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非リア充の男子高校生が異界から来た観葉植物とイチャつく話  作者: 武藤一光
第3章

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第13話 暴れる中二集団と晴太たちの結論

「たのもう!」


 てふてふの小さな足袋が自動ドアの内側へと進入した。

 見張り役と思わしき黒スーツにサングラスをかけた構成員が、彼女たちを呼び止めた。


「あ、なんだオマエラ。ここが何処だかわかってンだろうなァ?」

「知っているさ。悪名高き徳川組の事務所だろう? 我々はにんにんマーケット。警察に代わって悪さが過ぎるあんたらをシメに来た。危険な薬物を押収するついでにちょっと痛い目を見て貰うぞ」

「なんだと? ガキがイキリおって」


 構成員とてふてふが問答する間にも宵闇の足元から再び黒霧が発生し、みるみるうちに玄関フロア全体に広がっていく。

 これには場数を踏んでいそうな暴力団構成員もさすがに慌てたのか、二三歩後退りして背広の内ポケットから拳銃を取り出し構えた。


「なんだこりゃ毒ガスか!? 早く止めねえと撃つぞ!」

「安心したまえ。これを吸っても人体に害はない。わたしらはいいが、今回は一応ゲストがいるからね。彼の素性を隠すためと、まあこちらの方が忍者の奇襲としての雰囲気が出るんでな」

「なにが忍者だコラァッ!!」


 パァン。

 いきなりの発砲から戦闘は始まった。

 てふてふはなに食わぬ顔で向かい来る弾丸を懐から抜いた小刀で一刀両断した。

 と、ほぼ同時に鬼灯が強襲をかけ、鞘で構成員の頭を容赦なくぶっ叩いた。

 その一撃により構成員は呆気なく気を失った。やはり両者の間で戦闘力には天と地ほどの差があるようである しかし、一難去ってまた一難。

 次々と降りてきた見るからに武闘派な構成員たちであっという間にフロアは満たされてしまった。


「うわぁっ!」

「ぐぅふっ!」

「どぅわぁああっ!」


 晴太の耳に野太い男たちの悲鳴が立て続けに入ってくる。

 暗闇の中、彼が辛うじて目で負えるのは各々の動きであたかも無双ゲームのように構成員たちを倒していく社員たちの朧げな影のみだった。

 てふてふは徒手空拳で蝶のように舞い蜂のように刺し、宵闇は広い袖口から繰り出した鎖のようなものを自在に振り回し、鬼灯は流麗な剣捌きによる峰打ち攻撃を繰り返し、そして月影は得意の起爆札で近づくものすべてを豪快に吹き飛ばしていた。

 皆物凄く個性的で、誰も彼も物凄く強い。

 そしてなにより彼にとって印象的だったのは、戦闘中の彼らが見せる生き生きとした表情だった。


『そしてなによりこの仕事は君にとって、他の普通の仕事にはないやり甲斐に溢れているはずだ。どうだ、やってみないか?』

『楽しいわよ、この仕事。あなたも特別な存在でいたいなら飛び込んでみることをお勧めするわ』


 彼の脳内に、先日のてふてふや鬼灯の言葉がリピートされる。

 特別な力を持った者たちがこうして手を取り合い、我が物顔でその能力を遺憾なく発揮する。

 それが如何に爽快で、気持ちの良いものかは彼にも容易に想像することが出来た。


「すまん小僧。そっちにいった」

「えっ、あわわっ。ゆきっ!」


 晴太が慌てて叫んだときには既にゆきは縄のように縒り合わせて太らせた枝で、向かい来る構成員を殴る体勢に入っていた。

 バコッ!


「ぬぅうわあああああっ!」


 二メートル近くはあるスキンヘッドの男の体がピンポン玉のように弾き返され、壁に背中を勢いよく叩き付けた。

 その様子に晴太は引いたが、同時にちょっぴり爽快感も感じていた。

 その後もゆきは向かってくる構成員たちを次々と殴り倒し、その強さを見せ続けた。

 バコッ! バコッ! バコッ!


「ゆき、お前……」


 晴太の目にはそのときの相棒の姿が、自分も彼らに負けていないと言い張っているようで、なんとも楽しそうに見えていた。



 * * * *



「ミッションコンプリート。まあざっとこんなものかな」


 てふてふはポンポンと手を叩き、まるで一仕事終えたサラリーマンのように満足気な息を吐いた。

 ビル内の構成員たちをすべて気絶させ、隠蔽されていた危険薬物をすべて押収。それらが完了するまでに掛かった時間はおよそ一時間。

 その間、晴太含め社員の誰かが危なくなるようなことは一度もなかった。


「さて晴太君、さっそく今日の体験会の感想を聞かせて貰おうか」


 高速道路を快調に飛ばす帰りの車にて、てふてふは晴太に尋ねた。


「えっと。お陰でたいへん貴重な経験をすることが出来ました」

「そうだろうそうだろう。わが社に入れば退屈しない将来は約束できると思うが、気は変わったかな?」


 すると晴太はゆきと目を見合わせ、お互いの意志を確認した後に口を開いた。


「いいえ。やっぱりお断りします」


 鬼灯がすぐさま頬を膨らませ、不服そうに口を挟んだ。


「ちょっ、なんでよ!」

「こら紅ちゃん、彼の意志は尊重するものだよ。一応、理由を聞こうか」


 晴太は自らの考えを整理しながら、ゆっくりと語り始めた。


「あなたたちが悪い人たちじゃないことはなんとなく分かりました。ですが正義の為とはいえ、やはり自分の判断で法を超えた手段を平気で取れてしまうのは危険だと思いました。それに、俺は十年前にゆきを譲り受けたときからこいつの能力を多用しないと決めています。確かにそちらに入れば面白可笑しい人生が送れるかもしれません。でも俺はゆきと二人で静かに暮らせればそれでいいんです」

「なるほど。君は鋼鉄とは違うみたいだな」

「その、すみません……」


 てふてふは一瞬だけがっかりしたような、寂しいような顔を見せた。

 しかしすぐにいつもの飄々とした雰囲気に戻ると、名前の書かれた小さな紙を晴太に手渡した。


「いいだろう。そこまではっきり言われたんじゃこちらもこれ以上のことは言わないさ。一応わたしの名刺は渡しておくから、気が変わらなくてもなにかあったら気軽に連絡してくれ。親戚として、力になれそうなことなら喜んで相談に乗ろう」

「ありがとうございます。それでその、模型の修復のほうは」

「もちろん任せておいてくれ。明日の朝、君が登校するまでには完璧に元通りにしておこう」


 てふてふはにこやかに笑って締めくくった。その笑顔の可愛らしさに、晴太は成長したら鋼鉄が落ちるほどの美人になるのも頷ける気がした。

 そして翌日、晴太が誰よりも早く登校して様子を見に行くと、模型は見事元通りの状態に戻っていた。

 昨夜確かに切り離されていた首と胴体の繋ぎ目は間近から見てもまったく分からず、それでいて学生の手作り感もそのままにしたまさに完璧たる修復ぶりであった。

 晴太は彼らの仕事ぶりに静かに拍手を送ると同時に、胸を大きく撫で下ろした。


「どうしてかしらね。私はいまだにあなたの選択に納得がいかないわ。今までのように淡雪草のことを周囲に秘密にしながら一人で抱え込むより、事情を知る仲間と一緒に適度にイキイキと暮らすほうが楽しいと思うのだけど」


 晴太に声をかけたのは鬼灯だった。

 例のごとく彼女は気配を消し、彼の背後に腕組みをして立っている。


「俺とゆきの世界はもう完成してるんだ。って言ってもわかんないと思うけど、とにかくそういう選択をするのが俺という人間ってことで納得して貰えないかな」

「私にゆきちゃんの心は読めないけれど、昨夜巨漢を殴り飛ばしまくってたときのあの子、楽しそうに見えたけど?」

「ああ。それについては俺も後でちゃんとゆきに聞いたよ。そしたらあいつ、俺がてふてふさんに色々振り回されてたせいでストレスが溜まってたんだと。で、あいつの意思もやっぱり俺と同じでそっちの仲間には入らないってさ」

「ふーん。ま、そういうことならそれでいいわ。だけど広橋くん、たとえあなたが私たちの仲間に入らないとしても、あなたが淡雪草の力を扱えることには変わりないわ。よって今後もあなたの監視は続けさせて貰うわよ」

「え? いやだって、俺がゆきの力を悪用したりはしないってそっちの調査で分かったって」

「あくまでもこれまではね。でも人の心は移り行く。十代後半の多感なあなたがなにかの切っ掛けでグレて闇に染まらないとは言い切れないじゃない」


 晴太は思わず渋い顔になり、鬼灯の顔を見た。


「あんまり露骨に授業中に睨んでくる頻度は出来れば減らして貰いたいんだけど」

「……まあ、善処するわ」


 鬼灯は格好つけなのか、髪をかき上げながら言った。

 そしてこれが晴太と鬼灯が教室にて二人きりで交わした最後の会話であった。

 無論、最後といってもなにもどちらかが絶命したという意味ではない。その後も晴太は鬼灯からの視線を時折感じはしたが、人畜無害な彼が彼女の手を煩わす問題を起こすことは半年経っても一年経ってもなく、そのうちに視線自体もなくなっていった。

 そして気付けば最上学年。

 高三になった鬼灯は裏の顔を隠しながらも持ち前の明るさと人当たりのよさでクラスのアイドルから学校中の人気者へと上り詰め、バラ色の学園生活を謳歌していた。

 一方の晴太はというと、相変わらず平凡な一男子高生のままであった。

 その頃には晴太の中でのにんにんマーケットの存在も薄れ、ゆきと二人だけだった頃の日常にまるっきり戻っていたのだった。


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