後悔その5(ディリラ視点)
この前の授業シーンの少し後から始まるディリラ視点です。
私は混乱していた。
それは、突然の前世の記憶が湧いて出てきたせい。
今までの記憶と混ざり合う嫌な感じ。
ディリラ・ミューラートなのか、出口胡桃なのか?
授業の最中に、28年分の出口胡桃の記憶が頭の中に積み込まれた感じだ。
うわ、きつ……
……嘗て日本にいた。新宿で、バーを経営していて……私は死んだのか?
聖女の力はこんな時でも冷静に力を発揮出来た。
遊戯のような授業だったが、きっと評価は良いだろう。優秀な成績で卒業するのは聖女としての義務なのだ。
何だろう、前の記憶を取り戻しても大して感情が変わらない。
前も只管走っていた。
強く有り続けたいと……いや、ここ数年は変わってきたな。面白くも優しい小紗世のお陰で。
どうしてるかな?私が死んだら、泣いてくれるだろうか?
心残りは、母さんに孫の1人でも見せられなかった事。
恋人すらいない自分はどの道駄目だったかもしれないが。
後追いとかしてなきゃいいけど。心配心配心配心配心配……って考えたところで無駄だよね。ごめん、お母さん……
ふー、今日は学校から真っ直ぐに寮に戻る。
とても訓練なんて気が乗らない。変な感覚だ。
どんな時でも冷静な私に気づかない……いや、ただ一人だけ異変に気付いた女がいた。
シェルダンテール伯爵令嬢だ。
あの女はおかしい。
いつも、殺意を身に纏っているようなオーラで、私を苛立たせる。
だが、気になるようなことを言っていた。
闇魔法。
人のようなものが私の中に入ったとか。
そして……空手をやっていた。
私も一緒に空手をやっていたからわかる。
細かい動きの癖。目線。
それは、まるで……。
『おさよって何のこと』
声の方向に私の目線がいく。
私は学園からいつの間にか帰って自室のベットに横たわっていたが、側には黒豹を思わせるような体格で紫色の瞳が目立つ銀の鬘をかぶった宮廷騎士の制服姿の青年がいつの間にかいることに気づいた。
『……ルーチェ先輩。もう、訓練が終わりですか?』
『誰かさんが休みっていうのが気になってね。嵐でも休まない君が。』
『私だって休みたい時はありますよ。少し、疲れただけです。それより、先輩……女性の部屋ですが。速攻で退場をお願いします。私だって、醜聞は気になりますよ?一応聖女ですし。ていうか、女子寮によく入れましたね。』
『まあ、いろいろな手段でね。長年妹みたいに見守ってきたお前を心配したのだよ。で、おさよって誰?何度か口ずさんでいたよ?』
『……気のせいですよ。知りません。』
軍隊訓練の上で先輩にあたるルーチェ・ハル・ブラシードは大変鋭い男だ。
長年一緒にいる兄のような存在だった……はず。
隠すよりも話した方がいいかもしれない。
でも、まだ、混乱してるし。
私が、眉間に皺を寄せてると、彼は拗ねたような顔を向けながら、人差し指で眉間をグイグイ押してきた。
『ああーあー、なんか……違うんだよな。どこだろう、雰囲気?こんな表情って、見たことないな。相談してごらん。お悩み解決。ゲロったらスッキリするよ。』
『男爵子息として、ゲロったらっていうのは下品ですよ。何もないですし。』
『それは、う・そ・だね。わかっているよ私には。恋の悩みだね』
は?何言ってるんだ。この人は。
『的外れもいいところですよ、それよりも、さっさとハウス!!!』
ベットから起きる上がること0.1秒。
ドアに向かって、先輩の身体を掴み両手でぶん投げると、魔法を発動してドアを閉めてから鍵をかける。
何を考えているのやら……。
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学園では、悪い意味で注目を浴びていた。
静寂で穏やかな翌日の朝の教室は異クラスの訪問者によって破られる。
クラス内注目。
私の手をつかんで離さないシェルダンテール嬢。
いやだ、離せ。
殴りたくなるでしょうが……うううう、我慢我慢。
彼女は涙を流している。
鼻水もすごい。
美女の崩れた絵面がひどい。
誰かハンカチ用意してぇーーーー。
『うぐぅ……くるみぃ……生きててよがっだ、いや良くな……ヒックッよくなーいーー!』
いや、どっちだ?
エタらないように(希望)