後悔その2
アパートに帰ったのは、すっかり暗くなってからだ。
明日の分まで買ってきた食材。
夕食作るのは面倒くさいので、近所の激安スーパーのお惣菜にしたから、余計荷物が増えた。
面会時間の終わりまで粘っていたから、すっかり遅くなってしまった。よっぽど、胡桃のやつはつまらなかったんだな。病院食のプリンの味がないって嘆いていたし。
レジ袋をどさりと置いて、コートを脱ぎ、テーブルにノートパソコンを用意する。
さあ、これから今日、明日の休みを利用して、ブログを書く事にしよう。
もう、誰も相談する人がいなければ、自己解決するしかない。
載せれる写真もあるし、丁度いい。
うん、書くぞ書くぞ書くぞ!!
こうなったら、この生活を受け入れて、楽しむしかない。そうだ!広告も入れれば儲かるかもしれないじゃないか。
夢があるな。
パソコンを開いて、自分のよく見るブログサイト《ガメラ・ブログ》にアカウント登録し、メール登録、自己紹介文、
ヘッダーって……どうしよう?ブログサイトで選べるフリー素材を使っとこうか、自分の写真使うと調節時間かかるし、まだブログ初心者だし……。書式とかうーん……。
パチパチパチパチパチ
ああ、ランキングどうしよう?
え?コメントはとりあえず受付okで。
パチパチパチパチパチ
うわぁー、全然書けてないのに時間かかったわ。色々設定するのに時間がかかるんだよね。まずは、自分の写真を載せようと思ったけど、撮ってなかったなー。また、撮ってこようか?でも、スマホをもう一度持っていくのはどうかな?
……写真だけなら、スマホではなくてもいいんじゃない?
と、言う事でデジカメを首にかけて寝ることにした。寝相で壊さなきゃいいけどね。
ああ、今日文章が半分も書けなかった。
遅筆だなぁ。才能ないかも?
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朝は、メイド達が起こしに来るのから危険だ。
鍵をかけたいけど、寝坊するのもよくないからね。
何かにつけて、お父様に筒抜けになるから、スマホの時のようにならないよう注意する。メイド達より早く起きれば問題はないけど、この世界に目覚ましはない。
時計そのものはあるが、大変高価だったので、それほど数はなく、また小型の物も今の所見ない。
時計も現実から異世界に持ってきておこうかな?
ま、今はとりあえず写真だ。
私はシーツの中にデジカメを上手くメイド達の目から隠し、隙を見てベットの下へ隠した。
よし、これで、朝食後に回収して、学園に持ち込むのだ。
私は、朝食後に、急いで自室に戻った。
箒を片手にベットの下を覗き込む、メイドのパレットを発見。
またお前か!!
頭の中でささっと文章が浮かんだ。
ーサムソーニアは、メイドに掴みかかる。
〈お前は、お父様のスパイなの?部屋を嗅ぎ回るなんて許しませんわ!〉
メイドを突き飛ばし、メイドの持っていた箒で何度も叩くサムソーニア。
誰もいない部屋で、メイドの悲鳴が響き渡る《設定10秒後》ー
流石に理不尽だよね、これは。
部屋のドアを施錠してからゆっくりとパレットに近づく。
パレットは、折檻を予測して、ギュッと目を瞑る。
私は、湧き上がる怒りを押さえながら、パレットを素通りして、ベットの下にあるデジカメを取る。
『これは、特殊な魔道具なの』
電源を入れると、ウィーンと鳴る。液晶画面は暗いままであり、使えるかどうかわからないけど、パレットを写すようにカメラを向けて、シャッターを押す。
写した瞬間に彼女の映像が機械から腕を通り、頭に到達した感覚を覚えた。
これも……異世界カスタマイズなのかなぁ?
多少不安もあるが、普通に使えるという事かな?
パレットにデジカメを渡し、こちらに構えてからシャッターを押すように指導する。
『うわわわわ、何ですか?これ?』
『騒がないで。これは私のお母様の形見です。』
人差し指で、パレットの口を押さえながら、静かに嘘を盛る。
面倒くさいから2回目の形見ネタにしてみた(笑)
『お父様に見つかったら、取り上げられます。死んだお母様が大切に私のために残してくれた物です。命より大事なものですわ。』
『命より……。』
デジカメを持つパレットの両手を包み込むように握り締める。
『お願い、内緒にして頂戴。』
そのままパレットに顔を近づけて、甘く囁くように言ってみる。
パレットは顔全体を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり視線をそらした。
『あの、だ、旦那様には黙っています。私で良ければ色々協力しますし……。』
『助かるわ。』
ドアがガチャガチャする音が聞こえる。
パレットは私にデジカメを渡すと鍵を開けて、慌てて去っていった。
ドアの前にはクラフトが立っていた。
『お嬢様、あまり個人的にメイドと親しくなるのは感心致しません。』
『あ、はい。』
私はデジカメを鞄に入れて、隠すことに集中していたため、特に否定をしなかった。
……また誤解が深まった。
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写真無事にゲットで完成!!
今日、やっと「異世界日記」が書き終わった。
貴重な日曜を使って、長かったよ。
もう今日は遅いから、閲覧数を上げることを考えて明日の7時に予約投稿にしておこう。
出す前にもう一度確認はするけど……ああ、もう明日、明日、明日だ。
目が疲れた。相当疲れた。
私は恐ろしく趣味でないレースの寝間着に着替えると10秒もかからずに眠りに落ちる。
今日は、目覚まし時計を首に下げてみた。異世界で使うことを期待して。
携帯は本の隣に無蔵座に置いてあった。
私が眠りに落ちてからすぐに携帯は鳴り響いた。全く私の眠りを妨げず鳴り響いた。何度も何度も。
この時、早く寝てしまったことを後で後悔した……。