Color=16
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ダイランは鋭く冷たい顔を上げ新聞を折りたたんだ。
最悪な事に、パリ警察はアメリカ者の刑事をパパラッチ扱いしては非難し、それを報道したのだ。
その為、フランス内での捜査が出来なくなった。その新聞をゴミ箱に棄てフィスターを振り返った。
彼女はティアードロップサングラスの顔を辺りに巡らせた。ビリジアンのフリンジ襟が細い首を囲って白のフェルトコートを引き立てた。
今日、珍しく彼女はボビーブラウンのコスメを使っていた。いつも彼女は極ナチュラルメイクだ。パウダーを肌にはたいては、蜂蜜の潤いのグロスを唇を重ねる。ビューラーで上がった睫を少し整えて終わりだった。
それを今日は、グレーベージュのアイシャドウをほんのりと滑らかな瞼に広げ、落ち着いた黒系ブラウンのアイラインを極細く入れ、下睫のみにマスカラをそっと撫でえるようにつけては頬に薄ピンクのローズをほんのり差している。唇にマットなベージュを上品に引いては、大人っぽい顔つきはいつもの可愛らしさとは変わり、顔立ちを限りなく美しい女にしていた。
フィスターの表情隠しの常套手段だった。
ボブの髪が彼女をボーイッシュにもし、総合的にはワイルドなメスのしなやかなチーターの様だった。
きっと、黒のシルクタフタや焦げ茶シルクで黒真珠ボタンの上品なハイネックブラウスも似合うだろう。
彼女はコートポケットの中の両手を出して腕時計を確認し、ダイランを見上げた。
「どういう特徴の男だ」
「はい。黒髪の男性に加え、人種はイタリアンかギリシャあたりとラテン系ハーフかと思われます。青い瞳が特徴的な。背は高く、もしかしたら2メートルはあるかしら。洒落たスーツをスマートに着こなす方で、喋り方が丁寧で穏やかな」
空港で待ち合わせているものを、一行に現れない。
ゲートから挙動不審な男が手を振りトランクを引っ張り大股で歩いて来て、一息つくとその素敵な男性は2人を見て挨拶し、ダイランにトランクを渡した。投げ返した。
「間に合った様だね。良かったよ」
無論、フィスターがいるからコーサーは素は出していなく、署内よろしく挙動不審できめていた。時にこの年上の大人な男をその為に捻り潰したくなった。
「イタリア男はいなかったか。例の捜査官だ」
「見かけなかったなあ」
「そうか」
フィスターは何度も連絡を取ろうとするが出ない。
「今回の問題に挙げられ、上に合流を止められたのでしょうか。派手に落ち合う事は避けたとも考えられます」
「こちら側だけで向うしかなさそうだな」
「そうですね。現地には来る筈です」
3人は歩き出した。
「署に映像は送り込まれたのか」
「ああ。全く、どうしようもないよ。今度は男がコスタリカのパノラマ大自然から投身自殺をした映像でね。身元は分かっているんだ」
「誰だ?」
「有名俳優だ。だから、これは全てが映画なのかとも思った位だ。カリフォルニアの彼の屋敷に赴いた所、婦人が彼は1週間前から旅行に出た事を言った。コスタリカにね」
ダイランは呆れた様に息を付き、先を促した。
「転落してもしばらくは生きていた。酷いものだったよ。衝撃で岩に当たって腹が割れて内臓が出た。虎が狙っているし、そのまま死んで動かなくなったのを、自然の摂理と巡回のままに3匹が群がって貪り尽くされるまで映像は流れた。最後の一匹がカメラの方向にいきなり飛びかかってその牙が目を射抜いた瞬間映像が途切れた。いくら終わった生命のサイクルでの食といっても、南米は虎が生息しているわけも無いから、個人で連れ込まれた可能性が高い。どちらにしろ人間のやらかしたことだ。虎に罪は無いからな」
「ああ。ニュースでは流れなかったぞ」
「機密で処理されている」
「FBIの人間はその事を言ってこなかった」
「掴んでいる筈だよ」
「その虎にもしも世界動物繁殖・自然放野のプレートが確認されていたら、その番号から虎の繁殖主が分かるんだがな」
「
ゲートを抜け歩いていき、空は水色だった。豊かな水源の様な空の色だ。
「自殺理由はドラッグのやりすぎ。まあ、それは有名な話だったからね」
「被害者の名前は」
「ポッカー=ベレン。ほら、『優雅な流れ』で銀幕のスターになった」
「ああ。あの。怨恨関係は何も無いのか?」
「普通に多かったよ。喧嘩早いしライブハウスではロッカーといがみ合いも絶えなかった。友人達からは薬に狂ったどうしようも無い奴だってね」
そう、誰かさんと同じだなという皮肉の視線をダイランに横目で送り、ダイランはつんとしていた。
「だからあの自殺は完全に快楽的なものだったと見ているんだ」
顔はえらい美男子で、年齢はダイランと同じ23歳の青年だというものの、まるで少年の様に落ち着かない。
顔が完全美を誇る丹精さの為、映画と来れば時代物や歴史物の情景的恋愛物の白黒フィルムのみで、荒くれた私生活とのギャップが激しくスキャンダラスだった。スクリーンでは耽美に美しく演じきっては完璧にこなし、プライベートははちゃめしゃで支柱が無い。
17歳の妻は2才の子供にアップルなどと名付け、ポッカーの両親が富豪の為やりたい放題だ。
きっと、親はマークの団体に関係しているのだろう。
飛行機に乗り込むと、もちろんVIPクラスの特別室で来た御曹司はファーストクラスの風景には顔を曇らせた。シートにこの男を黙って座らせる。
「別に、僕も現地集合で良かったんだ」
「わざと出迎えご苦労、ご苦労」
そう、わざとディアンの物まねをしてコーサーをねぎらってからダイランもシートに背を落ち着かせた。
離陸していく飛行機の窓から見下ろす、整備され尽くした美しい街並みは透明に思えた。水流の様に優雅だ。
あの映画はとても美しく、繊細だった。恋の駆け引き、大人の恋愛、静かな流れと、美しい男。燻し銀のクラシカルな世界。艶の女。銃の轟きさえもが映像のクラシックにまで聞こえる。既に失われた輝きの貴族世界の風雅と、美しい自然の織り成す悠久の時だ。涙が銀のきらめきにも思え、あまりにも創り上げられた世界観の中の男女は罪に感じるほど美しすぎ、永劫の不滅ささえ誇っていた悲哀のストーリーだ。完全なる美が配された映像美と構成は観る者を時に罪にも陥らせた。
見てはならない背徳の美。罪の上の流れる悔恨の美。円卓に置かれたナイフに添える女の細い指まで、それを憂い見下ろす女の視線さえ、暗い室内の背後から差す銀の光さえ繊細で、鮮明で透明ささえある極上の白黒なのに、時に自然の緑は鮮やかに色づいて見えた。思い出を蘇らせる流れの中の様に輝いた。全ての感情に目を眩しそうに細めるかの様に彼等の瞳に白い艶を受け。紡がれる言葉の美しさ一つ一つ。そして過ぎ去った時代の華麗なる全ての施し。恐いほどに整えられたそれらの全てと、情景と、心理の世界。秘密の心理愛の叙情的な時の動き。草原に囁かれる詩は表情も無く涙を流す女の、水の様に流れる視線を飛び出しまるで、夜空の星と流星群を追い、夢と幻想を行き来するかの様な感覚に陥らせた。
自分の殺した男。手を血に染めて跪き、星を流れるように見つめては、突如として叫びを上げ泣き顔を歪ませ声を上げ草原の草に、額をうずめさせた……。
横の2人の雰囲気を横目で見て、顔を向けた。何やら2人はどこか雰囲気が冷めているのか、ぎくしゃくしているのか、また酷くダイランがフィスターを泣かせたのか、余所余所しいのか親密なのかが分からない風だ。生きた色彩をもって。
ダイランの腕を肘で付いてダイランは「なんだよ」と顔を向けた。
「喧嘩でもしたんじゃないだろうな。捜査中はチームワークを保て。特に2人の捜査時には険悪なムードは避けろ。捜査に集中出来なくなるからな」
「逆に一晩で親密な仲になったのかもしれねえじゃねえか」
「本気で言っているのか?」
「んなわけねえだろうが」
男2人がひそひそ恐い顔で話し合っていて、フィスターは笑顔でポットの紅茶を差し出し、コーサーは笑顔で受け取った。ダイランはいらねえと言った。
家主から頂いた例の紅茶だ。
その袋の中には万年筆のフレンチで郊外の高級ホテルの名称とルームナンバーが書かれていた。
{シェリダンからジェーン
捜査など放り出してしまえばいい。#999で君に見合う素敵な夜を用意しよう}
あの家主からフィスターへのお誘いだったが、もちろん彼女は丁重に電話でお断りした。
何か探られるはずだ。罠だと。
確かに彼はすらりとしていて充分素敵な男性だ。だが、絶対に裏がある筈だ。
わざと罠に掛かりに行こうとも思った。昨夜考えた。ダイランにも報告するつもりでいた。だが、彼の事だから探らせる為に絶対行けと命令しただろう。捜査に繋がる。だが、どうしても言えなかった。
ダイランはアイマスクを填め眠っていた。
昨日……、彼はどうも思わなかったのだろうか。男女同じ部屋で、どうも思わなかったのだろうか。彼女は緊張のしまくりだった。思えばとてもいいチャンスだったのだ。パリ。しかも割といいホテル。確か恋人だとかの名義でチェックインし、出張で初めて彼とは同じ部屋だったのだ。
彼は寝ぼけていてまるで子供を引っ張るように同じベッドに連れて添い寝したけれど、彼は早く目覚めていて一人で彼女は目覚めたのだ。しかも、自分は彼の横で現地で買ったばかりで肌に馴染まない寝巻きを寝ぼけたまま脱ぎ始めたらしい。自分は自分の枕で、とにかく柔らかい素材に包まれなければ眠れない。
彼はきっとそんな無頓着な、しかも嫌っている女に激怒してベッドから出てソファーで寝たのでは無いだろうか。
本気になり掛けている男性との夜を普通に寝過ごしてしまっただなんて。
「完全会員制を敷かれたパーティーへの潜入は無理だったんだけれど、その他へのイベントには出場出来る事になったの」
「よくその男は掴んだね」
「ええ。いろいろな伝を使ったんだと思うわ。コーサーは連盟の事に調べを着けて?警部は就任する理事長の名を知りたがっているの。候補とされるメンバーの名前をあなたなら知っているんじゃないかしら。ほら、昨日も言っていたじゃない?メールではあなたの曽祖父が歴代の理事長だったって」
「ああ。メンバーの面子は分かっているが、僕にもまだ分からないよ。内密の事に掛けては彼等はガードがきついんだ。昨日の通り、事件もあったせいで理事長枠には皆敏感になっていて、収集をつけられる座を誰もが嫌がっているか、それとも誰もが後釜を狙っているんだろうとね」
「もしかして、その連盟の中にマークの主催者がいるんじゃないのかしら。身内のその名を誰もがガードしているのかもしれないわ。家主の姉の旦那さんは20代から30代の若年会の中の年長でしょう?彼等の中から出るとしたら、今度は40代から60代までの壮年会から出る筈だと思うの」
長老会は70代から90代までの、世界中の様々な連盟の会長クラス、一部将来の会長にまでのし上がった壮年会後の人間で形成されていもる。姉の旦那は現在35の年齢だ。
「あなたはその旦那さんとは親しいの?」
「あまり会話はしないね。気質が違うんだ。だが、人物像は確かに変わっているよ。なんていうのかな。独特の雰囲気があるから」
フィスターは相槌を打ち、コーサーに聞いた。
「彼等の顔は押えている?あたしも会場ですぐに見つけたいの」
「いいや。写真は無いよ。そういう連中は顔を公には出さない。僕も警察官の身分ではプロフィールが乗っている以外は顔は社交やパーティー、オペラやカジノなどの場で親交を顔と顔で深め合うだけだ。貴族や富豪はそういうものさ」
「確かにね。あなたのお婆様も、コスメブランド界の活躍で顔を公にする事も極限られた富豪書籍に1,2回載せた程度だ物ね。彼女の場合は若い頃、銀幕女優だった時代があって有名だったけれど」
「そうだな。今は本当に写真には顔を出さないよ」
地主は綺麗な女性だった。初老の風は落ち着き払った美しさで、年齢をまるで窺わせはしない美貌と肌の若さを持っている。年齢は控えているが、見た目では42,3程に見えた。肌は10代の様だ。写真では穏やかな柔和さで微笑み、とても優しげな貴婦人。メイク界でもショーではとても落ち着いた優しい物腰で華やか。女性の心を分かり尽くし、マダム同士からの支持も大きい。
フィスターは地主には面識は無い。同じ街に住んでいるとはいえ、彼女に会える事など難しい事なのだ。
彼女はその地主には少女時代から憧れを抱いていた。あの様に美しく年を重ねたい基本の美だ。彼女はリカ・ラナのファンデーションのファンの一人でもあった。街へ戻れた喜びの一部には、穏やかであり華やかな美しさ放つ彼女の治める美しい街へ来る事ができるからなのも含まれている。
だから、本来の彼女のさばさばしたきつい性格を誰もが知らなかった。だが、社交ではあのはっきりした性格は逆に好かれていた。きついが、気分が良いほど開けっぴろげで、何者にも臆さない物腰とすばっと歯に衣着せぬ物言いは恰幅が良いとの定評だった。
「姉夫婦は揃って出席するのかしら」
「どうだろう。基本的にはあまりパーティーを夫婦で出席する方じゃないからね。クリスマスやモナコのチャリティー、グランプリの後夜祭や王家に呼ばれた先での宴などの大きな公のイベントには夫婦共に出席するくらいかな」
「フラミンゴ……フラミンゴ……」
フィスターは画面から顔を上げ、ダイランが寝返ってフィスター側にごろんとなったから、彼女は顔をピンクに染めて前に向き直った。コーサーは可笑しそうに一度笑うと、薫り高い紅茶を口に運んだ。
「フラミンゴが……可愛いフラミンゴが……」
ダイランの顔はアイマスクで見えないが、フィスターはぎこちなく見下ろして、微かに開かれた口元が何やら寝言を言っているのをくすくす微笑んだ。その内ダチョウが……と言い出した。フィスターはコーサーと顔を見合わせ、可笑しそうに首を傾げさせた。
「違うんだ……あんたは間違ってる」
そう断言し、続けた。
「奴は悔しがってた。ダチョウの奴は本当は飛べるんだ……毒蜘蛛の奴に刺されて飛べなくなっただけなんだ、Rのバーで奴自身から聞いた、奴は悔しがってた」
確実にマチガッてるのはこいつだ。正論を言っているのは夢の中の医者に他ならなかった。ダイランと医者の横では顔を片手で押える可愛い顔の白人青年と背の高い黒人青年が並び立ち、笑いで肩を震わせぶるぶる笑っていた。
どんな夢見てんのか、わけ分からん事言っては何やらあたふた手を動かしている。フィスターは可笑しそうに笑っては細い指で口元を押えた。
「何の夢見てるのかしらね」
稀にモラルと正道、倫理的な面を意外に覗かせるダイランだが、夢はきっとめちゃむちゃなのだろう。
「さあ……またトチ狂った夢でも見てるんだろう……こいつの事だから」
ダイランがあたふたさせる手でフィスターの細い腕を掴み、それで収まっては安眠に突入した。
フィスターは可笑しそうに苦笑し、その手もそのままにパソコンを操作した。
ポッカー=ベレンの公式サイトを見る。
「事務所側は今、きっと慌てふためいているでしょうね。まだサイト上では何の音沙汰も無いけれど、一部の映像をパソコン上で見た人間が誰かしら、近々彼の顛末の噂を流すと思うわ。取り寄せるような人間は匿名希望を使って面白がって出す人間も多いと思うの」
「という事は、フィスターは映像に関しては一般の人間、もしくはアングラな人間達だと思うんだね」
「必ずしもとは言えないけれど、そちらのニーズの方が多いと思うの。友人で経営学を専攻していた人がいてやはり派手な映像は、モデル、映像、ファッションなどを好む若年、プチブル以下のクラスが多いわ。逆に上流層がいるとすれば、やはり趣向が変わった人たちね。富豪達は殆どをナチュラルな中で生きたがるわ。ここまで事件は大きくなっているから、一般の人達だけでも映像を取り寄せている事を名乗り上げてくれる勇気を出してはくれないかしら」
「やはり、大きな事件になると尻込みするんだろうね」
コーサーは困りきって腕を組んだ。フィスターに甘えているダイランを目を伏せ気味に見下ろし、やれやれと首を振った。今度ひやかしに言ってやろうかと思った。ギャンギャン野犬の様に毎度吠え立てるときに。きっと黙るはずだ。




