翌朝
翌朝
朝の7時。
MMは目覚め、粉雪の様に純白の朝陽が空間に煌いている。
立ち上がるとシーツを落とし、首を巡らせるとエリーはベッドの下に落ちていた。ダイランの横に抱き上げて置いてから伸びをし欠伸を吐き出した。
リグはいつもの様に明け方から目覚めていて、腹ばいになり頬杖を着いてふんふん言って足を折り曲げ伸ばしては、布団の上で朝陽の反射するビー玉をかちかち転がしていた。
MMはダイランの横まで来るとブロンドを撫で腰を下ろし、項の襟足を退けキスをしてから唇にそっとキスを寄せ、背を撫でた。
ダイランは煩そうに唸ってから手でバラバラやって顔を向こうに向けたから、MMは憮然として、おどけてから朝のバスタイムに向かった。
リグはベッドから起きるとキャビネットからグラスを取って、昨日探検して分かっていた棚の中の一つの扉を開けて冷蔵庫からオレンジジュースのデカンターを取り、注いで飲んだ。
昨日、オレンジがテーブルの上に置いてあったのを硝子の絞り機で全部絞ってMMが飲んでいたのだ。ダイランの鼻にその良く冷えたオレンジジュースのグラスを突きつけて、ダイランが険しい顔になって高い鼻を押さえて目を開けた。
「つめてえな、」
「美味しいよ。はいシャツ。フィスターお姉ちゃん真っ赤っ赤になっちゃうよ」
「いいんだあいつにはマッパ見られたからブツブツ」
そうシャツを肩に掛けてベッドからベッドから出てシャワーを浴びに行こうと歩いていく。リグはダイランを見上げてからフィスターを起こしに行った。エリーを起こすと恐いから起こさなかった。リグがいつも皆を起こす役目だった。
フィスターは目を覚ますと髪を撫で整え、起こしてくれたリグに微笑んで挨拶をした。エリーのところに行くと、寝ぐずっていたからしばらく寝かせておいてあげた。
「おはようございますガルド警部」
「ああ」
ダイランはシャワールームのドアを開けようとしたからリグが止めた。
「今MMが入ってるから他の所行ったほうがいいよ」
「何?ったく、あの野郎は人のシャワータイムを」
そう言いながら部屋から出て行き、他の共同浴場へ入りに行った。
ダイランはその1階の大浴場に来ると、一組の夫妻と子供3人が待っていた。
メイドの3人が浴槽の湯を滑らかにしている作業がガラス壁の向こうから見えていた。金のノブを引いて乗り出し、メイド達は色とりどりの生花も浮かべている。
「入っていいか?」
「ええ。お待たせ致しましたわ。どうぞお入りください」
メイド達は出て行き、夫の方はシェリーを持って来るようにといい伝てからメイドは畏まりましたと出て行った。
2つに分かれている浴槽の中でも、家族は奥の浴槽へ歩いて行った。ダイランはシャワーを浴びようやく頭の回転が戻ると、花を全て石床にぽいぽい出してしまって手前の大浴槽に入り石の縁に頬と両手を乗せて目を閉じた。
父親は子供達の体を洗ってやり、母親は娘のストレートの長い髪を丹念に洗ってあげていた。子供達はお行儀良く浴槽に入った。
ダイランの眠る背に何かぼとぼと落ちてきて、目を開けて背に花びらがくっついて花の香りが辺りをまた充満させた。
「おはようガルドくん」
「ああ」
老婆は湯船に浸かって白い肩に滑らかな湯を掛け、ダイランはまた目を閉じて眠りに入った。
リグとエリーが大はしゃぎで駈け入って来て花にまみれるダイランを見てけらけら笑ってから体を洗いっこし、髪をあわ立てて角とか作りながら遊んではしゃいで声がこだまする。老婆が金細工のシャボン玉をふうと浴場に舞わせているのが振動した。
フィスターは浴場横のシャワールームに入って行った。リグとエリーは湯船にばしゃんと飛び込んで、老婆は跳ね上がった湯に顔をしかめてかえあシャボン玉を一吹きした。
リグとエリーは拾い集めた柔らかい花を湯船に舞わせては振りまいていて、ダイランの広い肩にうずたかく盛って健康的に焼けたその背に色とりどりの花びらでぺたぺたとはりはじめた。
FISTER LOVEぺたぺたくっつけてハート型のピンクの花びらをLOVEの跡にくっつけて2人で顔を見合わせくすくす笑っていた。
老婆も目を向けそれを見て、フ、と可笑しそうに笑い首をやれやれ振っては金細工を置き流れて来た生花の水色の物を手にとり甘美な香りをかいだ。
ダイランは目を覚ますとぼうっとしたまま出て行った。
「あーあそのまま行っちゃった」
そう言いあってくすくす笑った。
2つのシャリーを銀の盆に乗せ歩いて来たメイドはダイランの背をみてはくすくす笑い奥の浴槽の夫にグラスを差し出した。彼はそれを受け取り、3人の子供達はうずうずしてあの2人と遊びたがっていたが、目を閉じ気持ちよさげに白い肌に滑らかな湯をかける母親の様子を窺っては静に浸かっていた。4才の娘はうきうきして父親の腕にぺたぺたと花びらを綺麗に並べつけ始めていた。
「いいよ。遊んでおいで」
3人は目を輝かせて走って行った。母親は何時の間にか上半身花びらまみれになっている夫を見てからおどけた様に2人で小さく肩をくすめ合い、子供達は2人の子供と共に花びらを空間に舞わせたり、エリーはハーモニカを見つけてうまく吹いては5人ははしゃぎ踊り初めていた。まるで、豊穣の祭典の踊る森の子悪魔達のようだった。老婆は曲に乗せ鼻歌を歌い、夫婦は微笑みぐらすをで乾杯し合った。
子供達は踊りながらイタリア歌手Wilma GoichのIN UN FIOREを歌った。
「Se Non Corri Tu Porai Vedere
Le Cose Belle Che Stanno Intorno A Te
(急がなければ
あなたの周りにある 美しい物が見られるわ)」
その宴を掻き消したのが大鏡に映った背をふと見た、大魔王の雄叫びだった。
「うおお、何っだこりゃああー!!!」
朝っぱらからまたダイモンの悲鳴が轟き、壁を隔てたシャワールームのフィスターは肩をすくめていた。
ダイランはけらけら腹を抱えて笑う2人を見てかんかんに怒って、飛行機のように両手を広げ駆け回る2人を捕まえ拳骨をし、「ったく!」と言った。子供達はきゃははと笑い声を高らかに歌った。
「Non Sai Che In Un Fiore!
C’e Un Mondo Pieno D’amore!
(あなたは知らない 一つの花の中にも
愛がいっぱいの世界があることを)」
その歌にダイランはまるで可憐な花のささやきのように微笑んでくるフィスターが頭に浮かんで真っ赤になり、花びらをシャワーで流した。
「Non Sai Che Nie Miei Occhi C’e!
Amore Per Te……
(あなたは知らない 私の瞳の中には
あなたへの愛情がいっぱいなのを……)」
広い浴場ホールを花を蹴り飛ばしながら笑い駆け回る子悪魔的キューピッド達に何も言う事無く真っ赤なまま出て行った。
ミッションを成功させた2人は大はしゃぎで側転したりでんぐり返りをしては5人でころころ転がり出した。老婆は奥の炭酸水浴場に移って夫婦と挨拶しあっては5人は手前のジャグジー浴場でリグは口にぼごぼごとジャグジーを入れて遊んでは2人の息子はぷかぷか浮いて、娘はエリーと共に髪を纏め上げ合っていた。
ダイランは身だしなみを整えると浴場を出て、太い柱に囲まれる中庭の望めるホールを歩いて行った。
ポッカーの父親が明るく黄緑の芝生の庭中、石のテーブルセットに腰掛けパイプの立ち上る煙に目を細め話し合うのを発見した。その内にもメイド達は主人に挨拶をして通って行った。
白い柱で見えなかった話し相手はコーサーで、まあ、プライベートだからキャリライと言うべきか。
「よう」
「ああガルド」
「やあよく眠れたかな」
「ああ」
キャリライはぼやけていない側の目でダイランを見てから、ダイモンは椅子に座って朝陽の眩しさにどろどろに溶けながら目を細めた。
フィスターはダイランの姿を見つけ、一瞬息をはっと止めた。彼女の頬は真っ赤だ。
眩しい黄緑の芝生に黄金になって来た陽が強く差し明るくて、ダイランのあのエメラルドの色の綺麗な瞳がきらきら陽を受け光って、まるで真夏や初夏の背後の緑をそのまま切り抜き映しているかの様だからだ。明るく深い色合いのブロンドも、白シャツに眩しく光が射しては話し合っていて、健康的そのままでまるで初夏そのものの人みたい。
太陽みたいだ。
フィスターはリグに手をぐいぐい引っ張られて頬を押えた。エリーはリグと顔を見合わせてくすくす笑った。
「こんな綺麗な中で銀幕のポッカー育って来たんだね」
「それは艶も出るよね」
「そうね。2人とも」
昨日のMMの話を思い出し、美しいからこその艶の様な白黒を嫌っていたらしい、ここで育ちつづけたロジェスキー=グランディア=ジェポンの23年の生涯を、彩りで添えられ死んで行った事に、彼女は多少の憂いを感じた。色とりどりの世界へ羽ばたきたかったのだろう。ああやって、深く鮮やかな緑地へ飲み込まれていき、白黒以外では許されなかった自分に窮屈を感じていたのだ。
あの緑の中の彼は、やはり美しかった。ダイランもそうだ。彩りあると、また別の光の光彩による美を雄は野性的に発揮する。雌では敵わないほどの美を誇る。
勇ましくも悠然としていたのだ。
日常に感情と世界の色彩を求め、はちゃめちゃに許されない葛藤と表現をぶち壊してでも抜け出し体現し続けては死んで行った。享楽を好いては悦楽に浸って生きたい世界を生きたが、色の魔力に虜にされ、翻弄されては飲み込まれてしまったのだ。
ダイランはフィスターに気付いて、フィスターは微笑み、ダイランは口をつぐんで駆け出してでも抱きしめたくなったが、また話に戻って行った。
フィスターは嬉しそうにほほ笑み、2人の手を引き食堂へ歩いて行った。
他の昨日の弔問客達も多くこの広い豪華な食堂には集まって来ていた。リグは喜んで瑞々しいフルーツを取りに行った。マリーの母親がいていろいろなフルーツを取ってくれた。




