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学園とスマホの力その4

集合場所に指定されたアルシェンド記念講堂は通常魔法や剣の訓練、様々な催しを行なっている複合施設だ。

この学園の創立者、アル・アルシェンド生誕100年を記念して建てられたという由緒正しい設定の場所で行うのだから、まさか、変な事はないだろう。

私は、声を掛けてくれたキャストリン嬢と一緒に訪れた。あまり気乗りはしないが、仕方が無い。これからの学園生活を円滑にするために。


今日は、新入生の歓迎会的な何かでもするのだろう。

そう、思っていた。


甘かった……。


私を含め、大勢の生徒達が立って見守る中、広い舞台には、一輪の薔薇によく似た花が置かれていた。


突然、周りが暗くなり、生徒達が騒ぎ出す。何の演出か?


闇から、ボウッという音と共に炎のような揺らめきのある光の中からサフィール・モル・リンストは現れた。

肩まで伸びた癖のないサラサラな赤い髪を目の前で出している時点で、とても癖の強い人物ということが図れる。

眉間に青い宝飾品をつけ、切れ長の目が特に妖艶な美女のようであったが、体格はとても大きく、お父様に近いスタイルのせいで、男性だということが辛うじてわかるジェンダーレスなお方だ。

この学園の男子は、学園紋章が刻まれたボタンが印象的な黒の学ランによく似た制服を着ているのだが、彼はその上に白いマントを重ねていた。


怪しさ満載です。


ちなみに女子は、セーラー服によく似た制服で、スカートの丈は短めだった。

髪はほぼ銀髪で、顔は洋風……違和感すごい。


きゃーっと女子の悲鳴が聞こえる。アイドルの声援か?


彼はゆっくりとその床に膝を屈めて、花をそっと取り、口に当てる。


『ああ、美しい花をこうして愛でることが出来るのは、喜ばしい事だ。平和なこの日に憂なく日々を過ごせるのも、我が国1人1人の民の弛まぬ努力、国を支える精神、同志の友愛がそれを可能にしているのだ、そうは、思わぬか?可愛いあなた?』


『はい……』


自分の頭にスッと言葉が入ってくる。マイクのない異世界ならではの卓越した魔法だろう。ただ私が体感した頭に直通の言葉がくるのとは、若干違うみたいだが。


ゆっくりと歩いて、舞台の下にすぐいた女の子に花を渡す。

女の子は頬を紅潮させ、すっかり彼にのぼせているようだった。


『入園おめでとう。私はサフィール・モル・リンスト。生徒会を統べるものである。ここでの3年間が有意義であるように、その心得など伝授したい。学園内での規則として……』


舞台の端から現れた数人の男の子達が剣を片手に、じりじりとこの生徒会長に後ろから近づいてくるのが見える。

気がつかないような彼に皆一斉に掛け声と共に斬りかかる。

彼は抵抗せず、次々と体を斬られ、吐血し、体をふらつかせながら倒れる。


うぁぁぁ、演出だよね?せめてそこは戦うかして欲しかった。


講堂がシーンとしてしまう。切り掛かった少年達の剣に大量の血糊。倒れて動かない生徒会長さん。やけにリアル。


女の子達がきゃああと恐怖の声を上げるが、会長さん、すぐにむくりと顔を上げる。そして、演技っぽい足取りで立ち上がる。


あ、やっぱり演出ですか。すごくホラーで気持ち悪いんですけど。


『フゥ…… 僕としたことが油断してしまった。いつ、斬られるかもわからない日常。今の学園生活を象徴しているかのようだ。危険だ。これでは我々は安心して学ぶ事は出来ない、どうしたら良いのだ?この世は絶望しかないのか?貴族と平民はわかり合えないのか?僕に出来る事は、身に付けた魔法だけ……』


彼は悲痛の面持ちでこちらに問いかける。


『そんな事はないです。』

『頑張ってください。』

『貴方が必要です。』


何処から、声が聞こえる。サクラ……


『ありがとう諸君。そうだ。僕が陰陰滅滅たる気持ちに浸る時ではない。お互いの仮面を脱ぎ捨て、愛し合えば、そこに救いがある。君達が僕に対して犯した罪を全て許そう。君達はきっと抑制されているからである。あらゆる習慣、厳しい規則、若い僕らにとって不必要。例えば、そう……鬘だ。こんな鬘など必要ない。本当の自分を解放するには、このような物は要らないのだ。みんなで脱げば怖くない。』


彼は先程の様子とは変わり、意気揚々になり、マントを右手をかざして翻した。


『そうです。いりません。』

『ああ、解放的だ。』

『みんなで脱げば怖くない。』


彼の周りにいた少年達は、剣を投げ捨て、自分の鬘を掴み、乱暴に脱ぎ捨てる。

地毛が露になり、様々な髪色……中にはスキンヘッドもいる。


『みんなで脱げば怖くない。』


そこにいる生徒達は大合唱しながら、鬘を外す。

異様な光景だった。


『さあ、貴方も、こんな鬘を取りましょう。』


私と共にいたキャストリン嬢は自らの鬘を外し、美しい赤褐色の長い髪を露にする。

嬉しそうに鬘を投げ捨てた様子と目が爛々と輝いて興奮しているような表情は怖いものがある。

普通ではない。よく見ると他の人達も同じような状態だ。


鬘を外したくない。私は危険を感じてその場を離れて講堂の入り口に急いで駆け寄るが、ドアは強固に施錠されているのか開かなかった。

力いっぱい引くがビクともしない。周りにいて、鬘を外している人達がニヤリとしながら近づいてくる。


お、襲われる?







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