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事情聴取

事情聴取



 MMはダイランに乱暴に部屋に蹴り込まれた。鍵を掛けられ閉じ込められて、MMの声とも思えない声で怒鳴り散らすのをダイランは放って歩いて行った。

「糞!!!こんな目に遭わせて良いと思ってやがるのか!!このファッキンルシフェルが!!!」

ダイランは舞い戻り扉を開けてMMの胴をどつき叱りつけてから鍵を締めカンカンに怒って歩いて行った。

「女なんだからちょっとはおしとやかにしなよ」

「うるっさいよ!!」

一緒に部屋に入れられたリグはやれやれと言ってエリーはベッドにぼふっと飛びついた。

MMは踵を返してブランデーをグラスに注ぎ煽った。

「もう寝る!」

そう言ってベッドに上がり込んですねてうつぶせて眠ってしまった。

エリーは肩をすくめてその横で横になるとにこにこしてふわふわの毛布を掛けた。こんな良い思いが出来るならここの子になろうかなーと思った。

「この人本当子供っぽいのか頭働いて恐いのか分かんないね。きっとAB型だよ」

「そうだね。きっとそうだよ。さっきもフィスターお姉さんに嫉妬しちゃって可愛かったしなんだか憎めないよね」

「そうだね。今ならだけど」

「僕ももう寝よっと」

リグはもう一つ離れた所にあるベッドに乗って眠りについた。

 ダイランはMMを蹴り込んだ後に、老婆とジェポン夫妻に個別に聞き込みを開始した。

老婆は紫の会でココ・ソカとも知り合いである筈だと聴くとそれは認めたが、自殺に関する事は範囲外に他ならないと言った。

マリーの事は可愛がっていたと言っていた。確かに融通が利かない子で、少女が遊びに行き行って帰って来た日は余計に自分に懐かずに頭に来たのだそうだ。麻薬を服用し始めていた事は分かっていたらしい。出所は知らないで通してきた。老婆が与えた、もしくは少女自身が街で手に入れてきた物だろう。

今、少女の遺体を隠したと思われる本部長の父親は我々が確保した事を言うと、老婆は観念してマリーの母親を連れて来た。

「あんたは確かマンションオーナーの秘書の」

「いいえ。秘書ではありません」

ダイランは相槌を打ち、聞き込みを始めた。

 元旦那の仕事内容についてはあまり詳しく分かってはいないようだ。何にも厳しく、自分の地位が危うくなる前に座を護る為ならどこまでも酷い人になる事を知っていると言った。

マリーが自殺した事はショックだったし、自分が娘と共に投げ出されると、生活にも困難を強いられてしまったようだ。娘とは生活の場を変えた物の、元から施設外では会っていたようで、マリーの母親は一切MMとは関わりは無い。老婆とは娘を引き取って頂いた後からの仲だと言う。

黙っていれば鋭い目はマリーと同じであり、冷静沈着な声は顔や全体のスレンダーな印象を通して、どこか鋭く冷たくも思える女だが、娘を語り出した瞬間から彼女は涙に埋もれ、母親一辺の顔になってフィスターは彼女を哀れに思い背を優しく撫でた。母親の目の下は化粧で隠された隈が覗き、実年齢の38という年齢の通り美しいものの疲れていた。以前からの精神的疲れも来ているのだろう。

 ポッカーの父親はMMの言う通り、手の内の全く分からないMMを信用できなくなっている事を言った。言う事を聞かない自分達を黙らせ破滅させるために設計士や少女や息子の自殺映像つくりに手を貸し、仕方なく実行しては脅迫に使ったのでは無いかと。実際精神的打撃を受けたのだから。

「MMはああ言っていたが、被害者の気持ちを考えているとは思えん。映像を作ったのが本当にMMかは分からないが、それならばダイレクトメールだけを親族に送ればいい。自殺者の要望としてね」

「それをMMを自殺者が利用している事に繋がるって言うんだよ」

「だがそれをMMも利用した。他のサイトに流す方の映像まで用意するというのはね、その子供達の両親の気持ちを完全に分かってはいないんだ。それがもしも、自殺者が世間に知ってもらいたい為と望んだものだろうと親の気持ちからでは許せない行為です。それを見れば余興にする者が必ずしもいる世の中だというものだ。両親以外でも大切に思っていた人間まで敵に回して、MM自身が自分の首を締めている様にしか思えない」

「あいつは警察に挑発しているんだ。見つからない証拠と分かった上での確信犯。それに荷担する側の人間じゃ無い事を祈るけどな。今の言葉からじゃあ、それにも及ばない様だ」

「ええ」

 妻はMM会員であった事を認め、ココ・ソカと関わりがあることも認めた。

「例の設計士が関わりのある会社の部下は弔問に訪れて?」

「いいえ。彼は今時期が時期ですので」

「ってことは?」

「マリアの恋人でしたが、彼は今他の方との結婚を控えています」

「付き合っていたのに?その事で自殺を?もしかして、会社関係もしくはグループ内での結婚なんじゃないのか?」

その恋人の所にも設計士からのダイレクトメールが送られた可能性は高い。それを見ればいろいろと分かる筈だ。他のダイレクトメールを見れば、彼等が身を投げ出してでも窮地に追い遣られたメッセージがどこかしらに組み込まれているはず。送られた人物達にしか分からない様な隠されたメッセージとして。

それを全て預かり検討する必要があった。問題は、宝石職人のダイレクトメールが存在するかだった。それを、誰に送ったのか。その中に、MMを検挙出切るに至るメッセージが確実に入っている筈だ。彼はMM会員の存在したとも確信出来ていない剣の会で被害を受けたのだから。MMからに他ならないとダイランは目を鋭くした。

妻はマリンの恋人が制約結婚である事を認めた。

「サダン内での買収の為にマリアの元恋人を引き剥がして精神的ショックによる自殺に追い込んだとしたら、それが今回の騒動理由になるな。企業内の何らかのトラブルをマリンは起こした筈だ」

 これは本部長とサダン社長に調べを付けにいかなければ分からない事も多い。それに、マリアの恋人という男にも。

宝石職人の自殺は剣の会の富豪達の気紛れ。少女の自殺は父親の何がしかの裏に関して。設計士の自殺はグループの裏に関して。薬物依存の映画俳優の自殺を加える事で、全てを自己的な精神ショックからの自殺として捜査を曖昧にされていた。同様に、女王の快楽的自殺も紛れさせる事でMMが故意に仕向けたという事を他の著名人自殺の中に隠したのだろう。

あの時、女王の件で白い屋敷を背後にした闇の中のMMの顔は、小憎たらしい程の顔をしていたのだから。冷たいレンズを通した瞳でなく。

当の王子様は今機嫌を損ねて眠りについてしまっていた。

 フィスターが背をバンバン叩いて起こしに行くと、MMは不機嫌そうに起き上がって彼女を睨んだ。

「あなたは設計士との関わりがありますね。設計士はあなたの会員で、緑の会に入っていたと証言が取れました。その件で、ミセスBR、ココ・ソカ、ミスマリンの3人は顔を見知った仲であった筈です」

「だから?」

「今現在、そこから来る怨恨関係なのか、グループに関わる利害関係なのかを洗わせてもらいます」

MMは溜息を付いてエリーに毛布を掛けてから寝台から離れ、円卓の上のオレンジを絞って行った。グラスに注いで飲むと、他の余った分をデカンターに注ぎながら言った。

「あんたは全てに利害関係を置きたがっているようだな」

「はい」

リグは目をぱっちり開けてオレンジのフレッシュな香りに目をきょろきょろさせた。MMは肩をすくめて首を振り、「朝に飲め」とリグに言うと、リグは「うん」とこくりと頷いた。MMはそれを小さな棚を開け冷蔵庫にしまった。

「起きてしまったのねリグ」

「うん」

フィスターはそこまで行き、彼の髪を撫でてから布団をしっかり掛けた。

「もう遅いわ。ゆっくりおやすみ」

「うん」

リグは目をこすって眠りに落ちて行った。MMがその横に来てベッドに座り、髪を撫でるとフィスターはその手を見ていた。

「あなたにはお母様がいるんでしょう。こうやって、寝かしつけてくれた母親が。あたし達にはいても、彼等にはいないわ。その一人の少女の心を、灯火の消えてしまった今でも解明してあげたいのよMM。お願い。協力して欲しいの」

MMは視線を上げフィスターを見て、顔を反らして歩いて行った。MMはソファーに座り、フィスターはその背を見てからリグの髪を優しく撫でた。

エリーは夢の中でくすくす笑って寝返り、毛布を引き上げて足が出た。キリンに乗って駆け回っては、先生が転げ落ちたのだ。危ないから乗ってはいけませんと先生は腰をさすりながら言い、院内の子供達はくすくす膝を抱え顔を見合わせ笑っていた。そちらに行き、しっかり足先まで掛けてあげると、夢の中でふわふわの雲に乗るエリーの微笑む寝顔に微笑んで、金髪の髪を撫でてから彼女の額にそっとキスをしてあげた。しっかりしていて気の強い顔の子だが、やはり恋しいのだろう。

心が苦しくなった。

彼等は親を知らずとも、こうやって成長して行くのだ。立派に。

幸せを受けて来た自分達と同じ様に愛情を欲していて、彼等はつかめなくてもしっかり生きようとしている事を、両親達はどう思っているのかしら。きっと、身も切る思いの筈だわ。本当に。

MMはベッドに横になると肘を付き片膝を立て、フィスターを見た。フィスターは上目に射すくめられた。

「あなら、自殺を考えた事は?」

「あるわけ無いだろう」

「何故?」

「あんたはあるのか?」

「無いわ」

フィスターは目を伏せ、開いた。

「警部は……あると思います」

彼の手首には傷がある。いつも腕時計で見えないけど、ふとした時に填められていない手首には微かな線があった。一本じゃない。何本も。あの彼からは全くそんな時の姿なんか想像出来ない。怒りに燃えて血を流すのか、あの顔が悲しみに暮れ流させるのか、時々彼が、遠方を見つめる横顔が今にも膝を折り崩れそうにも見えた。

「あなたは何故傷口に辛子を擦り込むような真似を?あのリサという少女の映像を叩き付けたりなどして」

MMは視線を落とし、背を上に向けて顔をあちら側に向けた。

「あなた、彼を愛しているんでしょう?それならあんな事出来ない筈です」

「……」

「ねえ?」

フィスターは哀しみにも憤りにも似た目でMMの髪を見つめた。

「あなたの愛は愛なんかじゃ無いわ。本当に映像をあなたが流している張本人なら。良心の呵責が無い。人格すらよく分からない。あなたの心には何が住んでいるの?」

フィスターは立ち上がりMMの横まで来て鋭い目でその手首を取った瞬間、はっとして瞬きした。

MMは顔をクッションに着けたままあちらに向け、微かに震える手首はわなないていた。

恐怖?

「……」

フィスターは怪訝そうにその手首を持ったまま、口を噤むと泣くMMを見た。

「勝手なのね。映像を作っておいて」

「分かってる」

「呆れた人」

フィスターは出来るだけ優しく言った。

「誰かに命令されているとは思えないけれど、あなたには誰か繋がる人がいるの?警部を悲しませたくなんか無かったんでしょう?本当は辛いと思っている筈だわ」

「そういう言い方はやめろ」

「誰が止めるものですか。死んだ人たちにどう顔向けできるの?あなたはまだあたしと大して変わらない22,3歳。それでも真実に眩んで目を瞑るには心がしっかりしている筈なのに」

MMは泣いていた気配も消えた顔を上げ座ると闇の方向を見た。

「あなたには誰かがいる筈よ。恋人を作らないと社交では言われていて、恋人がいるからとも言っているわ。その人物はあなたの脅威なの?」

「好きなのはダイランだけだ。だから作らないとまでは行かないが、俺の脅威じゃ無い」

「何故男性を装うの?女性なら、女性として社交に出て権力に差し支えると?確かにそうでしょうけれど」

「出来ない物は出来ない。それだけだ」

フィスターはMMに睨まれたのを息を付き、空間を見た。

「警部はあなたを許さないわ。死を弄ぶ事もそう。リサさんの事についてもそう。警部があなたに惚れている事は目を見れば分かるけれど、あたしはそれを許さないわ。判断を鈍らせて欲しくは無いから。彼は彼らしくいてもらいたい」

「本性も知らない男を信用するんだな。強盗、殺し、闇金融を操っては必要なければ切り捨てて来た男だとあんたは知らない。多くの都市のギャングボスとも繋がって地下から操作を下しては闇で悪を尽くして来た男を警察は黙認している。特殊警察はそれを見逃さない」

「……。何の事?」

DDの幼馴染。スラムの出。元々質が悪かった。そういった噂が耳を突く。

「特殊警察というのは、富豪達の企業などを取り締まる機関の筈よ。何故警部が」

「さあ。何故かはダイラン自身がよく分かってる筈だぜ」

「彼はレガントの人間では無いわ。それはコーサーの事よ。あなたは勘違いをしていた様だけれど。特徴が似ているから」

「もしもあいつがジルの忘れ形見なのだとしたら?」

フィスターは可笑しそうに笑い、首を振った。

「ありえないわよ。47年前に既に死亡が確認された人ですもの。お墓が崩れて屍と化した人が現れるわけが無いわ」

エリーは背中に夢の中で極彩色の蝶の羽根をつけてはみんなで青空を飛んでいた。くすくす笑って、寝返ると可笑しそうに寝言で笑った。よほど楽しい夢を見ているようだ。雲に入るとペガサスの羽に変わり、雲を抜けると彼等はペガサスに乗って宇宙まで駈けて行った。

様々な惑星が一挙に眼前に広がる。

MMは彼女の髪を流して頬を包み撫で、エリーは微笑んだ。太陽には近づかないように飛んでいき、ペガサスは振り返って、しっかりつかまってと女性の声で言い、一気に銀河を駆け抜けていった。輪廻転生を繰り返す惑星、生命が続きリサイクルされていく。

雄大な宇宙は恐怖でもあり、そして巨大な母でもある。その無重力の母に抱かれて、彼等は幸せそうに微笑んだ。

誰でも知る宇宙が母なのであると思うと。

顔を知らない母と、宇宙が重なる気がした。どこまでも惑星を包み込んでは、一生を見てくれている。見守っていてくれる。成長する事を。死んで行く事までも安心出来る様。

フィスターは扉を閉め、MMは宇宙からゆらゆらと流れ込む月光の床を見つめていた。

鍵を閉め、彼女はダイランの元へ戻った。抱きしめたかった。もしかしたら彼も、親の顔を本当は知らないのでは無いだろうか。孤児院の子達と同じで。

「どうだったジェーン」

「それが……あまり詳しく聞くことが出来ませんでした」

「お前は!」

フィスターは肩を縮め、上目でダイランを見た。ダイランは「なんだよ」と口を噤んだ。

「あの、警部。MMとはいつから愛し合ってらっしゃったんですか?」

「………」

ダイランは口を一文字に目を見開き、フィスターを見下ろして踵を返して逃げた。頬が染まったフィスターは目を細めてそんな彼を見ると、その背に呼びかけた。

「警部はレガント一族の人だったんですね。隠す理由があって?」

「ったく、あの小僧も俺をコーサーの野郎と間違えやがって。あんなのはMMの勘違いだ」

「そうですよね……」

「尋問するつもりか?」

くるっと身を返し、フィスターはたじろいで首を横に振った。

「ですが、MMは様々を知りすぎています。MMの中には何らかの、もしかしたら恐怖心がある様に見えました」

「お前を油断させようとする演技だ」

「ですが何かを悟った事実は変わりません」

「一体何を」

「不明です。犯罪者の心は移り気です。少なくとも、精神が犯行時は興奮状態になるか衰弱気味にはなるという物です。そんな中で覗かせた物を演技とは言い切れない物を感じたんです」

「MMの脅威になる存在?思い浮かばないな」

「ええ。誰一人として。彼が何を媒体に大きく動いているのかを知ることが出来ればいいのですが」

「今の所はサダン周りの人間を徹底的に洗う。並行して自殺者のダイレクトメールから心情を窺う」

「はい」

ダイランが歩いていく背を見て、フィスターは安心した。彼には心があるわ。コーサーが街の事についてのふとした言葉が気に掛かっていたから、フィスターはダイランの言葉に安心したのかもしれない。だから、MMの言葉はまだ信じられなかった。彼が事実、過去の犯罪者であった事など。噂が立つ場には真実があるとしても、真実はその噂でゆがめられる物だ。

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