表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/66

Color=Five


ダイランのコンピュータに送り込まれた女の自殺映像は、海中での事だった。

濃い青の中、海底まで行き付き足に手錠を填めてから自らボンベを外し海中洞窟へと入って行ったのだ。

洞窟内。

ライトで照らされているわけでも無い筈が、夜行生物のように鮮明な明るい闇が広がった。女は徐々に息苦しそうになって来る。青白く発光する海洋虫達が現れ始め、開けた場所に視野が広まった。

ディープブルーの浸蝕するクリアな美しい空間。銀掛かる灰白の光柱が炎の様にめらめらと、海中天井から差し込む。

女の影は幻のように陰影を付け、さらに彼女の下方に黒の影柱を鋭く伸ばした。まるで人魚の態で泳いで行く。

身まで染み込む、心の奥にまで浸してくる魅惑の濃密な青だ。闇に生息する様な。

手錠を最下層の岩に引っ掛け、泡を微かに開いた口元から出しては、黒金の様な銀黒に気泡が上がっては、2分して力を失い、ディープブルーに美しく揺らめく銀灰の光柱は差し、黒影の中女は漂った。

光のプリズムに反応するかの様に、発光する海洋虫が彼女の辺りをすうっと螺旋を描き死体を彩った。

 視野だけが正確に女の姿を失ったまま、巻き戻しのように戻り行き、アクアンブルーのグラデーションを見せた。

水面に出て、目を刺す太陽の光りの先に、綺麗な天空は青く煌々とした青を誇っていた。

死んだ者には二度と味わえないかの様に……。

 ダイランも少年時代に行った事のある島だ。ホールは美しい海底洞窟のスキューバダイビングスポットでもある。

うなじを押え目を閉じ、深い息をつく。どこまでも嫌な気分だ。

女の息はボンベを手放してから5分も続いた。おおよその年齢は20代半ばから30だろうという事だ。もしかしたら性転換手術をした男性である可能性が大きい。

器材寸法から計算した身長は187。器材メーカーは不明で足がつかない。

映像自体の共通点は鮮やかなグラデーションと目を刺す刹那。

色彩、映像美が意識され、ムービーコレクションとして、クラブの一画面に曲付きで流れていそうな代物だ。余興的、風景的な一種の芸術として販売しているという事だ。人に人の死を。暇つぶしにしかならない物へと。

分析に手一杯のコーサーは、ゆったり椅子に座っては、冷徹な作りの顔も上げる事無くコンピュータに向き合っている。

部長は珍しく気分を害したのか片手で両側頭部を押えていた。映像自体に何かがあるらしい。

「まあ、年齢のせいだろ」

部長はダイランを伏せ目で睨んでダイランは意地悪そうな顔を険しくした。

「映像ドラッグの類なら映像バスターに反応するはずだが、周波数も異常は見られない。自然世界の音が鮮麗に流れるのみだ」

「年のせいによる色彩ショック辺りだろう」

「ごほん」

ダイランはソファーに座り背もたれに腕を回すと剣呑と睨み返して、フンと子供の様に顔を背けた。

「送り込まれてきた時間帯は不明です」

「ああ。今、通信会社に問い合わせている所だ。この10日間は署内で寝泊りしていたからな。回線の使用具合が不明になっても仕方がねえ」

ダイランは向かいのソファーにフィスターが座ると3人の顔を見回して続けた。

「撮影時期は最近と見ていい筈だ。こういう奴を好む輩ってのは、より新鮮な映像を即刻欲しがるってもんだからな。また次、また次の新作を用意しろって要求がうるせえ」

フィスターはぞっとして気落ちして組んだ手の置かれた膝を見下ろした。

「日常より過激な美しいもんやら邪悪な奇形の中にこそ美をと追求が広がって行く。美しい物でこそ奇形をってな。最後にはグロテスクとしか取れねえ目も塞ぎたくなるような代物こそが最上の美と認め望む。糞すら崇めそれらの混沌としたものが社会一般に忍び込んですぐ横に浸蝕しては世界を心の一部から恐怖させる事を望む様になる。心身破滅と日常的脅威にまで及んで浅ましい中の最高の美をシンクロさせようとする」

「その様な世界は病んでいますね……」

「事実、美意識に包まれてがんじがらめになった貴族連中は、美に飽きて身を汚す事に快楽を得る現象もある。残酷な見世物に狂喜する。日常の生活にふとグロテスクな美が同居する事を日常の視野に収める事を感覚に起きたがる。そういうのを求めてえんだよ奴等は。そんな糞みてえな中毒者はどこにでもいる」

 ダイランが聞き込みに回り、フィスターがこれらの趣向を好む人間心理を専門分析医のアマンダ女史に聞きに行き犯人の憶測に入る。コーサーが自殺者の特定と場所、建物などを調べる。

何らかのメンバーズ会員。マークもその団体のシンボルマークだろう。

だがそういう秘密主義団体の割り出しとなると、途方も無く面倒な反面金持ちや著名人も名を連ねていたりする事がいつの時代も常だ。中には国営関連の軍人でさえも。

だが、自殺者の割り出しとなると更に難しい。それでも掘り出す他無い。

部長はあのコンビを例の海域に向わせた。物的証拠をすぐさま掴まなければならない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ