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カラー=プラチナブラック

カラー=プラチナブラック


 「じゃあ猫君」

「おいどこに行くつもりだ」

「後は映画俳優周辺の事は君が調べなさい。僕は他の自殺者の遺体を調査するのでね」

ダイランは夜の街を見回し、闇は極彩色で彩られている。背後のラヴァスレッイリに言った。

「お前、自殺を考えた事はあるか」

彼は闇に向かっていたが、歩みを止めた。ダイランは闇を見ていた。

「自殺なんてひっそりと死んで行くか、大々的に公表されるかどちらかだ。遺体はどうせ消える」

ラヴァスレッイリは振り返り、しばらく黙っていたが息をついた。

「さあな。自殺者は死んだ後の事を考えていないんじゃないのか?生きている内に死体になった後の処理をしやすいように部屋片付けたり遺書という形で死亡診断書でも用意しておけばいいだけだと思ってるんだろう。だが、遺体は消滅しても記録という物は残る物だ。本人がどんなに消したくてもな。重い事だ。全てを放り出して自殺をするという事は」

ラヴァスレッイリは黒猫と共に闇へと消えて行った。

 ダイランはしばらく白い煙を立ち上げると、壁に寄りかかって夜を見上げた。

自殺なんか、絶対に駄目だ。それを人々には言えない事だった。ダイランにはまだ、止める事が普通だが、そんな勇気が持てなかった。辛い事だけに自殺する奴等ばかりじゃ無い事も知っていた。

死は快楽だ。そう提示し身を浸す人間もいる。

死への酩酊。浮れ騒ぐ死への羨望。

だが、そんな一部の人間共でない苦痛の自殺者にも言えなかった。もしもビルの屋上、泣き叫ぶ者がいれば、自分も共に足並み揃え、飛び込んでしまうかもしれない……。

それでも助けたかった。リサが自殺した時、ダイランは何をする事も出来なかった。

 生に執着する人間は渦巻いていると言うのに、諦めたら呆気無い生命だ。

あんなに生きている内は、生を、愛情を、望を、全てを模索していたというのに。我武者羅になってでも。

死を深く考える事ばかりいる事が生でもあるのだ。死自体が生命だ。しがみ付きたい物が生命だ。

惑星は死ねば多くの星に分散され輝くが、人の魂は星までは届かずに、地球の引力で地上に渦巻く事も、足元を掠めることもせずに、心の中だけに染み込んでくる。それでも星を見上げる。

役目を終えた惑星が、大いなる宇宙に分離して包まれる事が、生命にもあってもいいんじゃないかなどと思いたいからだ。それほど死んで行った者を夜空にまで羨望したいからだ。輝く美しい水面に乗せ、生命一つ一つも軽かったわけじゃ無いと分かっているからだ。

 自殺した人間ほどに抱える巨大な大河に乗って、死んでしまえば飲み込まれる。宇宙ではない、他の闇に投げ出され、その魂を癒す者は遺された者だけだ。癒しきれるというのか、そんな事が出来ると言うのか……。

出来なかったからこそ死んで行くのだと、遺された者は感覚が闇に落ち、そして、それでも前を向かなければならない。

それを、留めるのは生きている内だけだ。手遅れにならない内に。

 ダイランは身を返し歩いて行く。一度住宅街のある方向へと進めさせ……

ドーンッ

「……」

 約4キロ離れた地点、界隈の中心部か。

巨大な爆破が巻き起こり、暗黒に炎色と黒きのこが巻き起こった。ダイランはそちらへ走った。

 MMは咳き込んでパイロットの背を叩きつけ、パラシュートにまで火が燃え移った。黒く煤にまみれながら逃れ、パイロットは渋い顔を歪め肩をすくめさせた。

ジェットが一直線に地面へ向い激突して行ったからだ。

「あんた、あんたもう首だ……」

「わざとじゃあ無い。整備不良も無かった」

「首だ首だ金塊よりも鉄の塊が好みじゃなかったらな!」

「冗談。金塊の方が魅力的だ」

MMは激怒し腕で顔の煤を拭ってから真っ黒になった白の上着をパイロットに投げつけ歩いて行った。女性とも思えないそんな行動にスパニッシュのパイロットは色目になり微笑んだが、どちらにしろ服を持ち後を追い渡した。

「即刻MMジェットの他の機体も調べさせる。現在の顧客の安全度も……」

「MM。ガスタンクが空だった」

服をMMの肩に掛けながら、随時状況確認機を示した。MMは男を横目で睨み、ばしっと胸部を服で叩いてから腰に手を当て振り仰いだ。消防車とレスキューが駆けつけ、黒の雲を赤く回転させ照らし付けた。

パトカーが流れて行くのを身を潜めた。

「おいこら」

MMはふと背後に顔を振り向かせ、一気にバチンと猫騙しを食らわせ走った。

ダイランは両頬を押えてからMMの腕を引っ張り、こめかみにパイロットが何かを突きつけダイランはそちらを睨み見た。媚態のあるスペイン男はケリーナの友人のアフロパイロットとは別人だった。

銃は大振の拳銃。護衛でなく、殺傷力重視の代物だ。

MMの腕を放し、だがその瞬間ダイランはMMの首に腕を掛け地面に叩きつけ、MMは鋭く肩越しにダイランを睨み険しい狼の形相で牙を剥いた為にダイランは驚き腕を離す瞬間を噛み付かれた。

「んの、糞ガキッ」

血の出た手を押え、MMの薄い腹に乗って口に指を突っ込みMMは泣き叫びそうな顔で腕を引っ掻いた。

「妙な物填めてるんじゃねえ!!」

「やめ、ちょ、酷、」

思い切り頬を引っ張り、口を開き見える範囲は人間の物だが、ピンク色の歯茎から生える真っ白の奥へ行く程の犬歯は、牙になって行った。作り物では無かった。

「……、」

ダイランは眉を潜めて頬を押えるMMに乱暴に振り払われ、砂にまでまみれた白の服を払った。

パイロットは持ち主に拳銃を投げ渡し、手に収め、プラチナ製のその大振の拳銃を回し腰に射した。MMと拳銃。どうしても結びつかなかった。あつかえる様にも思えない。

ダイランはMMと黒髪の男を交互に睨み見据えた。

「お前はポッカーの自殺に関わっているんだろう」

「一切映像には関わっていない。何度言わせるつもりだ?」

「ポッカーの母親はMM会員だ。調べは着いてるんだぜ」

「さあね。そんな事実は無い」

MMは背を伸ばし毅然とダイランを見下ろし見据えた。

「ポッカー自身とは関わりがあるのか?奴はお前の会員のメンバーだったんだろう」

ポッカーはアングラ会員のメンバーだ。以前からハウスでよく共にはしゃいだ仲でもあるのは確かだった。

「来い」

ダイランは背後に顎をしゃくり、MMはハッと息を吐き棄てた。

「警官に好んでついて行く野郎はいねえんだよ」

「いろいろと事情聴取をしなけりゃならないからな。今の所はお前が故意に身動きを止めた警察には連れて行かない。だから来い」

「断る。暗殺されたくねえからなあ。俺まで著名人の死でニュースに挙げられちまう。金融界のブラックボス?」

挑発的に笑みそう言い、ダイランは目を細めた。

「何の事だ」

「さあ。どういう事だろうな」

サイレンの群が近づいて来る。MMはそちらを狼の様に仰ぎ見ると、ダイランを横目で睨み颯爽と歩き出した。

横のMMを一度見やり、MMは夜に沈み前方を見下ろしていた。

「さっさと連れていけよ」

ダイランは息を吐き棄て、後方からパイロットも来た。彼はダイランが置いておいた写真を取ろうとしたのを横から取った。

「リカー=M=レガントか。いい女だったな」

ダイランはそれを奪い取ると男に歯を剥き、脇に抱え進んだ。

パイロットは進み出した背後に闇が流れて行った。

「お前、本名は」

「あ?教えた筈だぜ」

「シラを切るんじゃねえよ。本名は」

「M、M」

そう目を大きく言い、その目を睨んでから闇に目を走らせハンドルを切るかの様に写真を逆側に持ち替えた。

背後のパイロットはティアードロップをかけ悠長にしていた。

「お前のご主人の本名は何だ」

「MMが本名なんじゃねえのか?」

「んなわけねえだろうが。適当言うなよ。MMってのはお前の本名の頭文字なんだろう。それをお前等に言えって言ってるんえだよ」

「さあね」

「言え」

「さあ」

MMはこのままダイランを捜査出来ない様に出来る。いつまでも周りを身分の怪しい警官にうろつかれては迷惑だ。

「女王の自殺に関してだが」

街は派手さを一時増して行き、背後の派手な爆破さえ飲み込んでいく。

「知らない」

「お前の人種は」

「知らない」

「母親の名前は」

「知らない」

「誰のジュニアだ」

「知らない」

「お前男か」

「知らない」

「ジェイシー=サベル=ジェポンとビジネス上で関わっているんだろう」

「知らない」

「お前の国の大統領は」

「知らない」

「自殺者映像の製作はどこと作った」

「知らない」

「遺体が続々挙がっている事を知っているのか」

「知らない」

「何が好きなんだ」

「知らない」

「このパイロットの名前は」

「知らない」

「お前の名前は」

「知らない」

界隈を抜け行き、この街を抜けると、MMが歩みをダウンタウン側へ進めさせた。仕方なく服を変える為にユニオン・スクエアに向かう。

デパート前に着くと、MMはパイロットに服を買って来させるように言った。macys近くの車両に乗り込み、MMは颯爽と左側の助手席に乗り込んだ。

ダイランはMMの長い足を退けてクラブコンパ−トメントに写真を入れた。プラチナの装飾のネックレス、ピアス、ブレスレット、腰周りに巻かれたアクセサリーを放り、ダイランを横目で見た。

「あんた、俺を逮捕してどうするつもりだ?何の罪にもならないんだぜ」

今の内は何の表面化された罪の無い事は事実だ。

「映像では逮捕できなくても利害関係から来る自殺幇助は犯罪だ」

「利害関係なんか無い」

「ある筈だ」

まるで造形美の静物の様な横顔を見て、体を向けた。

「俺は何にも関わりが無いどころか、ただパーティーを愉しんでいただけだ。それだけで疑われるなんて筋違いな事だ」

「あの白のマークはお前の団体のマークの筈だ」

「そんな筈というだけで決め付けるな。俺はパーティーに現れて、偶然女王が気を触れて自殺して、その現場に居合わせて、それで何だよ。あんたは単なる直感で俺を大衆の前で「犯罪者だ」と呼び棄てた。あんたを訴えたっていい」

「……」

ダイランは闇を見つめ、車両を動かした。

「お前はリサの映像まで俺に叩きつけて来た」

MMは前方をシートに沈んで見たまま、水銀色の瞳は何を見ているのかも不明だった。

「死を侮辱する人間は死に侮辱されるだけだ。何を築き上げ様ともな」

MMは息を付いて両手を広げた。

「ああそう」

「そうだ。お前がやっている事は犯罪じゃなかろうが人徳に欠ける事だ」

ダイランの横顔を見て、ダイランは顔を向けた。

「あんたは安直に人徳を口にする路なんか歩んでいない筈だぜ。黒く塗りつぶされた経歴と俺の経歴とは違う。犯罪者の目をした警官が本気で他の犯罪者を捕まえられているのも今の内だ。あんた程、罪逃れをしている人間はいない」

「何で俺がレガントの人間だと知ってる。どういう手を使って情報を集めているのか分かったもんじゃねえな」

「はぐらかすんだな。自分の罪には」

「今はお前の犯罪だ」

横目で睨み反らして進めさせた。

パイロットが歩いて来て、彼は後部座席に乗り込むとショッピングバッグを渡し腕を頭の後ろに回しゆったり座った。

MMは上着を放ろうとしたのを、ダイランを睨んだ。

「あんたホモか?じろじろ見てるんじゃねえよ」

「なんだと?俺は女好きだ!!」

「出て行け!!」

「厳密にはグラマラスな美」ドカッ

MMに蹴り出され、パイロットに笑われたのをダイランはそちらを睨んだ。

「なんで野郎同士でこんなに罰悪くならなけりゃならねえんだブツブツ」

車両のケツに背を付け、横の電柱に背を着けるパイロットを見た。

「おい。奴は女なのか?」

「さあ」

「お前の主人だろうが」

「しらねえもんはしらねえよ」

「ふざけきった連中だなお前等ってのは」

「金持ちの秘密主義は止め処無いんでね」

「抜け抜けと言うんじゃねえ」

MMは背後を睨み、何故重点的にポッカーの両親にダイランが目を付け始めたのかをいぶかしんだ。

自殺志願者が纏まったのは偶然だ。きっと、死を食い物にするからだろう。邪魔はつき物というものだ。

MMは白がトレードマークだ。その為、パイロットは白を買って来ていた。白馬毛皮のパンツに足を通し、元々釦のあるシャツは嫌いだ。それも分かっていた。腕を通し、裾に取り付けられた腰周りのシルバープレートのドラゴンバックルをかちりと填めた。肩に掛け、シルバーまでをドレープがなされ、肌はへそ下まで綺麗にVを描いて空いている。

まだ入っていた。MMは箱を開け、後方のパイロットを睨んでからそれを戻した。黒ビロードで黄金蛇装飾が中心についたビキニブラだった。生まれてこのかたそんなもの着けた事すら無い。時に意地悪なあのパイロットをもう一度小さく呪ってから、プラチナの髪をさらっと流した。

「お待たせ」

と、澄ました感じで窓枠に肘を掛け言った。ダイランは憮然として振り向いてから乗り込んだ。

「ったく、王様気分だな」

「王様気分の男がこんな低俗な場所で耐えられると思うか?」

ダイランは管を巻いて走らせた。

「何でもお前は着こなすんだな」

「任せて」

「年齢は」

「22。あ」

MMは視線を外してから言った。

「222歳」

「嘘付けっ!!お前なら有り得そうな気がして恐いんだよっ」

どこかナチュラルな風が掠めたが、これも演技だろう。引っ掛かるつもりは無かった。女なのかも男なのかも本気で分からない相手だ。

ダイランは溜息を吐きシートに沈んだ。

「お前はどうやら意外と人間味があるようだな」

MMは風を切る様に髪をさらつかせていたのを、それを今度は嫌う様に窓を締めた。

「悪魔かと思ったか?」

「宴の時とはてんで別人だ」

「宴時は装ってんのさ」

「何を」

「さあ。気も張り詰めるって物だからな。それが普通だろう」

「胡散くせえ存在だ」

「どうも。俺の全てをペテンに思ってくれて結構だが」

「ペテンでのし上がれるランクじゃねえ事位分かってるんだよ。お前は何処の貴族の人間だ。今の地位の元に敷いて来た犠牲を言え」

「さあ。幾人もの命だ」

ダイランはMMを睨み、遠い道のりをジェポン屋敷まで走らせる。

「警官が俺と共にいる事を見られたら、罰が悪いんじゃねえのか?」

「お前が犯罪者ならな。身分を明かさないからには、相当の理由でも抱えてるんだろう。明かさないわけじゃ無く、明かせない何かがな」

「はったりかましてるだけだ」

「実はどこかの王子様なんじゃねえだろうな」

「さあね」

有り得そうな気がしてダイランはMMの美しい横顔を睨み見据えた。女顔だ。美形どころの問題じゃ無い。人種は不明だが、エキゾチックさも風雅に漂う。完全な北欧か、洗礼された顔つきはフランスも思わせる。だが、顔つくりは極めて派手だ。大きく厚い唇、大きな目は猫の様で、際が強い印象。だが、白い肌は余りにも白く、どこかしらロシアも掠める長身だ。

「お前、エジプシャンの血が流れてるのか?ロシアやフランスもだ」

「さあ」

「髪は元は何色だ。瞳は義眼なんだろう」

MMは鋭くダイランを睨み付けた。

「侮辱か?全て俺の体は自前だ」

「牙なんか人間に生える訳が無いだろう」

「生えてるもんは生えてるんだよ」

また前に向き直り、MMは驚いてダイランに強烈なビンタをした。ダイランは右頬を両手で押えシートにこめかみを付け、腫れるんじゃ無いかと思った。パイロットは口笛を吹き、眉をおどけさせて頭の後ろに手を回し枕にした。

「女じゃねえか」

ダイランは悪態を付き痛む頬を押えて痺れた。MMは目を鋭く前方を睨め付け、ダイランを睨み見た。

「だから何よ」

ダイランは激しく瞬きし、完全に女の物の険しい艶顔と、完全なるハスキーだが高い女声に瞬きが止まらなかった。

MMは腕を組みダイラン側の足を曲げ前方を睨み口を閉ざした。

ミラーのパイロットの様子を見ると、どうやら知っていた事らしかった。性転換とも思えない顔だった。

ダイランは口を噤み、そのまま車両を進めさせて行った。

頭は真っ白になった。

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