Color=AmberBrandy
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MMはジェットから降りると夜に浸蝕される外気を見回した。木々の不気味な陰は色濃く、闇は濃密に一つ一つの気配をはっきりさせる。
古城、弓弦の杯月は悪戯に鋭い。
月は形を消し掛け、白のコートを翻し颯爽と古城へ歩いて行った。
知り合いの城へ進み入ると石の通路を進み、キーを手に収め回して収める。
書物の間に来るとゴードルに手を挙げ、彼はニッと微笑みMMを見た。彼は装飾品ブランドなどの伝統深いオークションハウスのオーナーだ。今宵開かれるオークションの進行を執り行ってもらう。
「先日は大変な騒ぎだったな」
「どうって事は無い。そちらにも随分と迷惑を掛けたな」
「気にするたまか」
「互いにな」
「ハハ」
彼もココ・ソカのクラシックパーティーに招待されていた。
「今年最高級の味だと自負している」
「良い色だ」
MMの買い取るワイナリーで作られた芳醇なブランデーだ。ゴードルはMMからブランデーデカンターを受け取り、その中心をクリスタルが絞る巨大なスターブラックダイヤモンドは漆黒の艶を清らかな水の様に静かに輝かせた。
「例のレガントのじゃじゃ馬は大人しくなったのか」
「その筈だ」
「余計に目を付けられたらどうする。ミズリカーもまたお前に説教して来るぞ?」
「今回はどうだろうな」
意地悪っぽく上目で微笑した。
ソファーのアームにゆったり肘を掛け黒シルクのシェードと薄いシルバー孔雀羽根の縁取りを撫でてはそのスタンドライトを灯し、上部の蝋燭に幾重にもまみれる古いシャンデリアの荘厳巨大な影が天井に揺らめいた。
「金ばかりあると、全く趣味が無ければ退屈でたまらんよ」
男はそう微笑み、MMは可笑しそうに首を振った。
3段のボリュームバックが並ぶ黒ビロードのソファーにゆったり腰を掛け、銘木アカンサスの縁に腕を掛けると、オットマンの上のクッションに丸まっていた毛足の長い上品な猫が利口そうな顔を上げた。
グラスを回して妖艶に微笑み見つめる。まるで黄金の月光の差し込む夕暮れ、紅の毒の海の様だ。
「賭けるとするか。あの男がどうなるのか」
「有力な方向は?」
「全てはあんた次第」
そうウインクし、男は可笑しそうに微笑み首を振り、MMも微笑み猫の移ったオットマンの上のクッションに片足を乗せた。
男はローキャビネットに腰を付け考えた。
「君はどう考えている?」
「もちろん、自己破滅だ。あのままじゃあ、人権株は低級なままだ」
「さて。面白い方向へと盛り上がるかな?」
「さあ、それも奴次第」
琥珀の液体は薫り立ち、ゴードルはその薫りに満足そうに溜息をついた。
「上品なだけじゃ無く芯が座っているのに鮮やかで華がある。鼻腔に輝きが広がった。不思議な感覚だ」
「女の薫りの様だろう」
「君の女の様なのか」
「そうだな。あいつはブランデーというよりも、何の混じりけも皆無な清水だ」
MMは口を付け微笑み、ゴードルを見た。
「例えるなら、このブランデーは若かりし頃の美しきリカー」
「成る程」
愛情を欠く前の彼女はまさしく勇ましい太陽と麗美な月の女神の様だった。
ジルの愛情を一身に受け、悪女ささえあでやかさでカバーしていた。




