異世界その1
私が横たわる天蓋付きベットは身体が沈み込むような柔らかさだった。この感じは何かしら。自身の違和感は?いつもの事ですのに。
あちこちに肖像画が飾られる、赤を基調とした部屋。
上品な美しさ、ここにいればどのような人でも襟を正していなければならないような厳かさ。長居をするには気を落ち着くことは出来ず、その中で生活をすれば、歪みが出るかもしれない……などと思ってしまった。
見慣れた筈の部屋の風景と、ちらりと見える手の色、長さにも違和感。そして気分的な重さが頭の中を駆け巡り、かなり混乱している。
きっとまだ夢を見ているのでしょう。こんな今更、この部屋に居る自分に違和感を持つなどとは……
『直ぐに起きますわ。クラフト、そんなに騒がなくとも今日は我がシェルダンテール家にとって重要な日と認識はしています。この日の為にどれだけ忍耐の限界まで我慢したか……ぬららら。』
『ぬららら?』
『……わからぬらしいわね、貴方は。もう朝から興醒めですわ。』
『申し訳ございません。旦那様にも言われたものですので、支度を整えてさせていただきます。』
無理やり訂正して言い直して見る。不機嫌そうに、ヒステリックな声で。
ん……何で私はこんな酷い態度に出れるのかしら?
あれ?淑女の部屋にじーさんとはいえ、赤の他人の男が勝手に入ってくるのって、おかしくない?
目の前の執事……クラフトは怯えた様子で後退りながらドアの方へと移動し、数人控えていたメイド達に指示を出す。メイドは衣装と盆に乗せた銀髪の豪華絢爛な鬘を厳かに持ち込む。
あ、あ、カツラ、あれ、私別に禿げてないのに。必要か……だな。
貴族の嗜みである、鬘、そう、私の髪色はあまり身分的には好ましくないものであり、隠す必要がある。どうして当たり前の事なのに今更驚くのだろう。
『お嬢様、お着替えを……昨日は寝間では無かったようですね。』
『そうね、いつの間にか寝てしまったみたい。』
『見た事のないお衣装ですね。まるで庶民の着る物のような……これはお衣装棚に仕舞われても宜しいでしょうか?』
『ええ、よろしくてよ。』
見た事のない生地、形の服は、ぴったりと体に合ったものだった。コルセットも付けず、とても動きやすいもの。ただ、まったくもってこれを着てるのはわからない。メイドが深く追求しないことが有難い。
メイドはそれらをすべて脱がしながら、テキパキと片付ける。表情は怪訝そう。
下着から何からの着替え、メイド達にしてもらうのは、当たり前だったが、今日は何故か恥辱を感じる。
背丈ほどの鏡の前で豪華なドレスの着替え……コルセットを細腰になるまで締め上げる。
相変わらず、辛い。きつい。
まだ、それ程太くないのでそれ程締め付けないけど。
まあ、似合ってはいるけど。うん、すごく素敵だわ。
鏡に映る、美しい少女の姿に見惚れる。決してアラサーでも、眼鏡干物女でも無い。白桃の様な肌に大きく見開いた様なコバルトブルーの瞳、高く形の良い鼻筋、赤く妖艶な薄い唇、鬘を被る前は腰まである豊かな緑色のウェーブがかった髪。総合して完璧な美貌だ。ただ、若干強面な感じだが。
手で自身の顔を触る。確かな感触。
ちょっと抓れば痛い。
……夢では無い、現実。
銀髪の鬘はメイドが頭に乗せると同時に自毛は全て鬘に収まり、まるで本物の髪の様になった。
銀髪は長い髪を高く結い上げ、何ヵ所かに赤い宝石を使った飾りをつけた。赤い宝石。我が家の家宝のルビー。
支度が終わると私はメイド達を部屋から出る様に指図する。
不自然さの無いように、やや傲慢な態度で……自分どれだけ嫌なやつでしょうか……
静かになった部屋の中で私は呟いた。
これは異世界転生……だよね。