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8.はじまりは書庫で

 ルーンの決死の告白の翌日。


「な、な、な、な、なんだこれは!?」


 目の前に広げられた本日付の朝刊の一面には、でかでかと『フェルナンド王子、恋人現る!!』の文字が躍っていた。


 いつものように職場である王立図書館に向かうと、門扉の前に無数の人だかりがあった。

 このままじゃ始業に間に合わないじゃないか、と思っていると、ミラに肩を叩かれてそのまま普段は使わない勝手口から中に連れ込まれて見せられたのが、この新聞記事である。


 見出しの横には、事故に遭う前のフェルナンドの顔写真と、病院に入っていくルーンの後ろ姿が掲載されていた。

 中身を読むと、フェルナンドの経歴や性格の紹介と、今まで一切恋人がいなかったこと、そして隣国でも同性婚が進んでいる、という評論家のコメントが付いていた。そして、ルーンの顔や名前は出していないものの、知っている人が読めば誰のことだかわかる程度にルーンの情報も載っていた。


「何って、こっちこそ何よ~。あたしだって新聞で知ってびっくりだったんだけど、あんたたち、ようやく付き合うことになったのね。あめでとう!!」


 何やらウキウキしているのか、いつもよりミラの声のトーンが高い。


「いやいやいや、おめでとうじゃないよ! なんでこっちが決死の告白をした翌日に、もうこんな記事が出るんだ。というより全国にこんな大々的に知られるなんて……えぇー」


 完全にフロアには護衛しかいない病院だったから、他の人の目を気にしていなかった。

 それがこんなことになるなんて。


「あら、昨日のことなのね。すごいタイムリー。てか、あんた自分からちゃんと告白できたの。すごいじゃないの」


「まぁ、うん、その節はありがとう。ミラのアドバイスのおかげ。本当にありがとう」


 そこは感謝しても感謝しきれない。素直に礼を言う。


「どういたしまして。まぁ、王族と付き合うなら、隠して付き合うのはそもそも無理よ。有名人だし、いろいろな人が傍にいるからね。まぁ、こうなったら、腹くくるしかないわよ」


「でもさー、人気の王子がこんな地味な人間と付き合っているなんて知ったら、みんな幻滅する……」


 いじけるルーンに、ミラは記事の下の方を指して言う。


「確かに、こんな地味でもっさくて取り柄が本を読むことしかなくて、キノコでも生えちゃいそうなやつだけど、見てよ、ここ。一般人へのインタビューが載ってるでしょ」


 相変わらずひどい言いぐさだなと思いながら、指さされたところに目をやると、街頭インタビューでもしたのか、何人もの人のコメントが載っていた。


『ずっと憧れていた王子が同性好きだとしってびっくりしましたが、幸せになってくれて嬉しいです』

『王子が選んだ相手なら、きっとそれだけ素敵な方なんだと思います』

『おふたりを応援しています。末永くお幸せに!』


 他にもいくつか肯定的な意見が載っていて、驚きでルーンは目を見開いた。


「ね、大丈夫でしょ? もちろん否定的な考えの人もいるでしょうけど、そんな口さがない人の意見よりも、こうやってルーンたちを祝福してくれる人を見た方がいいわよ」


 もちろん誰よりも喜んでるのはあたしだけど、と胸をはる親友を見て、ルーンの胸が熱くなった。


 悪いものばかり見て、後ろ向きになるのはルーンの悪い癖だ。


 今回のことでよくわかったではないか。

 自分の気持ちに向き合うこと、そして目の前の人を見ること。


「こうやって世間に知られちゃったんだから、もう隠す必要も意味もないわよ。過去を気にしても無駄無駄。それに今から悩んだって疲れるだけよ。せっかく両想いになれたんだから、今、目の前にある幸せを噛みしめた方が絶対幸せよ」


 ミラが自信満々に笑う。


 周りをぐるっと見渡すと、たくさんの本がある。


 ここは王立図書館の地下5階。

 ルーンの好きな紙とインクの匂いで満たされている。


 ここにはルーンのすべてがある。

 生まれてから人付き合いの苦手なルーンは、本がともだちだったし、人生の先生でもあった。

 本に没頭することはルーンにとって最大の幸福だったし、それを仕事にできたことも幸運だ。

 さらには、親友と呼べる友人もできて、さらには恋人もできた。


 きっとこの書庫を出ると、たくさんの人がいて、ルーンの知らない世界も広がっている。

 今はルーンに興味津々な記者や野次馬も詰めかけているだろう。


 これから、今までの平穏な人生とは違う人生を歩むのかもしれない。

 好奇の視線に晒されるだろうし、性別や身分などで何か言ってくる人もいるかもしれない。


 でも、自分にとってこの書庫がすべてで、新しい人生の『はじまり』だ。

 

 問題を先送りにしただけにも思うが、知らない人のために悩むのはやめにする。

 これから超えていかなければならないハードルがあるなら、一緒に悩む存在もできたのだ。


「そうだね。いろいろ思うことはあるけど……ミラの言うとおり腹をくくりますか!」


 明るいミラを見ていると、もうどうにでもなれ、という気持ちになってくる。

 他でもない、自分で決めたことなんだから、うだうだ言ってないで、フェルナンドとルーンのこれからを考えよう。


「そうそう、その調子。彼氏とこれから楽しいことがたくさん待ってるよ! まぁ、あんたの彼氏は大胆な策士だから、振り回されないようにね」


「え?」


 最後にめちゃくちゃ聞き捨てならない言葉を聞いた気がするが、聞かなかったことにした方がいいと本能的に感じた。

 あんなネズミ一匹通さない完璧な警備の中で、どこから情報が漏れたかなんてルーンには計り知れないことだ。

一旦ここで終了です。

後日談を書く予定です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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