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転生神の異世界創造きっと  作者: 漆師諒
第1章 Gregorio Origin 編 〜グノシス暦千年
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#7『山岳事情』

 ――下界。

 ミナリアと出会ってから時間を飛ばしていないので、まだ数日も経過していない状態である。

 食料が枯渇すれば、まだ一つしかないこの村は壊滅してしまう恐れがあるので不用意に時間を飛ばすことはできない。


 この問題を解決した後は、何とか他にも村を作る様に指示。

 農業なども始めなければ国家として発展することはできないだろう。

 元いた世界でも、食料や衣服は他国から輸入していた日本を参考にすると、それぞれの組織同士で違う役割を果たしていけば共存関係を効率的に築いていくことができるのだ。


「グノシス様? いっきなり起こされて下界に来たけど、ここはどこですかぁ?」


「ここか……、見ての通り山だな」


「だよねぇ。ボクもそう思ってましたよぉ」


 俺たちは山にいた。

 村から歩いて数時間の場所にある山。

 今俺たちは道を創りながら山を進行している。

 《ザ・キー》には、道を創る能力も付いており、道を作るモードに切り替えて前にかざすことで想像通りの道が出来ていく。


 今は村から草原を通り、山脈に入って少しの時間が経過している。

 舗装道にするのも世界観似合っていない気がしたので、無舗装の道をずっと伸ばしてきた。

 誰が使うかもわからない道だが、ひとまずの帰り道は見失わずに済みそうである。

 随分と奥地まで来てしまったので、この先どこへ向かえば良いのかわからない。

 迷っているといえばその通りではある。


「ユメリス、これってもっとこう、バーっと地平線まで引くこととか出来ないのか?」


「出来ますよぉ。だけど、天界に一度戻らなきゃですし、道の進行に合わせて作るのに必要な時間も経過する仕組みになってます」


「何でそう言うところだけ忠実になってんだよ……。じゃあ今はどうしてかざすだけでホイホイ数メートルは道が出来てるんだ」


 地平線とまではいかないものの、鍵をかざすとその想像に合わせた道が、歩く速度に合わせて瞬時に出来上がっている。

 普通であれば、生えている木を切ったり、切り株を抜いたり道を整理したりとかなりの手間がかかる作業であるが、鍵のお陰でそこは完全に省略されて道が作成されていた。


「そーれーはー……、物を丁寧に作ろうとする『真摯な姿勢』を天神界が奨励しているからですぅ。そんな感謝の気持ちから、時間をかけずにできる様になっているんです」


「いや意味わからないけど……」


「まあまあ。国道一号線だと思って丁寧に行っちゃいましょうよ、グノシス様♡」


 ドヤ顔のユメリス。

 彼女はたまに俺たちの世界の用語を侮蔑じみた表情で繰り出してくる。


「うまい事言ったみたいな雰囲気出してるけど、全然違うぞ。いや違くはないのか? てか、そんな言葉どこで覚えたんだよ」


「――本です!」


「便利な本ですね、全く……。ユメリスはこの辺の魔物について何か知らないのか?」


「ボクは……。グノシス様とずーっと一緒にいたから、それ以上の詳しいことはわから無いですにゃぁ。ですけど、魔物というのは狡猾な生き物です。きっとただ無意味に狩りをしたりしないで役割分担をして生き抜いていると思いますよぉ」


「ず、ずーっとって……」


 ユメリスに鋭い視線を向けるミナリア。

 少しばかり嫉妬心ある視線で彼女を見つめるのだ。


 この世界の魔物は知識を備えた動物と考えて差し支えないとユメリスから説明を受けたのを思い出した。

 狼や蟻などは組織編成をしっかりと行って狩りをする。

 それを同じ様なものとして捉えていいのかはわからないが、『ゴブリン』と言うそれもただの間抜けな動物などではなく、道具を用いて集団行動している魔物だ。

 こちらも不用意に動きを悟られては危険な目に遭うことになるかもしれない。


「――ミナリア。その『山の主』って言う奴がどの辺にいるとかはわかるか?」


 退屈そうなユメリスとは正反対の真面目なミナリアは山の中の景色を珍しそうに眺めていた。

 村にいた時は、男達しか山に入ることを許されていなかったらしく、こう言った経験は貴重なのだろう。

 

 何でも楽しそうに物事を行う彼女とは、一緒にいるとそれだけでつまらないことも楽しく思えてしまう節がある。

 それは彼女の天性のセンスによるものかもしれない。俺も見習わなければならないこともたくさんあるのだな。


 また、下界に降りた際には、みすぼらしい格好から着替え、天界人らしくなったミナリアを村の人々は歓迎し、今までの無礼を謝罪していた。

 天界での暮らしを手に入れた彼女からすれば、そんなことは気に留める様なことではない気もするが、心根の優しい少女は笑顔でそれに受け答えていた。


 彼女の方がよっぽど神らしいのかもしれないと自分で自分を反省していると、ユメリスがご丁寧に『見習った方がいい』と言ってきたのだった。

 ――思い出すだけで腹立たしいものである。


「詳しくは私もよくわからないです。村の男性達も山のこんな奥までは来たことないはずですが、伝承では『高き山の半ばにて君臨す』と言われていました。つまり、この辺で一番高い山の中腹付近に本拠を構えているのではないでしょうか」


「高い山って言われても、この辺山脈になってるみたいだしどれが一番高い山かわかんないよな」


 その時、歩いている方角の左手に小さく煙が立ち込めているのが目に入った。

 それは何かを焼いているのか、細く上に立ち上がり絶え間なく天へと続いている。


「煙だ。何か魔物でもいるんじゃないか?」


「行ってみましょう。グノシス様、剣を腰に用意しておいてください」


 一度道を作るを止め、森に入った。

 ミナリアが先行して森に入り、それに俺たちは続いている。

 久しぶりのお外で興奮しているのか、いつになくミナリアの足取りは早かった。


 何が出てくるかわからないこの状況で、神様である俺が心臓をバクバクさせて緊張しているのが、どこかだらし無い様な気もする。

 腰に携えた剣に手を置き、いつ何が飛び出してきても対応できる様に備えた。


「おい、ミナリア。進むのが早いぞ、何かがいきなり飛び出してきたらどうするんだ」


「大丈夫です。索敵の魔法でここらに潜伏している者はいないと確認しました」


「さ、さすが……。返す言葉もありません……」


 たくましくなったミナリアは、幾らか茂みをかき分けて進むと、煙の出ている場所が見えるポイントで立ち止まった。

 俺たちもやっとの思いでそれに追い付き、身を屈めて何者がいるのか確認する。

 煙の元には焚き火が設置してあり、点火もされているが、肝心の持ち主が何処にも見当たらなかった。


「何もいないぞ」


「あれはおそらく近くに何かいるんじゃないでしょうか」


 ミナリアは魔女の格好をしていると言うのに、まるで軍隊の兵士にでもなったかの様な身のこなしで潜伏する。

 あの華奢で筋肉質など一切感じさせない身体のどこにそんな力を持っているのだろうか。


「おいもしかしてユメリスがあそこで昼飯作ってたとか言うオチじゃないよな」


「違うにゃ! ボクがそんなことするはずないですよぅ!」


「どうだか……」


 こう言う時にボケをかましてくるのがユメリスだが、さすがにこの場面ではそんなことはしないらしい。

 すると、向こう側の森から何者かの影が現れた。

 茶褐色の体。緑色の腕に毛髪はほとんど生えていない。

 

 どれもオスの様だが、その体は小太りで腕は細いと言う何とも間抜けな姿形をしている。

 そう、あれこそが、書物にも載っていた『ゴブリン』と言うこの世界の低級魔物らしい。

 これは俺が創り出した世界だからなのか、姿形が若干本と異なっている様な気がする。


「グノシス様。あれがゴブリンです。倒しますか」


 ミナリアは手に魔力を込め、そこから氷の冷気が立ち込める。

 彼女は魔法の中でも氷結魔術と、火炎魔術が得意である。

 厳密に言うとそれらを個別に使っていると言うよりは温度を激しく上昇させたり下降させたりするのに長けているのだ。

 まだ少しの訓練しかしていないが、彼女自身のポテンシャルの高さからか、随分と様になっている。


「いや待て、数体は残して巣の位置を探ろう。そうすればボスの居場所も判明するだろ」


「さっすが、グノシス様。考えることがエゲツないですにゃぁ」


「うるさいよ。これが一番効率的だろ」


 はじめから戦う気の一切ないユメリスは眠たそうな顔をしながら呟く。

 好戦的過ぎるのも考えものだが、やる気がなさ過ぎるのは癪に障る。

 しかし、彼女も彼女自身でしっかりと魔術は習得しており、使用が困難な治癒魔法を得意としている。


 治癒魔法は他者に魔力を分け与え、それを生命力に変換する高度な魔術である。

 人間で習得できる者はあまりおらず、天使でも全員が習得できるものでもないらしい。

 後方支援という形ならば無類の信頼が置ける存在である。


「ボクは後ろで見ていますから、チャチャっと行きましょう。チャチャっと」


「神様なんだと思ってんだ。まあでもこれが初陣みたいなもんだし、いっちょいきますか!」


 俺が腰に差している小刀を抜いて握ると、ミナリアも戦闘準備に入った。

 ここからいきなり奇襲をかけることも可能なのだが、少し距離がある。

 茂みをうまく伝いながら彼らに近づいた方がより効果的だろう。


「ミナリア、右から回れ、俺は左を行く」


 指でサインを送りながら彼女に指示を出した。


「わかりました。お怪我のない様に気をつけてくださいね」


「任せろ。お前も、その気をつけてな」


 気軽にサムズアップ。


「はい……」


 ミナリアはいきなり掛けられた労いの言葉に頬を赤く染めた。

 その表情は何とも言えぬ可愛さを持っているが、隣でユメリスが冷めた視線を送っているのでそろそろ行こう。

 定位置まで進み、敵が完全に隙を見せるまで待機する。

 俺がサインを送ることでミナリアも飛び出す打ち合わせだ。


(もう少し、もう少し、もう少し、もう少し……)


 ――その時、ゴブリン達は焚き火を囲んで昼寝を始めた。


「――今だ!」


 ――カンッ!


 石で剣を叩いて甲高い音を発生させる。

 その音はすぐさま響き渡ってミナリアの耳にも届いた。


「「うおおおおおおお!!」」


 二人で同時に飛び出す。

 ゴブリン達は完全に不意を突かれていて俺たちが先制を取ったのは疑う余地はない。

 ミナリアは華麗な身のこなしでゴブリンの元に行くと、3匹のうちの1匹を氷漬けにした。


「俺の番だぁ!!」


 剣を振り下ろしてゴブリンに当てる。

 しかし、当たった感触は全くない。

 もしかして外したのか。

 いや、こんな近距離で外すはずがない。

 目を開けてその現場を確認すると、衝撃的な光景が広がっていた。


「――は?」


 剣がすり抜けている。

 信じられないが、俺の放った剣戟はゴブリンを通り過ぎて地面に命中していた。

 刀身は地面に突き刺さり、ゴブリンも事の成り行きが理解しきれずに呆気に取られている。


「あ、言い忘れてましたにゃぁ。グノシス様は《人間(ヒューマン)モード》にならないと下界で生まれた生物には触れられないんです♡」


 叫ぶユメリス。

 いつものやってしまった顔をしながら手を口元に当てて叫んでいた。


 深く息を吸う。

 深く深く息を吸う。

 この面倒臭い世界設定とポンコツ天使に向けて一喝。


「ーー早く言ええええええええええええ!!」


 空には曇天が立ち込めていた。

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