Color=Three
Color=Three
鮮やかなピンク色が個性的な建物だ。
光の加減でフラミンゴの様な色の場所もあれば、サーモンピンク、ショッキングピンク、淡いパステルピンク、白に近いピンクと変わり、どれが本来の色なのかは不明。どちらにしろ目立つ。
まずはその映像で目を痛めるが、建物の特徴といえる物はその程度だ。
深夜の空気は濃密に流れ、そのピンクはミッドナイトブルーの夜空と、建物を覆う夜影の中浮き上がり、巨大な存在に思える。
背後の空には異様に大きく、ここでの2,8の月齢の光りがライトアップの明りとは別に、建物の一部分を不思議と青紫掛かる色で淡く染め上げていた。
見る限りでは、11階の建物。アングルが変わる。まるでヘリから撮影されている、というよりはラジコンカメラだろうか。自在に行き来しては、プロペラ音は皆無だ。それでも風を切る音、通常の空気が流れる空間の音は絶える事は無い。どこまでも続く、優しい艶の乾いた音だ。
衛星?音は後から編集された物か?
相当質のいいカメラである。映像は建物を鮮明に透かして行ったのだから。
壁内部、冷蔵庫の機械内部、空間、人間内部、その腹の中で消化されているパイナップル、パインの溶かされている男と愛し合う女のいる室内、壁の構造体、男の妻が包丁を持ち立つ通路、そこは多少気になる場面であったが、透かされて行く映像のそれらは続く。
まるでレーダーで透かしたかの様だ。この目で切り開くような。ややそういった事が続き、定まった画面の中に映ったのは一人の少女だった。
少女の年齢は10才には統制満たないのではないだろうか。顔は見えなく、青み掛かる暗闇の為、人種は不明。
ほんのりと明るい。それは差し込む月明かりのせいだろう。白の壁沿いに膝を抱えもたれかかり、なにやらか細い声でメロディーを口ずさんでいる。言語的なものでは無い。ララバイめいてはいた。
立ち上がり、手にした包丁を床に落とし、フラフラと歩き出す。
そこれコーサーの欠伸が入った。ダイランはギロリと彼を睨み、コーサーは頬杖を付きながら片眉を上げた。
少女は妙に細い手首から流れつづける血で床を濡らしながらふらつく。
ショッピングピンクの半球ジャングルジムで友達とはしゃぐ少女。
動物園のシマウマに少女はピンクのペンキをぶちまけて先生に怒鳴られた。
青空の下芝生で思い切り奇声を上げ友人達は狂ったようにはしゃぎ出した。
水族館では青の水槽の深い中を透かして、少女が手を当て見つめていた。その腕に麻薬中毒者特有の痕が、黒紫になるまでに付いている。手の甲には彼女の趣味としか取れない焼印が刻まれていた。
闇のあの部屋に映像は戻り、その闇は彼女を包み込んでは涙が少女の閉じられた瞼から零れた。
画面が一時的に静かに途切れた。
次には屋上に上がっている。彼女自身の視野だ。
視界は地上を見下ろしては、翻る白のワンピースと細い足が見え隠れした。左端の白い手首がワンピースに血を降らせる。
滴り、奇妙な風呂場の水滴音に似た、それでも綺麗な音が絶えず聞こえている。
彼女は夜空を見上げ、両手をかざした。
一瞬地上の広い道に、整理された夜の椰子の並木が写る。国内なのか?
夜空には月光。青み掛かる、淡い紫は美しい。腕を下げ……
少女はいきなり落ちて行った。
フィスターは目を閉じ顔を背けた。
その瞬間、映像は例により少女の眼球内部から始まり脳内部、少女の後頭部、そして全体の背中を映しては、あっけなく地に落ちた。
金髪が染められた物では無い事が判明し、毛根からの物だった事は確かだ。
高所恐怖症の人間ならば一目散に逃げ出す光景色のその場からズームして行き、少女の砕けた柔らかい頭部にまで行き着くと、残された口元が、笑っていた。
映像は途切れ、ディスプレーはプレビュー開始の画面に戻った。時間は5分きっかりだ。
フィスターは俯いていたが、そろそろと顔を上げた。
「悲しい事です。この様な事がどこかで起きていただなんて」
「国も不明だから検索にも手間取るね」
フィスターはコーサーに頷き、ダイランを見た。ダイランはいなくなっていた。