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カラー=ブルーグレー

カラー=ブルーグレー



 今回フィスターとコーサーは、ダイランからポッカーの父親の職業を聞き因果関係を洗って行くと、色彩好きのある一人の富豪を思い出し、彼女はマンションの庭園デザインをジェポンの会社に依頼する贔屓だったと分かったのだ。見事、このピンクの建物がヒットした。

 この老婆は広大な敷地に屋敷を構え、何度もパーティーの際にキャリライもシバーラと共に招かれている。

老婆はMM会員としても名が通っているが、今は何やら相続問題に揺れている様で、その彼女の孫や姪っ子達も会員だった。

「あらあなたは。よく見ればミスターレジェルトのご令嬢じゃない。随分ご立派になられた事」

「ご無沙汰しております」

フィスターは幼い頃の事は覚えてはいなかったが、一応は礼をしておいた。

老婆は少年の走って行く小さな背を一度見てから2人を見て微笑んだ。一気に妖艶な顔つきになり、狐に摘まれた気分になったフィスターはコーサーの横で上目になりはにかんだ。

「ミスターはいつになったら飽きて警察の真似事をやめるおつもりかしら?どうせ、このマンションで起きた飛び降り事件の事を調べているんでしょう?」

「はい。ご協力願いたい」

「どうぞ中へいらして。レガントのご子息をまさかずっと立たせているわけにはいきませんからね」

「お気になさらずに」

「どうぞ」

有無を言わせぬ迫力で静かに言って、コーサーは口元の片端を上げフィスターと共にエントランスを進んだ。このまままでは気迫にのされてはぐらかされ終わる。そういうわけにも行かない。

「あの少年は?」

「ああ。犬ですわ」

「え?犬?」

老婆はやはり全てが様々なピンクカラーのラウンジまで歩いて行くと、そこを横切りエレベータの金のボタンを押した。

振り返りにっこり微笑み黒石材に金の象嵌の扉がスライドしたのを促した。

どこも濃いピンクの色合いに浸蝕され、色合いの違う石材で囲まれたエントランスホールだ。そのホール中央の部分に、白石材の六画を金枠で縁取られ、6本のピンクの柱に囲まれ、白石にレッドピンクの大輪の薔薇が象嵌されては、その艶の薔薇にシャンデリアが映っていた。右側には受け付けがあり、金透かしの中央が薔薇の石材レリーフ、黒石のカウンター、サイドをサーモンピンクの柱に囲ませ、ここまでピンクの世界だと、映像で見かけた白の場所が全く思い浮かばない。

扉が音も無く閉じられた。

緩い女性シンガーのハスキーな声が極小さく鳴っていて、緩やかだった。

広いエレベータルームは、壁際にピンクビロードのベンチがあり、金装飾で縁取られていた。

扉が開くと群青色が落ち着き払って広がった。

黒くモスク内部の様な石膏天井が連なり、銀のシャンデリアが狭い通路には下がっていた。

横に長い填め殺しの窓を振り向いた。

白く浮くような中庭が広がっている。さっきの少年が、見下ろす下の円形のプールで泳いでいた。夜の青と銀のライトに照らされていた。

その上部には滑らかなカーブを描く空中公園が浮くようにあり、他の階から出られることになっていた。草木が白のベンチなど、白の石畳にセンス良く配置されている。

マンションの内部壁に囲まれた丸い夜は飲み込むように、白の空間に浮いていた。

老婆は狭い廊下を歩いて行くと、突き当たりの扉を開けて中に促した。

金と焦げ茶暖色、温かみのある配色の落ち着き払ったアンティークな室内に通されると進んで行き、扉を潜って広いホールに出た。

白と水色の月光の差す空間はグレーマーブルと練乳色の石材で出来上がり、唯広い。カーブを描いた壁は中央がワイドに羽目殺しになり、街が一望できた。サイドの白いし壁に並ぶ窓は銀枠で、エレガントでもあった。

外の白い明りはホール床の水灰マーブルのブロックを照らしている。

街を一望できる窓壁際に設置された、シルバー金属の緩く光る応接セットに促された。本題に入らなければならない。

「何故警察に届けなかったのかを聞きたいんでしょう」

「はい。少女はこのマンションの住人だったのでしょう」

「ええ。そうね」

「彼女の家族は?」

「さあ。捨て犬に親の顔を判別しろだなんて、鼻が利かない限り」

フィスターは水灰マーブルのテーブルを叩き、老婆を上目で睨んだ。

「あら。ごめんなさいね。言葉が下品だったわ」

「住民のデータを渡して頂きます。もちろん少女の家族に関しての契約書のみで構いません。家族がいないのなら、彼女自身の物を」

「ありませんわ。契約書なんてものはね。あの子はあたしの養子ですから」

意外そうな顔をして彼等は「ああ成る程」と言って頷いた。

「あの少年は彼女のお友達ですか?それはショックが大きかったでしょうね」

「そうでしょうねえ」

少女の行っていた小学校や公園の様子だと思った遊具のあった場所は孤児院だったのだろう。

どうも養女にしたにしては他人事で、どこかフィスター宝石職人の老人に対するシェリダンの様子と同様に思えて閉口した。資産家という物は貧者に対して冷た過ぎるのではないかと思う。そんな浅ましい世界なのだろうか。自分のパパは優しいのに。

「何故あたなは少女を養女に引き取られたのですか?あなたにはお孫さんや姪御さんがいらっしゃるでしょう」

「ええ。でもね、彼女等は血縁内での争いに忙しいですわ」

彼女は可愛がられていたようには到底思えなかった。何も無い室内で彼女は一人きりだった。淋しく孤独の風だけが占領していた。両親に捨てられた悲しみだけとは思えない。

きっと養女だとは世間には隠していたのではないだろうか。だが、立派に仕立て上げ将来の一族に加えようとしていたようにも思えない。遺産を彼女に譲渡しようなどという様にも。

遺産相続に関わる事でも無いとしたら、一種の老婆の気紛れで一時の慈悲を?それとも、自殺映像に加えるために適当に場所と人物を提供したのだろうかとも思った。

それをこの老婆なら何も思わずにしそうだ。何の得にもならない事だ。死を得に変えたくも無いのだが。それか、少女の本当の親と利害関係があるというのならまだ筋は通る。

「このマンションの中庭を先程拝見しましたが、設計を任されたのは今回息子さんを自殺で失った大手設計会社の人間ですよね」

「そうだったわね。息子さんが映画俳優だとは知りませんでしたわね。設計図があるはずだけれど」

「ジェポン社長との交流は?」

「ええ。社交程度でなら。今年も春に行われた慈善パーティーで共にリボンを切った仲ですわね。あなたのお婆様もいらっしゃって」

「ええ。そのパーティーは耳に入れています」

コーサーはフィスターが切り出そうとしたのを彼女を見た。

「社長との利害関係は抱えていらっしゃいますか」

「ございません」

老婆は可笑しそうに指を口に当て笑った。

「何かを画策していると?」

「どうでしょう。MMとのご関係は?」

「会員ですからねえ」

「どういった」

「紫の会に」

フィスターは片眉を上げ、老婆を上目で見た。しばらくしてから頷いて、老婆はそんな反応のフィスターに微笑した。ふぃうsターは口端を上げはにかんでから腕がざわついたのを擦った。

「大丈夫かい?」

コーサーは小さくそう優しい声で言い、フィスターは小さく微笑み頷いた。

フィスターの最近の調べでは、紫の会は他に黒の会、銀の会などがあった。紫の会はいわゆる女しか入れない会で、レズビアンとバイの会だ。黒の会は男しか入れないゲイの会であり、銀の会だけが全てのそれらの特殊な性癖を持った人間達の会だった。それらは確かランク付けされている。ココ・ソカももちろん加盟しているようだ。

フィスターはあの時追い掛け回された恐怖を思い出し、背筋を伸ばした。

老婆がわざとそういう事を言ってきたとも思える。

警部の話では、どうやらポッカーの母親も紫の会、薔薇の会のMMメンバーであったらしいと聞いていたし、一般ランクの金持ちがロイヤルメンバーになれるはずも無いから何らかの女の繋がりがある筈だと言っていた。MMに掛け合った女性がいるとすれば、ココソカしか思い浮かばないとも言っていた。きっと気に入られていたのだろうとも。レズビアン達には飼う方、飼われる側の関係もあるらしいから。

はっきり言って、フィスターからしたら偏見や差別、拒否以前に彼女達には耐え難い恐怖心しかなくなっていた。その中の女王に君臨するココ・ソカにも強大に。

確かにあのMMの作りそうな会でもあった。確かSMである赤の会もある。緑の会がニューハーフ達、他にも様々な趣向の会があった。透明の会というものがあって、それはそれらの性癖に片寄った会ではなく、シャンデリアの会だった。

「あなたはMMの性別は男性だと思われますか?女性だと思われますか?」

「MMの性別?」

老婆は可笑しそうに笑い、そんな事を聞くことが愚かであるように背を付け煙管から立ち上る煙が渦巻いた。ドラゴンを描く様に引いては戻してから体を前に、目を細め言った。

「彼は男よ。あたし達には嗅ぎ取れるの。そういう性別の詳しい事がね。何寄りの何なのかも」

フィスターは顔を仰け反らせて口端を引きつらせた。老婆は鼻で笑い背を戻して言った。

「でも女でもあるわ。同じ様にあたし達の鼻はそう嗅ぎ取るの」

「どっちなんですか。真面目にお答え下さい」

「そういう存在なのよ。MMはね」

そう微笑んで言い、続けた。

「何故そんなに彼の性別にこだわって?」

「性別だけの事ではありません。彼の国、人種に関しても。それに、女性が起こす事件と男性が起こす事件では大きく変わります」

「MMに変わるような物はありませんわ」

フィスターはからかって来るのを呆れてコーサーを見た。

「マンションで起きた飛び降り自殺事件の話に戻りますが、養女として少女を引き取った際に施設でどういった話の経緯を?」

「「そんな物あたしは興味ありませんわ」

「自殺した今でも気になりませんか。親御さんは今もどこかで暮らしているのかもしれないのですよ」

「さあどうでしょうねえ」

「何の為に引き取って」

「それは身寄りの無い可愛そうな少女を淋しい老後の楽しみにしたかったからですわ」

フィスターは淡い色の目玉をぐるりと回してそんな気も毛頭無い老婆のそれと分かる故意な偽善的哀れ顔に立ち上がって窓の外を見た。

「彼女が飛び降りた場所はこの大きな窓から見えますね」

フィスターはそう言いガラスの壁に手を当て、老婆は立ち上がりその横に来て窓に背を付け煙管の煙を細く吐き出した。

「ええ」

「見ていたのですか」

「ふ、まさか。一少女の飛び降りなんて面白みも無いわ」

「当然です。残酷な事ですから」

マンションの所有する細長い公園の横に広がる、舗装された硬い地面に少女は落ちたのだ。今は跡形も無くその気配すら拭い去っている。

「揉み消したと言う事ですか?」

「マンション経営をする側としては、悪い噂など付けられたらたまったものじゃありませんもの。窓から目撃した住人が3組、出て行ってね」

「警察署への報告は義務です。遺体はどうされたんですか?」

「さあ。警察の人間にお聞きになれば?」

「それではFBIが動いていた時期にあなた所かこの街の警察署も申告を怠った事になります」

「さあ。そんな物あたしの知る範囲では無いでしょう。毎日自殺する物の多いこの街で、一人の少女の自殺がどう大きく分別されるというの」

「他人事ではありません」

「感情的に怒ると可愛いわねえ」

「元から可愛いです!!!」

フィスターはそう怒っていい加減頭を切れさせてコーサーが彼女を抑えた。

「茶化すのはやめなさい!養女にした少女への冒涜的言動です!!あなたには心という物が無いのですか!少女を身内へ引き入れて少しでも可愛らしいと思った事や自らの若かった時代を思い返した事は!」

「フィスター冷静になって」

フィスターは踵を返してソファーに腰掛けコーサーは宥めるように囁いた。

「彼等がそんな事を考えるわけが無いよ。人格は変わらない」

老婆は可笑しそうに笑って窓に寄りかかり、横に広がる外のそれらの風景を首を反り見てからフィスターに顔を向けた。

「お父様にそっくりねえ。彼も優しい話し方をする方で、あなたのお婆様もお母様も大層な癇癪屋。それにあなた自身は数ヶ月前に死んだマイアミの恋人を葬儀で遺族の前で冷たく罵ったりなどして恋人の男友達に殴ら」

フィスターはがたんと立ち上がってきつく老婆を睨んだ。コーサーはそんな話に驚き瞬きして、フィスターから涙がぽろぽろ落ちて来たのを見上げ、肩を持って座らせた。

「我々の捜査を攪拌なさらないで頂きたい。公務執行妨害ですよ」

老婆は緩く微笑んでからソファーに座り、フィスターの髪を撫でた。

「辛いなら辛いと言っておいた方が可愛いわよ」

「うるさいわね!!!」

コーサーは怒鳴ったフィスターに驚いて横をばっと見た。

「あなたに引き取られたあの少女が哀れだわ!!あなたが自殺に追い込んだんでしょう!!」

「ええそうよ」

表情も無く老婆はそう言い、フィスターは逆に落ち着いて老婆を見た。

「ストレスからでしょう?どうせ屋敷に帰っても醜い相続人争いだものね。可愛らしい物を手元に置いておきたくなっていつしか憎くなっては子供の様に壊したくなる。それは遊びだったから。立派な自殺者に仕立て上げ映像に加わらせたくなる。飽きれば面白半分のゲーム感覚に巻き込ませてどうも思わすにやって、あの映像はあたしの部屋にいきなり送られて来たものだったわ!とてもショックだった、どうしてもあの子の無念を晴らしてあげたくてあたしは動いて来た、それをあなたが追い込んだだなんて、あの少年があまりにも可愛そう!」

「この世には存在に値しない物が氾濫するからあたし達が引き立つんじゃない。可笑しな偽善事を言うのねえ。あたし達の税金で彼等は国に生かされている。ミスターもそうでしょう?そうやって良い人振るのも大概にしないと、将来の街の権利をお婆様から渡されなくなるんじゃなくて?」

「奇麗事で済まされる事ですか!とんでもない歪んだ人だわ!あたしはそんな考えに一存する人の納める街にはいたくはありません!コーサー?あなたは優しくてこころある人だものね?」

「え?ああそうだね……。何十年の後の話より事件の事だよフィスター」

「まあ!近い事の様に考えてくれているとばっかり」

「ごめん。落ち着こう。感情的になり過ぎているんだよ落ち着いて」

冷静になっていなくれは見逃す事が多いが、一貫して冷静なコーサーにも、フィスターを怒らせる老婆が高笑いする裏は見抜けないままだ。彼女を使いたい訳でもないが、ただ言える事は老婆は何か考えがありそうだと言う事だ。MMに繋がり、彼に言われているのだろうか?捜査を困惑させろと。

フィスターは自分で座ってから真っ赤に怒った顔を表面だけでも落ち着かせた。

「でも自殺に追い込んだだなんて、実際の証拠なんて無いわけだし彼女が勝手にこの状況に不満を抱いて精神的に自己を追い込んだだけでしょうに、何も出来無いわね?」

確かにそうだった。

「それが何がしかのポッカー氏の自殺の周辺に関わる事ならば別です」

「どう関われと?」

「あなたは自殺映像を取り寄せましたね」

「悪いけれど、そういう悪趣味な事は好きでは無いの」

「何故悪趣味だと分かるんですか。取り寄せていたからでしょう。数種類」

「自殺映像というだけで正常とは思えませんもの。取り寄せていたのは友人がね。あたしはそれを見ただけですわ」

「それだけで済むかしら」

「ええ」

「その人物の名を提示して下さい」

「あたしにその権利は無いわ。各人の自由と仲に反しますからね」

フィスターは憤然として、コーサーははにかんでこれは後日逮捕状を持って同行してもらうことにした。このままでは冷酷な犯人討伐に燃えるフィスターの頭の血管が切れてしまいそうだ。

老婆は依然、それを悠長に見下ろしていた。

「今日の所はもう宵も深まって来たので一時我々は帰らせて頂きます」

「ああそう」

コーサーは立ち上がるとフィスターの背を叩いて立たせた。

「捜査協力感謝します。それでは、また後日逮捕状を携え参りますので」

コーサーの鋭い目に老婆は目元を初めて引きつらせ眼を細め、彼はそれを見据えてから踵を返し歩いて行った。


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