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色彩の称号=艶緑と深青の瞳

色彩の称号=艶緑と深青の瞳



 ダイランは映画会社から出るとワイルドオーズッドの内部に身を乗り出し写真を立て掛けた。

「その美人誰」

ビクッとして彼は背を伸ばし背後を振り返り、それはラヴァスレッイリだった。

「君の後輩に送った写真と調査書はもう見たかい?」

「ああ。お前に聞きたい事があったんだが」

そう言い、車から離れさせながら言った。

「今回挙げられた以前の自殺者達も映像に加えられている筈だ。それらの死体は挙がっていないのか?時期がすでに過ぎた後とも思えるが」

「もしも僕にMM会員の知り合いがいて映像部門にヒットいる、もしくは自分がメンバーで無い限りは分からない事だ」

「なれ。俺はなれないから」

ダイランはラヴァスレッイリが背後をじろじろ助手席を見ているのを、慌てて後部座席にその彼の長身を押し込むと運転席に乗り込み、ジャケットを写真の上に掛けた。

ラヴァスレッイリは面白そうにダイランの後頭部を見てから口端を上げやれやれ首を振った。

 あの自殺した俳優自身とMMが一切の関係が無かったのかは今となっては不明だ。

きっと、父親や家族が会員の筈。その屋敷へ向うのだ。

ダイランは署に連絡を入れる。

「はい。ただ今レガント警部補に写真の遺体と映像の被害者の照合をリンクしてもらっています。その内にもブルーホールの男性がほぼ同一だと判明しました。まあ、女性というか。それに、部長には今のところ知られていません」

「目敏いから気をつけろ。俺が大目玉を食らうのはお前の署内での口のうまさと挙動に掛かっている」

「プレッシャー掛けないで下さい!早く帰って来て下さい警部!」

「嫌だ。それと、今ラヴァスレッイリと共にオブリ=セドバンドの屋敷へ向かう。息子の事情とMMとの関連性の聞き込みだ。帰りは順調に行けば20時頃になるだろう」

「分かりました。これからの連絡はしばらくミスターラヴァスレッイリの携帯電話へ」

「ああ。じゃあ、そっちも慎重に頼んだぞ。ハノスの野……部長にばれたらコーサーに責任転嫁しておけ俺もいつもそうして失敗している」

「えええ〜!」

無下に受話器を置こうとしたが、また耳に近づけた。

「リンダから趣味団体の事についてを聴いてくれ」

「署内の者にも網を掛けたんですね。分かりました」

ダイランは連絡を切ってから受話器を置いた。

 部長は裏からの捜査を認めてはいるが、それも公に出来ないには変わり無い。他の署内の人間、特にあの署長にばれる事があるといけないのだ。事ある毎に他の警部達は特Aの行動を目で追っては、上司に報告するのだから。

 ハイセントルにも狂乱自殺する人間は多かった。

銃を加え爆ぜる奴、ナイフを腹につき立てる奴、ダイナマイトを口に突っ込む奴、自分を拘束して連れにライフルで撃てと言う奴、工場天井から飛び降りる奴。

そういう快楽自殺する人間なんか止める方が頭が可笑しい界隈だった。止める事は愚か自分さえも巻き込まれるだけだ。勝手に死なせておけば良いという考えがハイセントルだった。そういう価値しか死んで行く奴等にはありはしないからだ。どうせ、自分で死んで行く人間などその先を自らが進めないだけだと。

 もしも映像が記憶に残ったとしても、それらに加えられる感情がプラスになるとしてもそんな事は既に、本当はどうにもならない。

いずれは消え去る。何の為に残したがるのか、生き続けて共に歩む時間の方が色濃いという物を、辛さで死んで行く。

 屋敷に到着する。

黒い服の団体が屋敷前の緑の植物の中を氾濫していた。

その庭はアマゾンの様であり、芝生とは離れた場にはそれらの木々が立ち並んだ。その開かれた見える部分には蔦の降りる中、白石材の憩いのスペースがまるで遺跡の様に設けられていた。そのせいなのか、酷く懐かしいノスタルジックな雰囲気が漂った。

だからといえ、何もくどすぎない雰囲気がある。南国の赤い実が垂れ下がり、その奥の水辺にも喪服で彩られている。その背後にはシーソーが吊るされた大木があるのだと言う事を、何故か透視かの様に分かっていた。

既視感という奴か、きっと、大して眠っていないから夢と現が彷徨っているんだろう。

 そんな一角から振り返った芝生の広い庭も、綺麗な屋敷も背後のアマゾンスペースからかけ離れている。喪服の軍団が色彩を結び付けていた。

 パーティーの様だとは言い難いが、朗らかな笑いは耳に掠めた。神妙な顔つきもあり、泣き顔はファンの若者だ。友人だろう者達は小さい声で眉を潜め話し合っている。

一方親族側の友人達は株価の情勢や企業拡大などについてを其々話し合っているが、MMの名は避けていた。知っているのだ。ココ・ソカ主催のパーティーでの女王自殺には、必ずあのMMも招待をされていた筈だという事を。当然、ココ・ソカの夫のソーテンマイヤー・カッシュも。下手に3人の逆鱗に触れて、こちらがぼろを出す様では後が恐い。

「警察の者だが、話を窺っても?」

男は振り返り、手帳と青年を見上げてから咳払いした。

「断る」

男は颯爽と去って行き、これで3人目だ。

 会場に両親の姿は確認できないままだ。

屋敷へ入って行く。死体などない為に棺は釘が刺されるばかりになっていた。映画関係者はそれらの周りで囁き合っている。

 息子の死を知った事に付いては、何も妻の持ってきたビデオだけが原因では無い筈だ。MMからの映像を見ての事だろう。

だから、両親から朗報を知らされた以外でも、その情報を映像という形で知り葬儀に来たメンバー会員が一体どれ程いるか。事件の証拠は完全に警察が押えている為に、マスコミには一切知られていない。公開されてはいないのだから。

それでも、この開かれた葬儀を聞きつけたマスコミが既にうろついていた。

夕方には宝石職人から騒がれ始めた女王死亡の続編としてこの俳優の物も、相次ぐ著名人の自殺として報道される事になるだろう。

 だが、いずれも映像の事はマスコミには一切知られてはいない事が幸か不幸か、未だにメンバー会員は自ら名乗りをあげない。

 両親はいた。すぐに分かった。

美しい母親そっくりであり、父親の整った顔立ちも強く引き継いでいる。

だがその息子の嫁と子供はいない。

「ご愁傷様です。あんたの息子さんの件について捜査させてもらっている者だが」

「ああ。あなたですか。MMに喧嘩を売っているという警官は」

「ええ」

父親は多少疲れた顔をしていた。ダイランの目を見ると諭すように言った。

「彼に構うのは辞めなさい。息子のように自殺に追い込まれたいのかね」

「どういう事だ?あんたはMMに見切られたという事か?メンバーなんだろう」

「そちらは関係無い事だ」

「MMはココソカは宝石職人を自殺に追い込んでいる。ニュースは知っている筈だ」

それらは全て、女王を殺す為のカモフラージュだとダイランは思っていた。

「あんたの息子は快楽的な自殺だった。MMは関わってはいない」

「ああ。確かにそうだ」

「だがあんたは関わっている筈だろう。メンバーだというのなら、メンバーだと言うのなら、息子の自殺映像を送りつけられてこうも悠長に葬儀なんか開いてるなよ」

「我々には手も足も出せない相手だ」

「あんたはMMを嫌ってるのか?」

「彼は大切な商売仲間だ。メンバーには加わっていない。仕事もうまく行っている。だが、今回の事で彼を信用できなくなった」

ああそうだ。奴は信用を売るビジネスマンだ。それを今回の事件要因に絡んでいると見られている。どちらに協力するかはそろそろ変わってくる筈だと思うんだが。だが、その言葉は言わなかった。挑発に他ならなく、もっとガードを張らせるからだ。そうなればそうなったで、MMとの地位的関係も見えてくるという物だが。

「そうだろうな。こんな事仕出かしてあんたの息子の死を金に変えているんだ。映画で金に変えていた奴等とは別物だ。映像を送られてなんで警察に提出しなかった。一斉に押収が掛けられた時にFBIの人間にあんたは映像など無いと言ったそうじゃないか」

「映画の一部だと思ったからだ。確かに今まで息子が映画の中で死んだり殺される場面はあって、どれも見ていられなく目を塞いで来たがあの映像だけは違った」

奇しくも偽者でなく本物の死の世界に見入ったわけだ。

「目から流れ込んで来て離せなかった。カラーの映像という事もあって、本当の死だなんて分からなかったのが正直な所だ。本物かどうかなんてね……」

息子の唯一望んだカラフルな映像の世界の最期に。

「最後まで見たのか?」

「いいや。崖から転落して……数秒後には映像を消した」

両親は息子が食い殺された事を知らないようだった。

「今映像は?」

「もう無い」

「何で」

「消えたからだ」

「インターネット上で?」

「ああ」

「ビデオは」

「無い」

「他に自殺映像を取り寄せている人間を吐け」

「ちょっとあなた、」

いい加減母親はダイランの腕を引いて鋭く睨み付けた。

「今は葬儀中です。野蛮な言動をなさるのならあなたの上司へ訴えますわ。全ては自殺事件。捜査は打ち切りだと言うのに」

「それは映像の事実を報道されていないからだ。それに捜査打ち切りになったのは宴の場にいたココソカ、MM双方が女王自殺事件捜査のみに圧力を掛けただけで、他の捜査の打ち切りは掛けてきていない」

「嘘おっしゃらないで。出て行って下さい」

「宝石職人の友人だったマシェーリとの交流は?」

「社交程度です」

「本当か?」

「彼等と我々は格が違う。所詮、アメリカの富豪など彼等は相手になさらないわ」

「所詮油田が当たった成金ってだけのブルジョアジーだ」

「なんですって?とんでもない!」

母親は驚いてダイランを見た。

「彼等の血縁は古からの上流貴族階級です。古くは王家に仕え続けた侯爵家の家柄ですわ」」

ダイランはいい加減うんざりしてきた。

金持ちだ、貴族だ、富豪だ、実業家だ、こいつら、馬鹿なんじゃねえの?と思う。犯罪は犯罪だ。ここまで身分でガードされては困る。

「貴族だからって犯罪起こさないなんて理由は無い。第一今は石油王ってだけじゃけえか」

「彼の趣味です。ああいった買収は」

「他に買収している物は?」

「存じ上げませんわ」

 当にラヴァスレッイリはまた消えていて、あいつはどうやらチームワークが一切無いらしいと分かった。自分以上にワンマンだ。捜査打ち切りになる前にあの質じゃあ、さっさと自分からFBIという組織枠から抜けていたのでは無いだろうか。

「あんた等、なんで確固とした証拠も無く息子の死を受け入れてこうやって葬儀開いてるんだ。死体は無いんだぜ」

「道理であなたは礼服では無いわけね。そうね。信じてはいませんわ。こうやってあなたが普通のネクタイで来て頂いて嬉しいわ。でも帰って下さい」

「息子の死の真相をあんたは知りたく無いのか」

ダイランは追い出そうとする彼女の腕を掴んだ。

彼女はダイランを見上げ、戦慄いた口元を閉ざして他所を見た。

「あたしだって、反対しましたわ。でも、示しがつかないでしょう」

「まだ確証無い死をこういう形で公表したのは何故だ?俺は葬儀なんかまさか開いているなんて思っても」

「出て行って下さい!!」

誰もがその場を振り向いて、妻の肩を持った夫はダイランを睨んだ。

ダイランは溜息を付いて目元を落ち着かせると父親に言った。

「俺はMMをいずれは検挙するつもりだ。絶対にな。この名に掛けて」

男は瞬きして踵を返し歩いて行った青年の背をしばらくは見ていた。

 ラヴァスレッイリは顔を上げてコンピュータ画面を見下ろすと、旦那の書斎から出て廊下を歩いた。白の石床に赤に金縁の敷かれた廊下は両端に全黒マホガニー素材のバーブースやマントルピースなどに囲まれ、天井の黒マーブルから小ぶりシャンデリアが並んだ。

今頃両親の事は猫君が惹き付けている頃だ。もう一つのドアに入って行く。妻のパソコンの情報を手にしてから見回す。

 何か証拠になる物はと、屋敷での息子の部屋に入ろうとするが、案の定鍵が掛けられていた。それを開けて進入するが、大分出払って数年も立っている空気のままだ。パソコンも無い。元々彼はパソコンなどやらない。

証拠になりそうな物、MMと繋がる物も無かった。

 出て行こうとしたのを彼は瞬きして振り返り、カーテンも閉じられた空間を振り仰ぐように返り見た。

「………」

覚せい剤。色濃い。狂乱する多くの若者。麻薬乱交パーティー。随分前だ。

彼は怪訝そうに眉を潜め、その独特の雰囲気を見てから口を閉ざして息子の部屋から出て行った。

「うお、」

「いってーな、」

 扉から出た瞬間、額を押えダイランも同じ事を考えていた先で室内から出てきたラヴァスレッイリを睨み見た。

彼は片眉を挙げて猫君を見下ろすと、皮肉を言ってみた。

「よく分かったね。この部屋が」

「どうせお前もポッカー=ベレンのコンピュータの中のMM情報掴んだんだろう。フロッピー寄越せ」

ラヴァスレッイリはにやりを上目で笑い言った。

「ッノ!」

彼は万年筆型のUSBをダイランの目の前に出した。それを見てからダイランは踵を返した。

「どうだった」

「メンバーだったのは夫では無く妻の方だった」

「何の会員だ?」

「それが、王族や最上流貴族の貴女ばかりしか顔を連ねていない筈の薔薇倶楽部になんだ」

「薔薇?なんでそんなに限定されてんだ。花じゃねえか」

そういえば、MMの黒い葉巻は濃密な薫り高い薔薇の香りがしていた。随分野郎のくせに洒落た物を吸っていると思ったものだが。

 廊下を左折し、また違った雰囲気の通路を歩いた。廊下の中の調度品の中、美しい形で黒に金茶で装飾のされる猫足のキャビネットには、名窯セーブル、美しい青のディメール・クラウデッドブルー。ロワイヤル・ド・リモージュのマリー・アントワネットなどが陳列されていた。

ダイランが見かけに寄らず割と美術品には詳しい方なのは、オークションでも様々な美術品を見て来たからだった。それをまじまじ見ていて、そのセーブルの青はフィスターの顔が浮かんだ。

 ダイランは顔を上げた。

「薔薇に関する物なら、エステ・スパ、スキンケア用品、リゾート、ガーデン、オイル、薔薇水、茶、菓子、ジャム、健康食品、酒、香水、薔薇苗、蒸留器、ロイヤルローズという名の葉巻に煙草に煙管の葉、身の回りの用品、装飾品、シャンデリア、貴金属、室内デザイン、薔薇にちなんだ骨董、薔薇園製作、薔薇宮殿、なんでもあるんだが、薔薇倶楽部の他にも王族、王侯貴族、最上流貴族ばかりが加盟する最上ロワイヤルグレード部門にはいろいろある」

「どんな奴だ」

「ロワイヤルプラチナム倶楽部という物は薔薇同様様々な部門がある。それに、ショコラ倶楽部では食と飲、ショップ、チョコレートドリンクのポットもあってパティシエもいる。それと魔神崇拝。珍品や珍獣コレクション、装飾品コレクションなどかある。古城や、最高級シャンデリア部門。他にも幾つもある。全てに関してオークションも宴で催される」

「なんでここの妻が」

「さあね。何か特別なものでもあるのかな」

「張らせる事は?部下くらいいるんだろう」

「もうFBIの人間じゃ無いんだ」

「だが長官は俺達を動かしてるんだぜ。秘密裏で」

 ダイランは見回し、数人が出歩くホールに出ると、何かに思い当たって「ああ、そうか」と言った。

どこかで記憶が交差すると思ったら、この屋敷には少年時代にきた事があったわけだ。連れのポカスの友人伝いで麻薬パーティーで来た。あの綺麗な顔は確かに記憶の中にあった。たしか12,3歳の頃だ。

ポカスは現在、昔からやりたがっていた脚本や演出だとか映画に関わる仕事をNYで始めている。

 車に戻って携帯を借りると連絡を繋いだ。

「よう!ガルドじゃねえか!」

「おう。久々だな。最近どうだ?」

「ああ。適当にやってる」

「そうか。俺もだ。一ついいか?」

「ああ。何でも聞くぜ」

「お前、映像関係に詳しいよな。取り寄せてるコレクション物だとか、そういう物専属的に作ってるプロダクションは知ってるか?」

「結構多いな」

「悪趣味なやつとか」

「ああ。カウンターカルチャー物が圧倒的に多いな」

「MMメンバーって知ってるか?」

「エムエムメンバー?」

「ああ。そいつもそういう物作ってるって噂なんだが」

「アングラ系か?きかねえな」

「極彩物や自然物の映像作るところは?」

「監督のザバックがサイドでやってるカーネットエンタープライズ、銀幕のポッカーが立ち上げたポッカーエンタープライズ、女優達が立ち上げたローズマリー企画辺りは割と凄いな」

「ポッカーエンタープライズはどこと契約結んで映像作ってる?」

「あそこは自己製作だ。親が金あるって噂だから親がスポンサーかとも思ったんだが、そんなご立派なもんじゃねえよ。何しろ趣味程度で派手な物作って関係者や連れに配ってる位だ。倉庫はハリウッドにあるが、チープな所だ。お前も奴には昔会ったじゃねえか。覚えてるか?」

「ああ。奴は死んだ」

「……へ?」

どうやらやはり知らない様だ。ラジオでもまだ流れていない。

「自殺だ。薬物依存でな」

「おいマジかよ。将来俺の関わる映画に出ろって約束してたんだぜ。どういいうこった」

「わからねえ。今、実家にいる」

 どちらにしろ、MMとの関わりはエンタープライズ上でも無さそうだ。MMのアメリカへの進出度合いもわからない。ヨーロッパを中心に動いているからだ。きっと、ココ・ソカ同様にアメリカ者の富豪にはあまり興味を持たないのでは無いだろうか。

ポカスは背後で連れと話し合っていて、その連れがテレビを変えていた。

「別に報道されてねえぞ」

「夕方あたりに流れるだろう。報道陣もいるから。今葬儀が行われるしな」

「早いな。マスコミが遅いだけか?」

そう考えるのがやはり普通だろう。早すぎる葬儀だ。

「そうかもな。伝を使って自殺映像を取り寄せている人間に当たってみてくれねえか」

「ああ。分かった。連絡入れる」

「パソコンに送ってくれ」

 アドレスを知らせてから連絡を切った。

「ポッカーと知り合いだったのか」

「らしい」

不特定多数の連れ一人一人なんかそれ毎には覚えてはいなかった。

 一度屋敷を仰ぎ見てから発進させる。

高級住宅街を走らせて行き、適当に停車させるとノートパソコンを開いた。

「おい。差し込んだ瞬間にウイルスに感染するデータが組み込まれている可能性はあると思うか。ウイルスバスターは入ってるが、それも掻い潜る奴もあるからな」

「充分あるだろうね。専用のデータ読み取り機でなければ作動するとか。MMはそういうパソコンの配信もメンバーにしていると思う。やってみればいい」

「駄目だ。俺の奴だから」

コーサーに任せるべきだが、あいつはあまり信用ならない。MMの事になると逃げ出すのはあいつも同じだ。金持ち連中同士の何かがあるのだろう。

 ラヴァスレッイリは自分の黒艶の硬質樹脂ノートパソコンを取り出すとダイランからUSBを受け取った。

「いいのか?爆破するぞ」

「さあ。記憶の爆破くらいなら」

「頭にデータは入ってるのか?」

「ああ」

ダイランが画面を覗き見たら、ラヴァステッイリが珍しく睨んで来て画面を反らさせた。

一瞬見えた真っ黒のディスプレーには何かの黒い硬質金属製のコウモリが羽根を広げて艶を受けていた。そんな物をディスプレーなどにして、ダイランは眉を潜めてラヴァスレッイリの顔を見てからキーボードが操作されて行く様を見ていた。

「MM会員はどうやって富豪連中枠から庶民に広がったと思う」

「元々そちらも並行していたともいえる。何でもビジネスマンだからね。彼はそう呼ばれている。仕事依頼なら何でも請け負うと定評だ。だが、まだそちらの普通の会員の方も探れないままだ。順を追っていくほか無いだろう。今僕達は単独だからね」

ダイランに画面を向けた。

 深いワインレッドがベルベットの様に波打ち、琥珀ゴールドの文字が優雅に黒の万年筆で描かれた。

「お前、妻の全データを盗んできたのか?MM会員の情報バンクだけでいい。余計なものまで入れて来るな」

「逆に危険だと思ってね。それだけ入れれば、それこそウイルスに感染される確率が高い。忍び込む間も無くね」

「この中のそこに入ってるんだ?会員の事は」

 ディスプレイにはガーネット、ルビー、オニキス、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドなどといった宝石達が美しいカットで回転し、その横にシルバーの優雅な書体で其々のリンク先の名称が記されては波の光を白に受け、画面左側に縦に陳列していた。

サイト名の黄金の文字の下には黒い薔薇がシルバーの鋭い葉と蔓をゆるゆると伸ばし動いていた。

ワインレッドはブランデーカラーに変わり、薔薇が徐々に飲み込まれて消えていき、ビロードから夕陽の琥珀の水面の煌きへと変わっていった。

それが漆黒の硬質な波に変わり、プラチナ万年筆で描かれる文字がシルバーの色で優雅に成され、画面の左下にジャスミンが可憐に花開いては上方から漆黒にダイヤモンドの滴が落ちてきては下方に漆黒の波紋を作る。

 横の宝石がアイコンになっているのだろう。

ラヴァスレッイリはダイヤモンドの下方、何も無い部分をクリックした。

無かった筈の宝石が浮かび上がり、そのブラックダイヤモンドは白の光を受け徐々に巨大になっては中心へと回転しながら移動する。

 白の艶を受け、バッグの漆黒は徐々に純白に浸蝕されて行った。

「さあ。どうでるかな」

「出なけりゃ暴れるからな」

 徐々に純白は粒子のプラチナとダイヤモンドの粉がさらさらと美しくヴェールの様に落ちて行った。格別に違った画面がその落ちて行く煌きの背後から現れる。

漆黒の荘厳なシャンデリアがディスプレー一杯に浮かび上がり佇んでいる。キラキラと音を立てては白の光を漆黒の滴は受け、その背後はゴシック的城内のホールを天井から透かしてシャンデリアが映されていた。

 闇の浸蝕する荘厳な城内を透かして黒のロワイヤルカットの石は煌き続けては微かに一滴一滴が揺れ動いている。

「この無数のブラックダイヤモンド一つ一つがMM会員の様々な部門毎のアイコンになっている」

「どこにもあの無機質でシンプルな白のマークは無いな。まさか、全くの別物なんじゃねえのか?」

「分からない。このサイトはさっき言ったロワイヤル部門専用のサイトなんだ」

滴の上をカーソルが動いて行くと、それらは半透明の文字をそれ毎に浮かび上がらせた。先程挙げられた名称が浮かび上がっては消えていく。

「この魔神崇拝はクリックしてみたのか?怪しい倶楽部だな」

「薔薇倶楽部だけに所属していたようで、リンク出来なかった」

そう言い、それをクリックしても何の反応も示さなかった。

「きっと、ココ・ソカはこれらの全てに加盟している筈だ」

ゆっくりとと回転する薔薇倶楽部のクリスタル質の文字。それと紫の会。それとオーナーへのリンク先の滴だけが起動できる印の様だ。

「紫の会っていうのは何だ」

「パスワードが必要らしい。開く事が出来なかった会だ」

「怪しいな」

「ああ」

 ラヴァスレッイリは薔薇倶楽部をクリックする。

それは魅惑的に鋭く光を受け始め、まるで星の瞬きのように強く八方に光の線を突き刺した。

プラチナカラーが黒シャンデリアと黒灰の城内を纏った中に広がると、サイトが開かれた。

「よし!」

ダイランは手を叩いた。

 漆黒の画面に黄金の優雅な書体でRoyalRosesClubと広がり、ブランデーの様に深い色で煌くと、徐々にその画面は鮮やかで優雅な大輪の薔薇が純白になって行く画面に3輪開いた。

薔薇が透明に消えていきその純白の背後にすうっと白の雲が流れる晴天の下、整理された芝生と白の道、林の平地に立つ明るい優雅な古城の上空の画面になった。

 画面上部にプラチナの優雅な書体でRoyalRoseClubと描かれ、画面の左側に同じプラチナの書体で様々な部門が記されては白の光を受けている。

草原や林は風を緩く受け、水色の小鳥達が飛びさえずっていた。

左端に縦に並ぶ部門毎の上に走らせると、上から桃色の薔薇達、レディー・マリー・ウィリアム、プリマ・バレリーナ、ラ・フランス、春芳、イスパーハン、レディ・ラック、ウィミィ、ジョイ・ベルズ、ガードルードジェキル、ロイヤルサンセット、アンクルウォールター……それらが可憐にクルクルと書体の始めに浮かび上がる。

「おい早くどれか一つをクリックしろ」

「ああ」

 ダマスクの香油の上、一番上部のオールド・ダマスクローズ品種というプラチナ書体をクリックする。

カザンラク、ラ・ヴィユ・ド・ブラッセル、マダム・アルディ、イスパハン、マダム・ゾートマン、レダ、マリー・ルィーズ 、スルシアーナ 、オータム・ダマスク、ヨーク・アンド・ランカスター……

それらの薔薇が純白の中、浮き咲いてはプラチナの書体で細かく説明されている。

「怪しい点が一向に無いな。他の部門は」

 ホームに戻ると、今度は適当に薔薇の宴の下、薔薇エキス蒸留器に向った。

ブランデーと闇と琥珀が浸蝕する高貴な画像になり、黄金の書体で文字が現れ、その画面のバックに琥珀の闇の中を古めかしい蒸留器と、ダマスクローズの花びらが綺麗なクリスタルの器に入れられた骨董が置かれ、その下方に黄金の書体で優雅な歴史を語った文が……

「あ」

と言う間に、いきなり画面が漆黒になり、ダイランは瞬きした。

「……」

ラヴァスレッイリは画面の上をカーソルを動かしクリックを続けるが、音沙汰無かった。

「消えた」

画面は電源を入れていない状況だ。起動も出来ない状況。完全に壊れていた。

「おい。お前、このパソコンに何か大事な情報を入れておいたか?さっきまでリンクできていた内にお前のデータを読み取られた可能性が高い」

「自分のデータは全てUSBに映した後だったから問題は無いが、駄目だったな。怪しい点も見つけられなかった」

「だが、この事で少なくともあの妻に事情を聞けるな」

「今は追い出される。葬儀が済んでから後日向った方が良い。もう充分警戒されている頃だが」

 ダイランは暴れる気も失せて前に向き直った。

「一つ連絡を入れる」

「どうぞ」

 ダイランは公衆電話へ向うと、頭の中のナンバーを回した。

相手は出ない。この前起きていたから起きている筈だ。

 ジービーヲはプライベートリゾート地のとある島で海に浮いていたのを携帯電話を取った。

「もしもしダイモン」

「ダイランだ」

「ダイランちゃんは何の御用。今あたしは休日を堪能している真っ最中なの」

「悪いな。一つ聞きたい事があるんだが、お前はMM会員の中にある薔薇倶楽部を知っているか?」

「ええ。名前だけなら」

「関わっているリーデルライゾンの友人はいるか?」

「さあ。どうかしら」

「他のMM会員は?」

「いないわ」

「言いたくないだけか?」

「ダイモンの執拗な拷問に耐えられる子女がいる様には思えない」

「拷問とは何だ。俺は女子供や天使には優しい男」ガチッ

ジービーヲは巨大なエイの浮き輪ボートの上に転がっていたのを携帯電話をポーイと投げつけた。

またダイランの着信の「サタンの乱舞」が狂い鳴ったから仕方無しに出てやった。

「もしもしダイモン」

「俺はダイランだって言っ」

「今あたしは休日を堪」

「お前は王家に知り合いはいるか」

「いないわね」

「父親は」

「いるんじゃないかしら」

「連絡先を聞きたい」

「駄目。パパは今出張中」

「どこに」

「頭の中へと」

「引き戻せ!!」

「パパー」

「いるのかっ」

ジービーヲは自分の父親のいるクルーザーの方へエイを進めさせると、父ボーバーシェはサングラスを上げて日に焼けた肌の派手な顔で笑うとラグジュアリーチェアから体を起こした。

「ソランドの職場の上司、ダイモン=ガルド警部からよ」

「ソランドの?」

ボーバーシェはいぶかしんでから携帯電話を受け取った。

「もしもし。ボーバーシェだが」

そう言う内にも元ごろつき刑事の名だと気付いて肩をすくめ、彼はその名で名乗った。

「娘が職場でお世話になっているようだね。それで、今回は私にどういった用件で?」

「実は娘さんから窺ったんだが、あんたがMM会員に加盟している事についてを聞きたい」

ボーバーシェはおどけるジービーヲを見てから、同じようにおどけた。再び横になって言う。

「出来る事なら協力しよう」

「協力感謝す」ザプン

ボーバーシェは瞬きして背後を振り向いた。ジービーヲは一気に飛び込んで携帯電話を救い出したが、既にやられていて壊れていたから父親の本妻を睨み見てからエイによじ登った。

本妻は何事も無かったかの様にクルーザーの中へと入って行った。

 ダイランは受話器を置いてから車に戻ってハンドルを握った。

「どうだった」

「収穫が無かった」

ダイランは発進させた。ラヴァスレッイリは目玉を回して首を振った。


 殺し屋は基地から漆黒のハーレーを走らせると海岸線を行き、夕陽の眩しい中を目を細めた。暗黒の陰と赤と緋の陽を見つめて走り駆け抜けていった。


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