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Color=Eight

 Color=Eight


  あの森には欅の木があって、思い出と共に


  その緑達が、光を浴び揺れていた


  僕達は、この人生に何を見出してきたのかを分かっている


  あの森にはもう行かない。思い出と共に閉ざした




 銀の朝陽が半分上げられたブラインドーから漏れる。彼は寝返りシーツが落ちた。

彼のブロンドを朝陽が射し、 エメラルドの瞳が開いてしばらくは頭が鈍く働かない。

歯を磨き顔を洗うとパソコン横のラジオをつける。

 その朝方。ワールドラジオが2体の変死体が発見された事を伝えた。イングランドのエジンバラ。田舎だ。

その年老いた男女の死体の詳しい情報こそは伝えなかったが、リポーターの声の具合から窺うと、酷いものだった様だ。

それと共にドア横の電話が鳴った。署からの連絡だ。

 急遽身支度を済ませ、ネクタイを持ったまま大型バイクに乗り込み走らせた。

24時間体制で署にアドレスのみを移したパソコンに、例のホシから新たな画像が送られて来たようだ。

短期間で送られて来た。死後、即刻だ。

撮影時間を見て、一切の編集は無く転送されていたのだ。それを考えると衛星。だが音声は何故録音されていたんだ?遺体からは盗聴器らしきものは発見されてはいない。ホシが即刻取って行ったのだとしたら、まだヨーロッパにいる。

共に、他2つの自殺も即刻送りつけられた物と見ていい筈だった。

まさに、エジンバラの2体の仏がそれであった。死体が上がったのは初めての事だ。フィスターの方には送られてはいない。

画像はイングランドヤードに提供される事に決まった。その事で物的証拠の全てが合致した。

 これは警察への挑戦状だという線が強まる。

映像の事は知られていないが、死体の身元は大きくタイムスを賑わせた。

フランスの名の知れたジュエリー職人の中でも世界的な指折りで、エジンバラには夫婦共通の友人の別荘がある。

その友人はフランス人であり、大型石油会社社長。近年多額の資金でアラブ諸国から有力で良質な油田を3つ、オークションで競り落とした事でも政治雑誌を賑わせた資産家だ。


 フィスターは華麗で美しいエジンバラの別荘をずっと見上げていた。

とても広いホールは、巨大なシャンデリアが静かに下り、歴史を感じる古い建築物だった。代々伝わる城なのか、もしくは譲り受けたか、別荘として買い取ったのだろう。

彼女はそのホールの履き出し窓枠に手を掛け、中を覗くように眺めた。なんだか、悲しい感じの色濃い屋敷だ。

人が今いないからそう見えるだけなのだろうか。

ダイランはフィスターがぼさっとしているから怒鳴りすぐに来させる。

フィスターは「はい!」と言い、青くなって走って行った。

「今からこの不気味な別荘の持ち主がいるパリに飛ぶ」

「はい!」

 彼等は明るい草原を見渡し、その欅の木が一本、大きく2つに枝分かれし野原に立っていた。屋敷の背後には明るい森が広がり、清流のせせらぎまでが聞こえそうな程だった。

こんな場所で死のうなんて、老後を何故断ち切ったのかは不明だ。それも、友人の証言次第で何らかの事が探れる筈だ。

 映像の中の彼等は実に幸せそうに手を繋ぎ、語り合いながら背後の明るい森を進んで行った。

年老いた2人の真っ白く柔らかい髪は2人の柔らかな笑顔そのままのようだった。

妻は髪を綺麗にカールさせ、淡い藤色のパールを耳に填めていた。綺麗な頬の薄桃色の頬紅を差し、ゆったりとした会話の内容は若かりし日の思い出だった。

2人は林に囲まれた湖畔のボートに乗り、シャツにベストを来た夫は人好きのする笑顔で、妻が水面に白く細い、皺の見られる手で撫でているのを微笑み見ていた。

鹿が2人の行き着いた岸辺を走り、木をリスが駆け上った。ゆっくりと歩みを進めて行き、夫は飛ぶ小鳥の名を妻に聞かせていた。

草原に出ると、彼等は思い出の森を見渡し、欅の木に寄り添うように腰を降ろした。

手を繋ぎあい、彼の手は職人特有のまめが指先に2,3見られる。その握られていない方の手を震わせ、金の懐中時計を手に取った。

その蓋を開け、妻に白い錠剤を持たせた。彼女はそれを見つめ飲み込み、安らかな顔で微笑み夫の顔を見つめながら、そのまま彼の肩に頬を乗せ、彼は握った手を優しく撫でつづけ、妻が眠りに落ちるまでを優しく待った。彼女は眠りに落ちた。

彼は握っていた手を解くと短刀を取り出す。

妻の精巧な金のブローチの填められた下の胸部を、一突きした。

彼女は眠ったまま、感覚も無く逝った。

夫は涙を流し彼女の手を握り、震える片手で、自らの首を斬り付けた。そのまま、手を握り締め優しげな瞳を、閉じた。



 犯人の心理状況が窺えない。こんな事を画像に収め、即刻発信したなど、人徳に欠けるにも程がある事だ。


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