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転生神の異世界創造きっと  作者: 漆師諒
第1章 Gregorio Origin 編 〜グノシス暦千年
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#5『天使のセンス』

 ミナリアを空き部屋のベッドに寝かせてしばしの休憩に入った。

 今は玉座に座って目の前に浮かぶ球体を眺めている。


 彼女も殺されるかもしれないという極度の緊張状態から解放されて、その時の疲労が一気に襲ってきたのだろう。

 かなりぐっすりと眠っていた。

 自分が殺されるかもしれない状況など遭ったこともないので、彼女の気持ちを測るには無理がある。

 でも、ここに招待した以上仲間として丁重に労ろう。


「――グノシス様……」


「お、ユメリス起きたか。気分はどうだ、いきなり倒れたから驚いたぞ」


 ユメリスは虚ろな目をして玉座の間に入ってきた。

 魔力が切れるとあんなにも顔色が悪くなるようで、随分とぐったりした様子だ。

 普段の余裕ぶった表情の影はなく、まるで病み上がりにでもなったよう。

 これはお粥でも出してあげたほうがいいかな。

 でも、天使ってお粥なんか食べるのか。

 そもそも、天使って何を食べるんだ。


「さっきはしっつれいしました。この通りユメリスちゃん復活です♡」


「それは何より、腹減ってるだろなんか食べるか?」


 こっそり天使の食べるものを探る。


「にゃにゃ!? そんな、グノシス様の手を煩わせるわけにはいきませんよぉ」


 予想通りの回答が返ってきた。

 お手を煩わせるも何も、何でも作り出せるので俺がなんらかの作業をしたりする必要性はない。

 ここは一つ、俺の世界の食べ物でも提供してみようか。

 この鍵握って想像すればすぐに食べ物くらいは出てくるはず。


「大丈夫手を煩うことはこれっぽっちもないからさ。んー、よいしょっと。す、すげぇ。本当にタマゴ粥出てきやがった……」


 念じて数秒立たないうちにタマゴ粥が手の上にこんにちわ。

 彼女はその様子を不思議そうに見ている。

 俺の元いた世界についての知識は本でいくらか詰め込んだらしいが、この食物については知らないみたいである。


 湯気立ち込めるそれを渡すと、渡したタイミングでスプーンも付いてきた。

 何もかも行き届いた金の鍵はかなりの便利道具である。

 世界も創れるし食べ物も作れるのだから。


「グノシス様。それは何なんですか?」


「これはその、タマゴ粥だ。ユメが体調良くなるようにと思って作ったんだけど。よかったら食べてくれ」


 ユメリスは驚いた顔をする。

 今まで自分が奉仕する側だったので、急に奉仕される側になり戸惑っているのだろう。

 こんな時には俺も『何かしてあげないと』という気になるのは当然。

 天使だろうが部下だろうが、関係なくその気持ちになるのは昔からの癖だ。

 そのせいで自分の命を落としたというのにいつになっても懲りないな、俺は。

 彼女にそれを手渡し、食べるように勧めると、小さい一口で頬張った。


「す、すごく、美味しいです、はい。これはグノシス様が住んでた世界の食べ物、ですか?」


「ああそうだ。小さい頃病気になった時によく親に作ってもらったんだ。それで元気が出れば嬉しいよ」


 キョトンとした表情を浮かべて粥を口に運ぶユメリス。

 天使に餌付けしている神様というのも何か不思議な気がするが、これも家族団欒というものか。


「グノシス様の親御さんはどんなお方だったのですか?」


「俺の親か。そう言われてもあんまり思い出せないんだよね。まぁ普通ってやつだよ。ユメリスは天使って言ってるけど、親とかいたりするの?」


「ボクは……、ボクは親の顔を知らないです。物心ついた時にはもう学院にいたからにゃぁ」


 ユメリスは淡々と返答した。

 彼女の逞しさはそういった生まれの環境によるものもあるのかもしれない。


「なるほど。だからユメはしっかりしているのか」


「――んぇ?」


「だってそうだろ。こっちがミスったりするとちゃんと手伝ってくれるし、ユメはしっかりものだな」


「そそそ、そぉーんなこと、あぁーりませんよ。当然のことをしてるまでです、はい」


 若干恥ずかしそうに頬を染めるユメリス。

 前は全然何を言われても自分のスタイルを崩さず動じないし、むしろ俺をなんで招いたんだっていうくらい信頼がなかったような気がする。


 だけどいまは少し距離が縮まった気がした。

 彼女も『見栄を張っていた』と明言するくらいだからおそらく無理でもしていたのであろう。

 そう考えると、見栄を張って気絶するくらい魔力を使いすぎてしまった彼女がどこか可愛く見えてしまったのだった。


「それよりなぁーんですかその表情。緩みきってて若干の変態感が滲み出ちゃってますよ? も、もしかしてこれを食べているボクを見て何か想像しちゃった感じなのですかぁ!?」


「そ、そんなわけないだろ。第一今鍵握ってるから想像したらそれが目の前に出てきちゃうから。なんなら恥ずかしい状態のユメを目の前に出してやろうか?」


「ダ、ダメですよそぉんなことしたら! 神聖な道具をなんて不埒なことに使おうとしているんだい!」


「その威勢があれば大丈夫そうだな。そろそろ村に戻って食料問題を解決しないとな」


 ここに来て初めての問題と言っていいだろうか。

 村では周囲の森でなんらかの魔物による影響が強まったことで食料である動物の枯渇状態にあるらしい。

 おそらく強い魔物が現れてそれに怯えた動物たちが他の山に逃げてしまったのだろう。


 凶暴かつ戦闘力も高い魔物と違って動物は戦闘力が低く、それこそ元いた世界のイノシシやシカのようなものが中心となっている。

 彼らがいなくなってしまってはまだ農業を持たない人間の村落はたちまち全滅してしまう。

 それだけは避けて通らなければならない。


「食料問題ですか? ボクが気絶していた間になんらかの問題が発生したらしいですねぇ」


「ああ、それだ。どうやら魔物がいるらしいんだが、調査しないことには詳しいことはわからない」


「それなら戦闘になるかもです。もしグノシス様の言う『ゲーム感』っていうやつをお望みだったら剣術か魔術を学んでいくことをお勧めしちゃいますよ?」


「そうだなちょっと後で見てくるよ」


 その時、玉座の間の側壁にある扉がゆっくりと開き、ミナリアが顔を覗かせた。

 少し寝たら元気が出たのかミナリアの顔色が良くなっていた。

 もちろんユメリスは彼女と会うのは初めてなので、少し戸惑ったような表情を浮かべる。


「グノシス様。ボクが寝てるうちに初ペットを手に入れたのですか?」


「こらこら、ペットって言うのやめようか。最初と言い、今と言い、下界の人間でも丁重に扱いなさいよ」


「ですけどぉ、天神界では下界で生まれた者は飼って愛でることが普通になってるから、あんまり丁重に扱われている印象は受けないですけど……」


「他は他、うちはうちってやつさ。ここでは無益に殺生するのは禁止さ」


「りょーかいでぇーす。丁重に扱うことにしまーす」


 ユメリスに納得してもらったところでミナリアを近くに呼び出した。

 特に深い教育を受けていたわけでもないが、彼女が礼儀正しかった。

 それが俺たちに対する恐怖から来るものなのか。

 この場に対する緊張から来ているものかはわからないが、ひとまずユメリスには警戒されずに済んだみたいだ。


 いくら無益殺生禁止と言っても、

 この城で俺に対する不敬を働く者がいた場合などは普段温厚なユメリスがどんな強硬手段に出るか見当もつかない。

 腐っても自分は神的な立場にあることを忘れないようにしないとならないな。


「ユメリス様、これからお世話になるミナリアです。よろしくお願いいたします」


「銀髪にその魔力感……。もーしかして君はヒューマンの変異種くんじゃないか?」


「それってどう言うことだ?」


 すると、ユメリスは書庫の方から本を一冊持って来た。

 そこには、ヒューマンの『変異種』。

 突然変異についての記述がなされている。

 ミナリアは銀髪の魔女として村民たちから嫌われていたが、どうやら現実は逆の結果をもたらしているらしい。


 本によれば、変異種は母胎内で成長する際に、突然の魔力増幅によって頭髪の色素が抜け落ち、魔力の結晶の含有が発生するので美しく輝く銀髪を持つようになると記載がなされている。

 つまりはどう言うことか。

 そう、ミナリアは『勇者』もしくは『賢者』になる魔力適性を持った選ばれし者に当たると言うことだ。


「えっとぉ。つまるところはですねですね、彼女はこの前お話ししたヒューマンの『希少種』くんということになるみたいだにゃぁ」


「ま、まじかよ!? それって相当すごいんじゃ……」


「そーうですね。ヒューマン種の中でも0.2%くらいの確率かな。普通何億年も重ねた惑星で発見されるって聞くけど、こんな百年足らずの星で発見されるなんて初めて見ましたよぉ」


 俺たちの盛り上がりように付いて行けてないミナリア。

 先ほどまで忌み嫌われるような扱いを受けていたと言うのに、人生の逆転劇が急に発生して天神界でも貴重な人材になったのだから無理もない。

 まずはこの城でしっかりと魔術を大成してもらって時間を飛ばす前の村でトップになってもらう方が全体のためにならないだろうか。


 今の村のトップといえば頭も武力も平均、平均している『ユリウス』子孫。

 銀髪魔女というだけで幻想級のレア美少女を殺そうとした俺のそっくりさん子孫だ。

 彼に任せておくと世界が滅びかねないと言う考えも成り立つが、仮にでも百年はトップを務めた種族。

 無理な変更は滅びを生みかねないか。


「ミナリア。下界の村に戻る気はあるか?」


「そ、それは……。私はグノシス様に身を捧げる思いで来たのですが……」


「それはどちらにしても感謝しかない返答だけど。ここにいるよりも世界のためになると思うんだ」


 せっかく城に招待しておきながら自分を除け者にする村に戻れと言うのは少し無理があるか。

 彼女の気持ちになってみれば戻りたいと思うはずもない。

 もちろん、ここで永遠一緒に居てくれるのはありがたいが、それは同時に自分が生まれた時代への帰還が不可能になることを意味している。

 時間は進められるが、戻すことはできない。

 戻すとなれば、それは世界のリセットと同義。

 俺にそんな強制をできる勇気はない。


「ちょーっといいですかにゃ。グノシス様」


 そのとき、ユメリスが普段のような余裕ぶった表情を見せてこちらを見つめる。

 彼女がこう言う雰囲気を醸し出した時に起こることは一つしかない。


「あのぉ言い忘れてたんだけど、天界へ一回連れて来た下界の者はもう二度と下界の人間に戻ることはできないんだよねぇ。それが、天界に来ることの代償『昇天』さっ!」


「――へ?」


 彼女のこう言う雰囲気をする時は、とても大切なことを言い忘れ。

 それを言い訳するのではなく、さも当たり前のように正当化する時の悪い癖が出る時だった。


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