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3.書庫番の悩み

「で、あんたはなんて返事したのよ?」


 席の向かいで、ミラがベーコンを口に入れながら尋ねた。


「いきなりでびっくりしたので、少し時間をくださいって言ったさ。未だに自分でもこの状況が理解できないんだ」


 皿の上のウインナーをフォークで転がしながら、ルーンは大きくため息をついた。


 フェルナンドに愛の告白をされたのが昨日。


 恋愛どころか人付き合いだってままならないルーンにとって、フェルナンドの告白は衝撃的すぎて、未だに実感を伴わない。そこで、唯一の友人であるミラをランチに誘い、相談してみたのだ。


「まぁ、確かにあんたが思考停止に陥るのも無理ないわ。人生初の告白、しかも相手は同性、さらには老若男女問わず大人気のイケメン王子。三拍子そろってのインパクトだもんねー」


 かくいうミラは、現在5歳上のイケメンとお付き合いをしているらしい。

 肩につくかつかないかくらいの栗毛にくりくりとよく動く猫目のミラは、愛嬌のある美人といった感じで、こういった色恋関係には経験値が高いのだろう、というのはルーンでもわかる。

 まともに友達がいなかったルーンと仲良くしてくれるんだから、そのコミュニケーション能力の高さは折り紙付きだ。


「そうそう。あんななんでも揃った人が俺のこと、その、す、好きだなんて信じられるわけないよ」


「なに、乙女チックに顔赤らめちゃって」


 ミラがニヤと口の端を上げて、サラダを頬張る。


「乙女とか言うな。だってさ、その単語を本以外の会話で使うことなんてないんだから、使うことすら憚れる」


 わかっているだろうに、わざわざ聞いてくるミラを軽く睨む。


「いいじゃんいいじゃん。あんたってだっさいし地味だしもうアレだけど、可愛い系なんだから、もうちょっと身だしなみ整えたらそれなりになるよ。

でさ、あんた、殿下のことどうするつもり? 顔良し、スタイル良し、性格良し、王子だから身分は高すぎだけど経済力良し、将来性良しで、なんでも揃っている人じゃない。あたしだってうらやましいと思うくらいの好物件よ」


 非常に失礼なことを言われた気もするが、間違いないことなので聞かなかったことにする。彼氏がいるじゃないか、とミラを睨むと、それとこれとは話が別、と嘯かれた。


「そもそも、恋愛とかハードル高すぎて無理。人付き合い自体苦手だっていうのに、それより深い関係の恋愛をするなんて、想像もできないよ」


 ため息をついて、ウインナーにフォークを突き刺す。


「ルーンは人付き合い苦手って言うけど、殿下には苦手意識を持ってるようには見えなかったけどな。それどころか、すごく親しげで、一番の親友はあたしじゃなくて、殿下だと思ってたわよ。世間で大人気の王子とコミュ障の司書っていう変な組み合わせだけど、どっかで気が合うのかね。でも、殿下は、その関係じゃ物足りなくなって告白したんでしょ。それを経験がないからって、一蹴するのは失礼だと思うわよ」


 ミラの言うことは、ルーンもよくわかっているので、何も言い返せない。黙っていると、ミラは続けて聞いた。


「何が引っかかってるの? 性別? それとも身分?」


「……どっちも違う、気がする」


 自分でも引っかかっているのだが、別に同性だからとか身分差があるからだとか、そういうのとは違う期していた。喉の奥に魚の小骨が引っかかっているような、そんな釈然としない感覚がある。


「それで、あんたはどうしたいのよ?」


 ミラが手を止めて、ルーンを見た。


「どう、って……未だに混乱してて、どうしたいかなんてわからないよ……」


「これじゃあ、堂々巡りね。厳しいこと言うけど、思考停止してるなんて駄目よ」


 ビシッとフォークをルーンの胸に当てる。


「あんたの気持ちはあんたにしかわからないんだから。あんた以外の誰も、この答えを導き出させる人はいないのよ。もうちょっと胸に手を当てて考えてみなさい」


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