説の達人  作者: 鳥居 テンスイ
3/6

【03】

 喫茶店から出た私は真っ直ぐ自室に戻った。

ドアに鍵を掛け、クリアケースが入った鞄を床に置いた。カーテンと窓を開け、換気をすることにする。茜色の光が差し込み、淀んだの空気が流れだし清涼な空気が入ってくる。それを肌で感じながら、私はベッドに身を投げた。

 天井を見上げ、ついさっき聞いたばかりの言葉の欠片を集めた。まだ意味がよくわからないままだった。理解することを拒否していたと言った方が正しいだろうか。(かす)かで曖昧なそれを虚空に見つめた。

 そのままどれほどの時間が経っただろうか。焦点がずれ始める。眠くなったのだ。丁度いい、と眠ることにした。それは一種の逃避だとわかっていた。だが、そんなことはどうでもよかった。

 そして目が覚めると日付が変わろうかという深夜だった。私はのろのろと起き上がりトイレに入った。用を足し、そして部屋に一つだけぽつんと置かれたデスクへ向かい、座った。

 真っ暗な部屋の中でそのまましばらく沈黙する。寝起きで霞かかっていた思考も徐々に冴え始めた。

 目を閉じ、再び例の言葉を反芻(はんすう)する。

『まず、この作品を一言で言いますと――』

『私が思うにこの部分は――』

『まず大前提として――というのは――』

 なるほど、そうか。なるほどなるほど。

 本当は理解なんてとうに済んでいる。彼のご高説は明瞭簡潔(めいりょうかんけつ)理路整然(りろせいぜん)。小学生だって一度で理解できる。素晴らしい。ビューティフォー。マーベラス。ファンタスティック。

 理解が済んでいない?

 理解を拒否している?

 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

 もし仮に何かが「済んでいない」と言うのなら、それはそう。


 「()()()()()()()()()()()()」と言うのが正しい。


 暗闇の中、私は拳を振り上げ――。

 振り下ろした。


 ガンッ。


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