色彩の称号=空の遠くまで
色彩の称号=空の遠くまで
僕は自分の部屋に戻って来ると漸くビデオを片付けた。先生達がシチューを作っているのが匂いで分かる。買って来た3本の牛乳は今、塩とか、きっと生クリーム、それとかコンソメの味で温まっていた。
部屋を片付けると僕は広場に来て辺りを見回した。
この孤児院には12人の仲間がいた。先生は4人いる。院長先生は1人だった。警備員のおじさんが一人いて、公園の横に立って新聞を見ていた。窓から離れて走って行った。
「マリーに会って来たの?」
僕はびくっとして振り返ると首を振った。縦にだったけど、また横に振りなおした。
「また嘘付くんだ。先生に言っちゃうからね!」
僕は嘘吐きだった。孤児院ではよく嘘をついていて先生達は呆れていた。本当のことをいう事をためらうだけだ。真実って、恐いからだった。言えなかった。あの子にだけは不思議といつでも本当の気持ちを言っていた。
あの子はこの孤児院でいつも暴れてばかりいた。無茶ばかりして先生を困らせていた。誰もが恐がってたのを、僕はある日話し掛けてみた。一瞬で仲良くなった。
「マリー、いいよね。あたしもマリーのマンションに泊めてもらおうって計画してるの」
「駄目だよ。オーナーのおばさんは二人も育てられない……」
「嘘よ。だってあのオーナーは金持ちなんだから。いくつも大型マンションを建てて金持ちに貸してるのよ。あの子だけ見栄えいいから気に入られただけじゃない」
「でも」
自殺したんだ。危ないよあのマンションは
言えなかった。
「でも、気に入られるわけ無いよ」
「嘘吐き!あたしはこんなに可愛いのよ!!もうあんたなんか大嫌い!!」
彼女はかんかんに怒り泣いて走って行ってしまった。僕は追いかけた。
「嘘じゃ無いよ」
危ないんだから。あの子が自殺したのがなんでかなんて分からない。心の中だけの事かなんて信じたくない。
「そんなにあたしが可愛くないっていうの?!」
「そうじゃないけど」
「じゃあ可愛い?」
「うん可愛いよ」
「嘘吐きだからまたこれも嘘なのね!!」
「もう勝手にしてよ」
「馬鹿!」
「痛い!」
びんたされてそのまま放っておかれて僕は頬を押えた。
また嘘ついちゃったよ。
僕は歩いて外に出るとまた遠くにある白い建物を背を伸ばして見た。
「リグ。今日もマリーと水族館にいけなかったのかい」
「うん。マリーは遠い所に行ったから。もっと近い街なら良かったんだけど」
もう死んだのに生きてるなんて嘘を吐いていた。
「なにかあったのか?元気無いじゃないか」
「僕……」
僕は石段に座ってカットバンの張られた膝小僧を見下ろしてから青い空を見上げた。風が僕の耳の横を通って行った。
内緒にしておくのは辛い。彼女の生きていた事とその証、死んだだなんていう事。
「僕、どこまでも泳いでいけたら良かったのに。マリーの所へだって唯一繋がる空を泳いでいけたなら良かったのに、何があった時だって、不安な時だって、嵐の時だって飛んで行くプロペラが僕の頭についてればよかったんだ。そうやって生まれてくてば良かったんだ……」
僕は、泣いてしまう前にジャングルジムの横の鉄棒に走って行こうとした。
でも、その腕を警備のおじさんの引っ張られて僕は顔をおじさんのお腹につけられた。
「……、」
僕は、一瞬視界がゆらいで、嘘吐きなのに本当に悲しい事を偽れないで、泣いていた




