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学園とスマホの力その5

とにかく、逃げるのみだ。


こちらに向かってくる彼らから距離を取る。

左右からくる掴もうとする手に対して膝を曲げて屈み、隙をついて空いている場所に向かって軽い前転から瞬時に力強く駆け出す行動に躊躇いなく移す。

自分が16歳の若い体のおかげだろうか?現世での体に比べて軽く、負担がないこの身体は加圧トレーニングから解放されたばかりのようだったからだろう。

向かえ出る複数の手を高速で反応する手刀で捌き避け、隙をついて彼等の脇腹に強烈な蹴りで打撃を与えながら、鬘を庇い逃走する。その間数秒、動きは自分の想像する貴族令嬢とはかけ離れていた。


『ほう、まだ勇者がいた。楽しませてくれる。』


舞台から私を見下ろす生徒会長の存在に遠距離から意識を向けた瞬間、彼は私の後ろに立ち、鬘を取る動作をする。

頭上に振り上げられた手を左右クロスした両腕で受け止め、絡め取り、自分に向けた力を殺さずに利用することで相手の体を投げ出す事に成功した。


『まだまだ!甘い。君は高能力の持ち主か?これだけの術を駆使しても、動けるなんて期待の新人だ。嬉しいよ。』


彼は床に向かった身体を片手で支えて、後方宙返りすると、息つく暇もなく前に現れ、かかと落としをする。


『やめて下さいませ。』


既の所で避けて、距離を取るが、すぐ前に現れて足による攻撃をやめない。そして彼の手は常に自分の鬘を取ろうと迫ってくるので、手でかばいながら、身体を大きく反して避けたり、強烈な拳打で対抗する。生徒会長の動きが速過ぎるため、まるで残像を相手しているようであり、身体能力で圧勝している彼にとっては幼児を相手しているのと同然だろう。


悔しいなぁ。


こちらは息を荒くして、必死であるが、避けるだけで精一杯であり、時々隙をついて体に向けて打ち出す拳も届くことすらない。疲労は蓄積する。


『もうそろそろ、限界じゃないですか?』


『くぅ……生徒会長が暴力振るっていいんですか?教授に言いつけますわ。』


『今更、それですか?大丈夫ですよ。記憶の書き換えなんて、ダンスするより、簡単です。まあ貴方の場合はかかりが悪いようだから、特別身体の隅々まで僕の魔力を満たして上げる。それこそ、僕に跪いて、僕なしで生きていられなくなるほど念入りにね……。首輪をつけて、飼ってあげますよ。』


『変態っ!!!』



ぞっとしなら抵抗するが、避けて移動した先が壁際の所に気がつかない間に行き着き、とうとう追い詰められた。



『チェックメイトだ。がんばったねぇー。』


『やめて。誰か。』


周りの人間はヘラヘラと笑いながらこちらを見ているだけだった。彼らは正常ではないので、無駄か……。

とうとう身体を掴まれ、鬘を外そうと、手を伸ばした。彼の勝ち誇ったような表情が悔しい。


嗚呼、何か何か何か何か何か何か無いか?


頭の中で思い詰めて考える。魔法でも使えればいいのに。

ギュッと目を瞑り、抵抗虚しく髪が晒されそうな瞬間、音が出てきた。


え……、あれ、これは。


『何だ、この音楽は?』


聞き覚えのある音楽配信サービスで買った歌だった。

何で、こんな時に?

しかも大音量で。

好きなアニメの主題歌だった。せめて、クラシックとかあるのだから、そちらが流れればいいのに、非常に残念だ。

彼は、動きを止め、その音楽が聴こえる方向に足を向ける。

床に放り出したままで忘れていた学生鞄だ。拙いーーーー!

私はそれを阻止したいが、疲労で身体が動かない。


『……魔力の発動。この中に魔道具があるな。』


ニヤリと笑う生徒会長。

また、取られるーーーーー!!


彼が持った鞄の中に手を入れた瞬間、私の脇から青い靄が風のように素早く通り抜け、そばにいた彼の全身を覆った。


その靄の実体がなくなっていくと同時に人間が現れていた。彼を抑える気の強そうな少女が。


『いい加減にした方がよろしいですよ。』


それが、ディリラ・ミューラートとの邂逅だった。







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