学園とスマホの力その2
私は、怒りの表情で、自分の前に立つ少年を見つめた。
鬘ではない金髪、顔はよく見ると整っている……かな?ええっと誰でしたか?ここで、誰とか聞くのは流石に失礼だろう。
『え、あ、申し訳ございませんでした?』
ここは一つ、取り敢えず謝っておく、ザ・日本人。要するに、面倒くさい。
『殿下に対して、失礼だろう、全く。』
『椅子に座りながら、謝るなどと、こやつ、舐めていますな。謝罪の気持ちが足りません。』
『……まあ、良いわ。こやつの立場は仮のものだが、評判をあまり貶めてもこちらもあまり良いものではない。』
少年は二人の手下?を従えて、尊大に言う。
殿下、殿下……って、あー?リーヴィ王子様だわ。地味だから、気がつかなかったぁ。と、いうか会った時はほんの数分だったし、距離があったし、覚えてろという方が無理。っていうかよくこちらに気づいたな。
拙いか……。もっと、謝っとけ。
『失礼をいたしました。お立場を弁えずに。』
何が悪かったのかわからないが、ここで聞いても更に立場が悪くなるだろう。立ち上がり、膝を曲げて跪礼をした。
『もう良い。これからは、朝、我を追い抜かす事のないようにな。』
多分、朝歩いている時に、私は早歩きで追い越したからか……うわっ面倒くさっ。そういえば、挨拶だけ軽くしたような気がする。
『勿論ですわ。殿下はこちらの組にお入りになられたのですか?』
『いいや、光の組だ。』
『もうそろそろ組にお戻りになられた方がいいですよ。こちらの教室から距離がありますし、初日から遅れると評価に影響があると聞きます。』
早く、帰れと言ってみた。
『まだ、大丈夫だろう。それより、それは何だ?見たところ魔道具か?』
机の上にあるストラップ付きスマホを見つめる。
あ……ヤバイな、まさか……
『我に献上せよ。』
『いや……この魔道具、壊れてしまっていて、殿下に献上できるような代物ではございませんわ。』
『見た事のない形だ。……気に入った。構わぬ。』
『殿下の御命令に逆らう気か?』
『立場を弁えろ!』
私はスマホを握りしめた。この●ャイアンめーーーーー!
動かないと言っても、人にあげるのは困る。主に現世の私が困る。この携帯、最近買ったばかりなんだよ。何か方法はないか?何か?
ううっ……
突然、机に顔を伏せて、呻き声をあげた。
王子と腰巾着達は体をビクリとする。
私は息を止めて、賢明に涙を出す努力をした。もうこれは必殺泣き脅しをするしかない。ガバッと顔を上げて、はっきりと言葉を口にした。
『殿下、これは差し上げる事は出来ません。ええ……これは……形見、形見ですわ。亡き母の形見です。』
『え?お前の母は存命の筈だが?』
『今の母は義理で繋がりは御座いませんの。数年前に亡くなった母が生前に私のお守りとして残してくれたもので、ああ、母が体の弱い私のために、夜鍋して……うう』
『夜鍋……とは?』
あ、いけない、わからないか(笑)
もうすぐ授業が始まるので、教室には人が集まりつつあり、超大袈裟に泣いて見せた(泣いてない)私は注目された。さあ……バツが悪いだろう。
『……わかった。もう良い。』
『全く不敬な。』
『泣くなど、卑怯な。』
3人は、そそくさと出て行った。
フウー、婚約破棄まっしぐらといった感じだが、スマホを取られてしまうよりは良い。
周りの人間に哀れみの眼差しで見られたが、当たり障りなくほっといてくれるようだ。ありがたい。
……授業前になんか疲れた。
スマホで授業を録音とかできれば楽なんだけどな。
私は、ふと何気なく、両手の人差し指と親指を使って手前に四角を作ってみた。よく写真家とかがやるポーズだ。
ふふ、気取り屋さん。記念に写真でも撮れたらな。
その時、パシャリと音がした。
え?
スマホの表面の一部に小さい赤ランプが一瞬点滅したのが見えた。
え?まじ?
もう一度、やってみる。
パシャリ。
今度は、長く。
パシャパシャパシャパシャッ。
目立つか?音……周りは気にしてないように見える。私だけに聞こえるのだろうか?
教室は大きな講堂で、音も響き安い。私は目立たないように比較的後ろの席に座っていた。
前方に大きな黒板があり、やがて紫色の髪の青年が本を抱えてやってきた。
『今日から、このクラスの担任のオーガスタ・シリコーンです。』
切れ長の瞳に青い縁のメガネがインテリ風の美形だ。スタイルも悪くない。
まったく、この世界は美形だらけなのか。
私は両手を彼に向けて、パシャリとやった。