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非リア充の男子高校生が異界から来た観葉植物とイチャつく話  作者: 武藤一光
第2章

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7/28

第7話 その日、晴太は紛れもなくリア充だった

 夏休みに入ったばかりのある日のことである。

 晴太は電車を乗り継いで隣県のとある大型イベントホールまで来ていた。本日開催されているインペリアル・コードのイベントに参加するためである。

 イベントの内容は主に各種設定資料の展示やトークショー、サイン会などである。

 ゲームの人気を体現しているというべきか、会場には多くの人が詰めかけていた。その客層の多くが恋人や友達同士などの仲間内で来ており、場内のあちこちでは楽しげな会話が聞こえてきていた。

 そんな中で晴太は独り、黙々と展示を見て楽しんだ。

 佐藤や他のクラスメイトたちとは単純に都合が合わず、また本命の島谷もコンクールまで残り数日と迫った部活の練習に手が離せず、ましてやゆきをこんな人混みのなかに連れてくるわけにもいかず、ゆえの独りである。

 しかしこうしたイベントに初めて参加する彼にとっては、例えボッチであっても、目に映るものすべてが新鮮で飽きることはなかった。

 会場に入ってから、晴太は何枚写真を撮ったか覚えていない。

 トークショーでは流石に撮影は出来なかったが、ゲームスタッフによる貴重な開発秘話など、後でゲーム仲間たちに自慢出来そうな話を数多く聞くことが出来た。

 そして物販コーナーにて彼が今日ここに来た一番の理由である、島谷に頼まれていたグッズを抑えた瞬間、彼のスマホにメッセージが入った。

 差出人は島谷である。


『こっちは今練習終わったとこ。よかったらこれから会えない? イベントの話、色々聞きたいな』


「まじかよ」


 晴太は思わず声に出してしまった。

 島谷とは頻繁にメッセージのやり取りをする仲になったとはいえ、こうして個人的に会う約束をしたことはなかった。

 彼女からグッズの購入を頼まれた時点で、この夏休み中にどこかで会うタイミングはあるかも知れないと勝手に期待してはいたものの、この申し出は彼にとってまったくの不意打ちである。

 驚きはしたが、当然断る理由もなく、流れのまま学校の最寄り駅で待ち合わせをすることにした。

 そして約一時間後。

 帰宅ラッシュで賑わう夕暮れの駅の広場にて、晴太はそわそわしながらその時を待ち侘びていた。


「だーれだ?」


 柔らかい女性の手の感触とともにふと彼の視界が遮られた。

 甘く優しく、それでいて大人の色香の漂う声。

 言うまでもなく、晴太がその相手の名前を間違えるはずがなかった。


「し、島谷せんせっ!?」

「正解。よくできました」


 振り向いた先にはニコニコとした笑顔で立っている島谷がいた。

 黒のタイトスカートにボディラインがくっきりと見える半袖の白ワイシャツ。まさに働く大人の女性の夏服という風貌であり、彼にとっては女神以外の何物でもない。

 しかしいくらなんでも挨拶代わりにいきなり背後から目隠しをしてくるなど、純情な男子高校生にとってはいささか刺激が強すぎたのかも知れない。

 晴太は顔を真っ赤にしながら、リュックからグッズの入った袋を取り出した。


「あのっ、これ。頼まれていたブツです」

「ありがとう。お金は当然払うけど、その前に今日の分の埋め合わせをしなきゃだね」

「え……?」

「ご飯くらい奢らせてよ。なにが食べたい?」

「え、そんな悪いですって」

「いいからいいから」


 島谷にリードされるがまま、晴太は彼女と二人、肩を並べて繁華街を歩き始めた。

 島谷の機嫌は明らかに良さそうである。

 彼女の性格上、決してここから不純なシチュエーションに発展することはないとは分かっていながらも、それでも彼は思わずにはいられなかった。

 これではまるでデートみたいである、と。

 島谷の方からいくつか店の候補を提案された後、晴太は結局普段から佐藤たちとよく行くファミレスに入ることを選んだ。

 理由としてはあまり値段が高い店だと申し訳ないというのと、あまりお洒落な雰囲気の店だと落ち着かないからである。


「なんでも好きなものを遠慮せずに頼んでね。今日は私の奢りだから」

「あの、先生。今日はなんだか機嫌良さそうですね」

「まあね。部活の演奏も仕上がりが見えて来たし、こうして無事にグッズも手に入ったし。それに、今から君の口から今日のイベントについて鮮度の高い話も聞けるしね」

「なるほど、それが目的ですか」


 なんでも好きなものをとは言われたものの、彼にはこの店の一番人気でありながら一番値の張るステーキと口にする度胸はなく、そこそこの値段でそれなりに美味しいハンバーグランチを注文することにした。

 料理を待つ間も二人の会話は続いた。

 最初は緊張してろくに発言できなかった晴太も、やがて話題が今日のイベントの話になると次第に饒舌になり、気付けば熱を入れて語っていた。


「えっ、舞台で声優さんたちが集まってボイスドラマ的なことやったの!? じゃあ時雨さんあれやった? 魔界剣士ムサーシの決め台詞」

「ありましたよ。最後はほんとに会場中が凄い拍手で」

「いいな。行きたかったなあ。猫田さんのサイン会もあったんでしょ」

「いやあそれがサイン会のときは本当に緊張して。イラストレーターの猫田さんは見た目ちょっと小柄な普通のおじさんって感じで、気さくに笑ってくれて……」

「ふふっ」

「どうしました?」

「いえ。やっと広橋君の本性が少し見れたかなって思って」

「本性、ですか?」


 急に変なことを言い出した島谷に、晴太は思わず聞き返した。

 島谷は柔らかい表情で晴太の口元あたりを見つめていた。


「ほら、広橋君って普段学校では大人しくて控えめなのに、スマホの中だと結構テンションが高いじゃない。最初はちょっとびっくりしちゃうくらいに」

「まあ、自分でも多少ネット弁慶なところがある自覚はありますが」

「自覚はあるんだ。まあでも、職員室に乗り込んでいきなり私に話があるって言ってきたあのときの君ほどじゃないけどね」

「いや、あのときはその……」


 晴太は言えなかった。

 危ない薬ばりのゆきの葉の力で、そのときだけ一時的にイケイケになっていたことなどは。


「君って本当に面白い子だよね。私ね、実をいうと最近の君とのやり取りが楽しみで仕方ないんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「そう。なんだかんだ一人でゲームをしているときとはモチベーションが全然違ってくるっていうか。どんなに忙しくて疲れていても、毎日君と一言二言、言葉を交わすだけで元気が出てくるし頑張れる。趣味仲間ってやっぱり大事だね。今のとなってはあのとき君の誘ってくれたこと、本当に感謝しているよ」

「いや、なんていうかその、そう言ってくれるなら光栄です」

「広橋君。あらためてこれからも私と秘密のゲーム仲間でいてくれるかな」

「も、もちろんです!」


 その後運ばれてきたハンバーグランチが晴太にとってこれまで感じたことのないくらいに絶品であったのは言うまでもない。

 晴太と島谷はしばらくの間イベントやゲームの話で大いに盛り上がり、その時間はあっという間に過ぎ去った。


「じゃあ今日はこれで。気を付けて帰ってね。次に会うのは多分二学期になると思うけど、いい夏休みを」

「はい。またメッセージ送ります」

「うん、楽しみにしてる」


 駅の改札口で小さくなっていく彼女の背中に、晴太はいつまでも夢見心地で手を振っていた。

 思った通り、健全な範囲を逸脱しないまま彼女との一夜は終わったが、彼にとってはそれで十分過ぎる経験だった。

 そして同時に、彼は決して忘れてはいなかった。

 彼女とここまでの関係になれた一番の立役者は誰であるかということを。


「これもすべてあいつのお陰だし、ここは一ついつもよりも上等な肥料でも買ってってやるかな」


 晴太の帰りは予定よりも大幅に遅くなっていた。

 夏場は朝夕二度水をやるのが彼の日課だが、当然二度目の水やりは出来ていない。それでいきなり枯れたりすることはないのだが、彼の予想通り、ゆきは葉を垂らしてぐったりしていた。


「ただいま。今日はお前に話すことがたくさんあるな、写真もたくさん撮ったし。でもその前に」


 晴太は自宅付近の自販機で買ってきたばかりの冷たいミネラルウォーターをゆきに振りかけた。

 ミネラルウォーターは栄養価が高いのでやり過ぎると植物の調子を逆に損なうこともあるが、ここぞというときには最高のご褒美となる。

 ゆきの葉は瞬時に立ちあがり、茎は地面に対して気持ちの良いぐらいに垂直になった。


「じゃじゃーん。見ろゆき、こいつが今日の戦利品だ。それと今までの色々と感謝の気持ちを込めて、新しい肥料を買ってきました」


 晴太がリュックから取り出したのは先程購入した肥料と、ゆきのお気に入りキャラ、デンジャラスローズのグッズだった。


「はは、すげーリアクション。そんな嬉しかったのか、お前」


 彼は机に座ると、即座にゆきに今日のイベントの内容を話聞かせた。

 それは島谷に夕食で話した内容と丸被りのものであったが、盛り上がるポイントは全く違っていた。

 その日、晴太の高校最初の夏休みで最も充実した一日は、嬉しそうに全身を揺らすゆきのリアクションによって締めくくられたのだった。


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