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異世界その6

『花籠の花籠?』


『そう花籠の花籠』


(わたくし)が不思議そうに、カクンと首を傾けると、少年は早口で喋り出した。


『だって、そうじゃない?ここは花籠(パニーニデフルール)と呼ばれているけれども、この別荘全ての花や木、まあ、ヘルムタール全体の新しい草木の品種改良、様々な肥料を使った効果検証、治験などがこの小屋で行われているのだからね。お嬢様はご存知ない?』


『いいえ、知りませんわ。』


『……そうですよね。ここに来てるのが不思議だと思う位ですもの。あー、こんな感じにね。』


少年は、そばに落ちていた小さな籠を拾ってから、カウンターテナーのような声で歌い出すと、周囲の空気が乱れ始め、草木に実る種子が吹き飛ぶとそれは芽が出て花が咲き、ゆらゆらと籠の中に収まる。美しい紫の花だ。


『花籠の花籠の花籠だよ。』


『すごい、魔力ですわ。楽しい。』


『そう、良かった。気に入ってくれて。』


少年が籠の中から一際大きい花を一輪差し出した。一番綺麗なものをくれるようだ。


素敵な子。ここの従者だろうな。それにしては幼い感じだけど。


手を出そうとすると、頭の中でささっと文章が浮かんだ。

 



ーサムソーニアは、少年の手を強く叩き、花を地面に落とす。

[そんな汚い手で触れないで頂戴。これから王様との謁見があるのよ。無礼者]

落ちた花を靴底でぐちゃりと踏みつける《設定10秒後》ー




あー、わかる。確かに彼の手、汚れているわ。でもまだ綺麗にする時間ぐらいあるわよね。

こんな可愛い子の手を叩くなんて……私はショタコン(笑)


叩きたいのを我慢しながら手を差し向けると受け取る寸前で彼は花を手から離した。


『あ……』


思わず拾おうと床に屈む私に少年の手は私の頭に触れる。


『あ…私の髪が……』


パコンと鬘から音がする。魔力解除の音が……


『素敵な髪だ。妖精の緑。しかもとても深い。』


嗚呼、簡単に外れるはずもない鬘が取れて、私の緑の髪が顕になってしまった。新鮮な空気に触れ、生き生きとする髪を少年は嬉しそうに触れた。緩いウェーブの髪は小屋の窓から入る日の光に当たり、キラリと発光する。


『なんて事を!私の鬘を返してよ。……この馬鹿。』


触れる彼の手を叩く。そして、鬘を取ろうと掴み掛るが、少年は後ろにスッと引いた。


完全に面白がっている顔だ。クゥ~屈辱。悔しい。



『砕けた言葉遣いだね。伯爵令嬢が。髪は美しいのだから、そのままがいいのに。それには魔力がたくさん詰まっているようなのにね。』


『貴族で……この髪のことを悪く言わない人はいないわよ。』


『僕は好きだけどね。……もう意地悪はしないよ。美しいお嬢様の鬘姿も悪くはない。貴族は揃いも揃ってみんな銀髪だな。個性が欲しいね。』


彼の手から鬘を取り返す。あーもう、最初からシナリオ通りに引っ叩けば良かった。


『そろそろ、大丈夫なの?時間?今日の予定?』


焦って鬘を被る私に彼は明るく言う。


あーーー、戻らないと拙いわ。


『これ、あげる。』


左耳脇に紫の花を差す。自然の髪飾りだ。


あ、なんか恥ずかしい。

ん、もうこんな事でごまかされないわよ。


花に触れて、顔を赤くしながら少年を見ると彼はニコニコとしながら手を振っていた。


可愛いなぁ、天使みたい。


いつまでも見つめていたい気持ちになっていたが、いや、ヤバイ、そろそろ帰ろう。


戻ろうとして小屋のドアに手を掛けた時、ふと思って口に出した。


『あなたの名前は?』


『トライオート。メルト・トライオートだよ。またね、サムソーニア・モル・シェルダンテール伯爵令嬢様』





###########





……ニア…!


………ンンンン。


サムソーニア!


……五月蝿いなぁ


サムソーニア!!


お父様に両肩を掴まれて、身体を激しく揺さぶられていた。

いつの間にかこの部屋に戻ってきたらしい。

なんか……頭がぼんやりする。

お父様は、私の頭から、何かを摂って自分のズボンのポケットの中に素早く仕舞い込む。


『……帰ってから、話を聞くからな。それより、今は、このままだと不敬に当たるぞ。フォンティーン!』


お父様はまだ、怒りの表情だったが口角だけは上がっていた。お母様は呼ばれると気怠そうに長椅子から立ち上がって、私に近づいた。


『こんなに汚れて。全くはしたない。ただ、今は文句いってる時間はありませんわね。』


私はこの時初めて、ドレスの裾や自分の手が土で汚れているのに気がついた。

幸い、今、この部屋に従者や侍女達はいない。


『手は、さっき侍女に持ってこさせた水で十分。服は、風魔法で誤魔化そう。今のうちにやれ。』


『フウ……面倒。目を瞑りなさいな。』


目を瞑った私の横でお母様は小さく囁き、魔法を発動した。見えない状態で強い風が私の体に体当たりしてくる感じで、正直怖い。だか、見事にドレスは綺麗になった。軽く乾燥したような土だから、生地まで汚れが浸透していないのが幸いだった。手の汚れは魔法ではなく地味に洗った。


あら?(わたくし)はいつこんなに汚れたのでしょうか?



その後無事にリーヴィ王子との婚約は結ばれたが、記憶がはっきりと定まらず、儀礼の対応も完璧だったようだが、何かすっきりしなかった。


あ、まだ破滅してないわ。よしよし(笑)。






私と(わたくし)と言うのは、主人公が転生先の人格と現世の人格が入り乱れているためです。


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