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聖女?その1

『ええっと……君は確か、新入生の噂の子だよね。ディリラ・ミューラート嬢?平民の子達は何故か毎回欠席だからいないものだと思っていた。お会いできて嬉しいね。』


『こんな華奢な御令嬢に対して乱暴狼藉に及ぶとは、許し難い行為。学園長に言われてきましたが、間に合って良かった。』


『華奢?そうでもなかったよ?あのちょっと痛い。』


話し合いながらも、依然として、彼女ディリラ・ミューラートは掴んだ肩をガッチリ抑えて彼を離そうとしなかった。



聖女?



聖女は教会にいる純粋で清らかなシスターっぽい雰囲気を纏った美少女を想像したが、何か違う。

まず、自分より頭一つ高い位背が高く、制服着ていても、鍛えられたような体格なのが良くわかった。物凄く大きい胸をしているが、胸筋なのだろうか?ただ黄色のカールされた髪と大きく見開いたような赤い瞳は少女らしく、可愛らしい。


周りの生徒達は正気に戻っているようで、皆慌てて鬘を探して着けている。似たようなものが多い中、よくわかるなぁ。ただ、状況に対しては多少混乱しているようで、キョロキョロと辺りを見回して挙動不審この上ない。


この隙に鞄を取り返す私を凝視する彼女。



何だろう?



考え込んでいると、いつの間にか目の前にかなり年配のスキンヘッドの小柄な男性が現れていて、サフィール生徒会長の頭をハリセンのような物で思い切りビシバシ叩いていた。


あ、この人多分学園(ここ)のトップの人だ。


記憶によれば、学園長ピカリン・アルシェンド三世……頭、ピカリン……なるほど。


ディリラ・ミューラートは既に手を放し、傍らで生暖かく見守っている。


『お前は……変な寸劇を仕込むとは思っていたが、やり過ぎたようだな。ディリラをここに来させてよかった。お前の魔力を相殺することが出来るからの。』


『いや……だって普段から、鬘は没個性でつまらんて言っていたじゃないですか。学園長だってかぶらないでしょ?そんな頭なのに、……って痛い。顔だけはやめて下さい。』


『余計なお世話じゃ!これは一族の慣習に従って剃っているだけだし、ワシも気に入ってるの!安心しろ。どんなに怪我しても回復治療を彼女に掛けてもらう。全く、生徒によっては深い事情もあるというのに。あー、みんな解散。各自鬘は被ったな。そうそう、あなた……。』


学園長は彼を叩きながら、指示を出す。講堂の入り口はいつの間にか開錠され、正気に戻った生徒達は帰ってゆく。自分もその流れで出ていこうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。学園長は目があった私に手招きをする。生徒会長を叩くのをやめて、ディリラ・ミューラートに引き渡してから。


『その中の魔道具を出しなさい。』


鞄を指差された。あーまたそれですか。私は無言でスマホを取り出して、皺々な手に渡した。

受け取ると、よく触り、斜めに見たり、窓から出ている日の光に当ててみたり調べ始める。


『これは何の魔道具か?全く反応がないな』


『え、と、その、わ、わかりません。壊れているので。』


『先ほど、音楽が聴こえました。耳に直接ではなく、頭に語りかけた念動でした。それも広範囲の。今は聴こえない、魔力の発動も感じないので、危険はないかと。』


サフィール生徒会長に回復魔法をかけながら、ディリラ・ミューラートは口を挟んできた。


『うーん、興味あるな。特殊素材だし……学園内に強い魔力を持つ魔道具の持ち込みは禁止だ。学園規則にも掲示されているはず。お守りと称して持ち込むものは多いがのぅ。例え壊れていても、没収……と言いたい所じゃが、初犯でもう下校時ということで、今回は不問でよろしい。持ち帰りなさい、ただ、2度目はないぞ。』


『申し訳ございません。では、失礼しますわ、ご機嫌よう、学園長。』


スマホを受け取った。サクサクと帰ろう。関わりたくないので!

出口に向かってくるりと方向転換すると、学園長に肩を掴まれた。


『そう足早く逃げる事はなかろう。』



にこりと微笑む学園長。





###########





『で……これはどうゆう状況ですか?私、早く帰れるならやることが山積みなのですが?まだ修行中の身で、暇はありません。』


『まあまあ、たまにはこうして学生同士交流を持たねばね。相変わらず余裕のない……ほれ、珍しい菓子とかもあるぞ、お茶もなかなか良いものが手に入った。あなた達もたくさん食べて行きなさい、遠慮せずに。』


『『はあ……』』



記念講堂から程なく近い建物の一室にいた。ここは学園長室。

豪華なソファーに座る私とキャストリン・デラ・ビゲンディーナ、その向かいのソファーにピカリン学園長とディリラが座っていた。

キャストリンは私が学園長に回収される時に声を掛けてきたので、ついでに拉致され(さそわれ)た。完全に巻き込み事故案件だった。緊張で震えている。ごめんなさい。


給仕をしているのは、生徒会長だ。

制服から血糊は消え、ホラーではなくなったが、笑顔がなんか胡散臭い。


『あの、生徒会長自らそんなことを……(わたくし)がいたしますわ。』


頬を紅潮しながらキャストリンは立ち上がりながらいうが、学園長は手で制した。


『彼奴には、これから罰則を受けてもらう身。これくらいの事はしてもらう。すまなかったのう。もっと早く止めておけば良かった。生徒会長に選ばれて調子に乗っているのじゃ。』


『あの、よく覚えてませんので……気がついたら鬘を取っていたのですわ。でも、髪なんて見られても大した事ありません。お気になさらないで下さい。そう思いますわよね?』


『あ、まあ、過ぎた事なので……うん。』


大した事ない……鬘取られずに済んで良かったけど、あのよくわからない寸劇にキャストリン嬢はツッコミしないのだろうかと考えながら適当に相槌を打った。

それよか、この状況どうしよう。


『でしょう!ほら、僕としては新入生のみんなを楽しませようとして企画したんだ。』


いいやそれはない。


『嫌がる人までやってどうする?取り敢えず明日までに必要な300枚分の書類整理と反省文20枚書いて提出してもらおうか?』


『えええ、そんなの家に帰れないじゃないですかぁ。』


『当たり前です。あんな騒ぎ起こして……私だって本当に暇じゃないんですよ。じい……いや学園長の頼みでなければ、ここにはいません。もういいですか?帰っても?帰ります!』


ヘラヘラしながら答える生徒会長にイライラしながら言い放ち、その場から出てゆくディリラ。


『何、あの子、生意気ね。』


キャストリン嬢が言うと学園長は心配そうに見ながら、フーっと溜息をした。


私としては、関わるのを避けた方がいい相手だと思うので、ちょっと安心。


しかし、彼女が座っていたソファーに置いてあるカードを目敏く発見してしまったので、追いかけて行かねばならなくなった。


仕方がない。







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