後悔その4
皆驚いていない?
そもそも、聖女が闇の属性?
私は、側に寄るため駆け出したが、教授に腕1本で阻まれた。
『魔力発動中の人に近づくのは許しませんよ。危険です、下がって!』
『教授、今の見たでしょ。』
『何を言ってるのです?特に問題はありません。』
私は元にいた場所に戻された。
闇ではない?
彼女は、やがて手を頭上に翳したまま、さらに詠唱して光の輪を掌から湧き出し、それが頭上の黒靄に到達すると数秒の残像を残したのち黒靄と共に消える。
勘違い……かな
そう思えるほど、ディリラは特に変化なく魔育の授業を引き続き行っていた。
確かに頭上から落ちた人が見えて、それは胡桃に見えたけど、一瞬であったし……
続けて魔法陣の周りから、彼女の眼の前に大量の土が集まり、小さな土人形を形成。
それを魔法操作で軽く動かしたのち、水の塊をぶつけて溶かすように破壊。
一連の行動に派手さはないが、魔力量を低く調節しながら目の前で上手く実践して見せた。
今回使用している魔力を測る物差し型の魔道具[フェアバランス]は最高値を表す反応を示してしているのが見えたので、全力でやれば、これ以上の難しいものでもできるはず。恐らく出し惜しみをして自分の実力を誇示しないのだろう。
聖女は回復、除霊、治療の光属性に極振りだと思っていたが……
『ディリラさん。大丈夫ですか?なんか、闇の魔法を発動している時、人……のようなものが降ってきてあなたの中に入るのが見えたのですけど……。』
列から外れて、私が尋ねたのは、自分の番が終わった後のことだった。
ちなみに自分の属性、魔力は……何ともいえない出来で、トホホ。
『え?闇の属性は発動していないですよ。変な事言わないで下さい。光の属性を目立たせるために水蒸気と黒い煙を低温空間の中で作成した雲もどきは創りましたが、何か?それより近くに寄らないで下さい。』
イラついたように私に言いつつ、忙しく紙にメモを取るディリラ。
『雲を魔法で作成したのですか!あの短時間に。凄い。それは、雨を降らすことも可能ですか?』
『水を調整してなんとか……ってあなたこそなんですか、あの行動は!魔法発動の訓練じゃないですよ?』
『あれ、あれ……ってあははははははは。なんのことでしょう私、忘れてましたわ。』
あ、しっかり私の訓練を見ていたのだな、避けるわりには……と思った。
全ての属性で自信がなかった私はせめて見せかけで誤魔化そうとして、手や足の動きに合わせて、緩く魔法を使いながら、武道の舞と言えるようなものを観せた。手刀と蹴り技、防御技を一定のリズムで繰り返す空手の形[十手]。
貴族の令嬢がする行為ではなかったが、小紗世の時の昔、空手を習っていて、習慣的に動けるこの動作を考えなしにやってしまった。
教授の評価は、手足の動きが早ければそれだけ魔法の発動が遅く、弱くともカバーするのには役に立つので、頑張りましたねと励ましの言葉を言われた。
周りの令嬢達はあきらかに引いていたし、一緒にきていた令嬢2人もポカーンだ。
『相当武術の手練れだわ。さすがシェルダンテール様の妹君。直接訓練を受けていらっしゃるのね。正しい軌道の美しい姿勢で繰り出される技、空手の形の中でも[十手]は好きですね。』
『貴方は空手を知ってる?』
『……ええ……多分……』
何ともぼんやりとした不思議な顔をした彼女は、授業が終わりとばかりにそそくさとその場を後にしたので、それ以上の追求は出来なかった。
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現世は相変わらずの生活だった。朝、新しく書いたブログが無事に公開されたかをチェックしてから、家を慌しく出た。通勤時間はここから約30分で勤続5年ともなると慣れたものだ。
通勤電車はやや混雑しているが空間に余裕があるので、朝の忙しさに感けて見れなかった携帯電話をここで確認することにした。
この着信……胡桃の電話だな。
深夜から何度もそれはかかってきた。寝ていて全く気がつかないとは、私も大概ヤバイ。メールだけでもしておいて、電話は後でしよう。怒られるに違いないとその時は単純に思っていた。
やっとプロローグ の時まで戻りました。
長かった。一週間分。