大切なモノは何か見定めていますか?
【11/17。今日も1日が終わる。さらば私の青春。誰も祝ってくれない、最悪の20歳の誕生日。】
日記にはそれだけ書く女性。
名は恵美子。
静けさのなか、彼女は深いため息を吐く。
1ルームの7畳しかない部屋のなか汚さが目立つように勉強机の上には開け放した鞄をどかっと2個。
A4ファイルや筆箱などの中身が少し出ている。
今晩の夕食のクリームシチューのお皿もテーブルの上に置いたまま。
成人したばかりの恵美子はどっしりと上半身を布団の中央に寝そべでているが、足は軽くぶらつかせていた。
深いため息がまた出る。
左腕で両目を隠し、涙が溢れるのを必死に
とめている。
(なんで?何で誰も祝ってくれないのよ!)
恵美子は、そう思いをはせながらひっくひっくと2、3涙を耐えきれずこぼした。
(由美の時だって彩加の時だって祝ってあげたのに……私だけ祝ってもらえない。寂しいな)
左腕の腕時計は、23:40を指している。
恵美子の寂しい20歳の誕生日は過ぎようとしていた。
チッチッチッ……
時計の針がうるさく聞こえる気がする恵美子。
目を覆い隠しているせいなのか?
気になってしかたがない様子だ。
右手にはスマートフォンがぎっしり握られている。
誰か祝いのメッセージが来ることを祈りつつ。
年齢=彼死なしを卒業出来ずじまいだったことを後悔する恵美子。
(どうせなら、遊び呆けていた方がよかったのかな)
そんな事を恵美子が考えていると時計は23:50になろうとしていた。
ブーブーとバイブ音がなる。
すかさず、スマートフォンを見る恵美子。
だが、来たのは広告メール。
期待に期待しただけに左に横になる恵美子。
チラチラとスマートフォンは見る恵美子だが、0:00を過ぎてしまった。
(もう寝よう……)
そう思い、目を閉じる。
不格好な形で寝ているためぐっすりと寝れないがもう良いやと半ば投げやりだ。
恵美子がうとうとしていると、ブーブーとうるさくなり響く。
(もう、また広告メールかよ!)
「う~ん……」
となりながらメッセージを見る。
『僕と付き合って下さい!』
件名にはそう書かれている。
また変なメールだろう、と閉じようとしたがふと恵美子の小指がスマートフォンに当たる。
「あっ」
と言うと、思わずメールの中身を見て泣き出す恵美子。
『夜分でいきなりで申し訳ありません。高坂充です。里崎さんのお誕生日が今日だったと思い、お祝いメールを送らせて頂きます!おめでとうございます。そして、僕は大学は違いますが、あなたの優しさに惚れました。よろしければ、付き合って下さい』
「あっ、高坂さんだ」
恵美子と同じサークル仲間で仲を深める為の親睦会で、前の席にいた高坂さんであった。
人見知りなのかあまりしゃべらず無口な印象だったが、皆でメール交換する際にただ一緒に交換しただけだ。
たまにメール交換はしていたけれどーーー
クスッと笑い涙を拭う恵美子。
「昨日だよ、誕生日」
ぼそっというと、直ぐに返信メールを出す。
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします、と」
彼とのメール交換の時にシャイなのは知っている。
そして、そのあとのやり取りで何事にも真剣に取り組む姿も。
里崎恵美子は何か困ったときには、昔なら一人で抱え込むタイプだった。
でも、高坂充と連絡していくうちに、何故か自然と連絡する回数が増えていった。
悩みごとなど相談し合う事も普通になっていったが、それはそれであまり気にはとめてはいなかった。
しかしながら、何でも素直に、悪いことは悪い良いことは良いと喝を入れてくれた。
自身の夢を皆が反対しても、応援だってしてくれた。
普通のヒトにはできないことだ。
恵美子が思うヒトの心の優しさとは、きちんと道を導いてくれ応援してくれることなんじゃないかと今なら思えた。
この人なら私を幸せにしてくれる。
その想いが、恵美子の胸を熱くしたのだった。
同時に誕生日間違えてる事は言わなければと、クスクス笑みを浮かべながら布団に潜りスマートフォンをぎゅっと握りしめて眠った恵美子であった。
願わくば、恵美子の名字が里崎から高坂に変わることを願うばかりである。




