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色彩の称号=プラチナムな薔薇

色彩の称号=プラチナムな薔薇



 女は満面に笑むと彼を迎えた。

「MM。もう!どこに行っていたのよ」

MMは首を振りリムジンから降りる。女の肩を叩き微笑んでは歩いて行った。

「パパはもう5時間も待っているわ」

「悪いな」

「早く。ああ楽しみねMM。あたしは今最高の気持ちだわ」

俺の気分は最悪だと言う言葉は口には出さなかった。

「そうだな」

 白のコートにグローブの両手を入れ歩いて行き、女は嬉しそうに一度回りもした。

 また自殺志願者が引っ切り無しに連絡して来ては、夜通し説得し続け3日間眠ってはいなかった。もう勘弁してもらいたかったが、説得してもそこまで深く考えてくれるのなら勝手に死ぬよりはどうか遺してくれと言うが、何もこちらにストレスが溜まらないわけでは無い。

遺された者にダイレクトメールを送りたい。

作ったから送ってくれ。

止めてくれるのは有り難いが「仕方が無い」んだだ。

最後の死だけでも派手に飾ってもらいたいから頼む。

そんな物、遺す側からのいい自己満足事だと叱ろうが、実行してくれと泣きついてくる。

そして、他の客は客で馬鹿みたいな会費を払ってまで映像を欲して愉しんでいる。自分も加わろうと応募してくる。呆れても勝手に死んで行く。全て愚かなからくりだ。

それに自分も乗って運命に操られて操って踊ってみているだけだ。愚かにも軌軸に乗り。今は。

 何の仕事も請け付けるなどというキャッチフレーズで触れ回ったものだから妙な仕事依頼も100パーセント受け持つが、人の生き死にを何も商売にしたいわけでも無い。人の死なんて物は嫌になる程見続けてうんざりしていた。もっと愉しんで生きる為に動き出したという物を、断らない自分も自分だ。ビジネスと需要に引っ掛けてはよく回るものだ。

「ディナーはもう用意万端。それにパパが素晴らしい楽曲の人間を呼んでくれたのよ。今も色褪せる事の無い美しさの曲を堪能していると思うわ。姿が浮かぶもの。ごめんなさいねMM]

「何が」

「だって、あたしが無理やり言ったものだから」

 MMは微笑んで彼女の頬を手の平で撫でてから進んで行った。

女は嬉しそうににっこり微笑んで歩いて行った。

「ねえ。あの自殺者の映像、今度はいつ更新されるの?」

「さあ。何時頃かな」

「早く見せてよね。あの女王はグロテスクだったからなんだか怖くなっちゃった。今度は綺麗なのがいいわ」

 MMは心中呆れながらも目を回して広い廊下を歩いて行く。あんな物見て喜ぶ顔は分かっていないのだろう。死は茶化す物でもない。自分は実行している。商売にしていた。

確かにあれを見て自殺を思い留める者もいる事は確かだ。彼等の生き様を見て最後の美しさは世界中の取り残され忘れられた真の美を称える人間もいた。死と美、自然の忘れられた音、起源から産まれた一人の人間、タナトス、人工でない着色されない心、それを見て足を止める人間。逆に感謝してくる遺族もいるが、どちらにしろ嫌な気分だ。

 灰色と黒と銀の廊下の中、銀の陽が全体的に静かに射し緩く流れた。

「パパはあなたをあたしの恋人にと考え出すと思うわ」

「冗談」

つい口をつき、女は顔を上げた。

「何か言った?」

「何がだ?」

女は口端を上げMMを覗き見た。

「いつまでもこの世界は男が女性も持たずにはいられないものよMM?観念するのね」

「ハハ、まあ、今にな」

「今じゃ駄目」

「俺には女がいるから」

「……」

女は瞬きし彼の肩に両手を掛けていたのを驚いた。

「あなた、恋人がいたの?」

「ああ」

「え?何処に何時からよ」

「心の中」

「もう!からかって!」

MMは可笑しそうに低く笑って歩いて行き、女は微笑み上目になってその白衣装のなだらかな背を見た。

「見た目的には女性が横にいた方がね、更に見栄えがするの。輝く世界ではね。いないというものミステリアスで中性的だけれど、両性愛者という感じで」

「さあどうだろうな。男に興味無い」

「そう?ルザールがあなたを狙ってるから」

「冗談」

「あ。ほらまた言った」

「欠伸だ」

「セクシーな欠伸ね。でも、そうかしら?あなたに見合う女になる様に誰もが張り切っているのよ」

「女は努力家だな」

「ええそうよ。見上げた物でしょう?いつかは認め受け入れるべきよ?誉めてよ」

「ああ。美しくなったご褒美にな」

 MMは上目で微笑み開け放った扉を潜ると煌びやかな中の女の父親サダンが笑顔で立ち上がり両手を広げた。

「やあMM!待ちかねたよ」

「遅れて悪かったな」

「いや。こうやって来てくれただけで嬉しいよ。さあ早速腰を落ち着かせて」

「ああ」

「パパ。ほら。あの宝石を出すわね」

「ああそうだね」

 MMは口端を上げ座ってから女の背を一度見ては、マントルピースの上の絵画を見た。

黒髪をストレートに流す女だ。涼しい目元は長い睫を流し、ダークレッドの鋭く薄い口元の下のほくろが魅惑的でミステリアス。静かな美を称え、手触りまで伝わる白シルクのドレス、伸びる白の肩の滑らかさまで再現され、首からは黒金属のバロックな台に黒いほどのエメラルドが静かな佇まいだ。ティアラが繊細にだが、どこか女の心同様芯の強さを胸元の装飾品共に放っている。腰掛けた膝の上の黒シルクグローブの指に魅惑の宝石が美を称える。全てがバラドナの手による装飾品だ。彼女の神秘的であり涼しげなシンとする性格を美しさで優しく覆っている。

女の姉で、長女の肖像画だ。

妹は母の金髪を引き継ぎ水色の瞳をし若々しく、性格も姉とは対照的だった。

 肖像画から男を見た。男はワインの透明なグラスを傾け言う。

「全く、ココ・ソカには何を言えばいいのか分からないね。4点を任せようと思っていたジュエリーの話も仕方無くセパッドに移行したんだ」

セパッドは装飾界随一の腕を王家からも賞賛される職人だ。

「だがどうしたものか、どうも満足いかない。娘は喜んでいるが、やはりバラドナの真似など無理なんだ」

「まあな」

「彼女を殴ったなんていう噂を聞いたが、本当かい。宴の席で」

信じられないという様に男は多少口元を強張らせ微笑んだ。

MMは肩をすくめ、確かにココ・ソカが今目の前にいたらつい手の甲で払いそうだった。その事には何も言わなかった。

 自殺した老人は間違い無く世界トップの腕を持つ職人だった。それを彼は王からの称号を断りつづけ、謙虚に5本の指に収まる事を望み続けていた。そういう人柄だ。世界で名だたる腕だった。MMも気に入っていた老人だ。

少し機嫌を損ねただけでココ・ソカは全てを壊す。

「MM!見て欲しいのよこのパリュールの美しさを。素晴らしいでしょう?」

 彼女は黒紫のビロードの上のそれらの美しきパリュールを輝く瞳で艶を持ち見下ろした。

確かに出来は素晴らしいに尽きる。だが、加えられた独創性に欠ける。

忠実にスケッチブックを再現したのみであり、この中には加えられる職人の空気や艶、光り、感性、魔力、引力、秘密の何かの色、何がしかのオーラは無い。

真髄は他に紛れてしまっている。というよりは無いのだ。美しいだけだ。完成された美貌はどこかしらが崩れてこそ美しいという物であるが、それか何をも寄せ付けはしない畏怖するほどの完璧の美でなくばならない。

完成されたわけでは無い様にしかみえなかった。何かの一部が足りないだけで、こうも違う。

だが、その装飾品を身に着ける夢を見る女は宝石を美しく魅せた。魅惑的にした。

 今は女が宝石を美しく見せるが、あの老人の様には女を宝石が魅力的に美しく艶を持ち体現させ独特の雰囲気にまで一瞬にして昇り詰めさせるというわけでは無かった。

 万人の美を吸収して、新しい宝石はこれから魅惑を吸い取っては美しくなっていくという華麗な素質は嗅ぎ取れた。

時代と時を重ね、重厚さを増す事は出来るがそれは装飾品全てに言える。寵愛を受け、装飾品は美しくなって行くものだ。

其々一人一人の職人が任され、選ばれ並んだ宝石達の中から微笑み一粒をその手に取り、我が子の様にだ。大切に創り上げられた物達はどれも素晴らしいには変わらない。それを否定するわけでは無いが、美しい物を美しいと認め、それとして愛で、それだけに留めさせるにはこの世は美しい物がたゆまぬ時の中を溢れすぎて耽美過ぎた。だからこそ、自然美に人は目を奪われる。

 真に再現出来る物は自然の色を閉じ込めた宝石だけだ。

岩窟から掘り出され、人はそれを更に耽美にする。

無駄な美しさの中に本物は紛れてしまいがちでも、施す者の心が本物だからこそ相乗効果を生み出しては独特に輝き、その美こそは周囲の耽美を寄り集め一層美しくしているのだと、身を浸す者達には周知で分かっている。

それを汚した。

美は美の世界で相乗効果で積み重ねられて行く。影同様、寂しさを持った闇同様が重なる様に、悲しいほどに美しさもまた、光や輝きが尚一層重なる様に光に荘厳に充ちる。

それを華美にし過ぎては影を見つければ非難せずに受け入れてはみないか。

受け入れたくなる。安心したくなる。人間心理は。愛したくなる。それを認めてはいけないと取り繕う。闇を取り入れては世界観を崩すと、本物の美を見てみぬ振りをする。

余興になる前に本気になろうとする。自然神とも呼べる物を闇の先に失いたく無い為に美に一時的に浸ろうとしても、それは紛い物。

 哀れな物に慈悲を置こうとするのは良い事とは言えない。

排除を始めて無くなる前に配置して行こうが、失ったものは失った物だ。

「でもちょっと、なんだかチープかしら」

「まさか。そんな事は無いよマリア。お前は綺麗だぞ?母さんそっくりだ。宝石が美しく鳴いている声まで聴こえそうだ」

「パパったら、言いすぎだわ!」

それでも娘は嬉しそうに微笑み、宝石は美しく輝いた。

「最高の味を頂きましょう」

 父親は例に倣ったかの様に自分の言葉に続く「クリスタルの声」の演奏を流れさせた。

 全てを美しさで覆い尽くした、その空間をMMは空虚の瞳で見つめてから閉じ、グラスを傾けた。

身に浸蝕する透明な曲。美しいが……

決定的な何かが空間には掛けている。だからだ。

この場にあるべき最上の美が無かった。どこも不完全にしか思えない世界。

愛する者がいなければ


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