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第7話 神獣を餌付けしました

「うわっ。チートな武器だ。」


 竜の剣に『鑑定』スキルを使ってみると酷くチートだった。


 拙い・・・思わず声に出してしまった。だがマーリンはニヤニヤ笑うばかりで何の反応も示さない不気味だ。まあ元から不気味な存在なんだが・・・実は俺を異世界転生者とわかっていてからかっているなんてことは・・・幾ら神獣ユニコーンでもそれはないか。


―――――――――――――――――――――

名前:ブリタニアの竜の剣

種類:弓剣Lv1

パッシブスキル:命中率+50%、威力+50%

―――――――――――――――――――――


 『命中率+50%』ってなんだよ。


 俺は柄を手放し弓形状にした『ブリタニアの竜の剣』に『箱』スキルから出した矢をつがえると全力で弦を引き、遠くに飛んでいた(ガン)目掛けて放つ。本当なら全力で弦を引いたら、まず当たらないのに2本目で当ってしまった。近くに飛ぶと勝手に軌道修正してくれるらしい。


 それよりも問題なのは矢がガンの身体を通り抜けてしまったことだ。明らかに威力も上がっている。てっきり『威力+50%』で剣の威力が上がるものだと思ったのだが違うらしい。


 剣を使うときにも『命中率+50%』が発揮されるのだろう。相手の動きに合わせて剣が勝手に軌道修正しそうだ。


 しかも、『弓剣Lv1』ってなんだろう。使い続けるうちにレベルが上がっていくのだろうか。


 調子に乗って周辺に居たガン5羽を撃ち落した。これだけあれば、今日の夕飯に十分だろう。


「今日も美味しく料理してくれるんだろう。楽しみだ。」


 何も口を挟まなかったのはこれが理由らしい。餌付けした覚えは無いんだがなあ。












「流石はお兄様ね。」


 舟が島に戻ると兄妹全員が出迎えてくれた。パーシヴァルは相変わらず男の格好だった。今までの関係を続けたいのだろう。ホッとした反面、がっかりもしていた。


「俺は何もしてない。マーリン殿のお陰だよ。これはお土産だ。後で調理するから、捌いておいてくれ。羽毛は綺麗に剥がせよ。」


 この世界の魔術師マーリンは竜の剣へ導くのが役割なのだろう。ペンドラゴン王の血筋の貴族たちの前に必ず現れているから、どの貴族たちにも平等に権利があったということなのだろう。


 アーサー王伝説でも、アーサーしか抜けない剣を設置したり、アーサーの身を守り忠誠を誓う騎士を集めるために両親から引き離したり、と物凄く強引にアーサーを王に導く役割を果たしている。


 この辺りは元々魔術師マーリンを主人公とした物語があり、やや強引に合作された経緯があったりする。この世界はアーサーがあっさり死んだことから見て、魔術師マーリンが主人公のブリデン王伝説なのかもしれない。


 エレインに撃ち落したガンを手渡す。


「解っているわ。高く売れるものね。でも入れるための麻袋を持ってきてないわ。どうしよう?」


「麻袋ならあるぞ。ほら。」


 『箱』スキルから麻袋を取り出して手渡した。同じものは999個までしか収納できないが種類は無限に収納できるため、必要なものを手当たり次第詰め込んできたのだ。しかも『状態』スキルで『箱』スキルの中身を見ると勝手に振り分けられているなんて便利すぎる。


「これから何処へ行くの?」


 俺が岸からあがってきたヴィヴィアンさんにこれも『箱』スキルから取り出したバスタオルを掛けながら、対岸へ行ってくれるようにお願いしているとパーシヴァルが近寄ってきた。


 近くで見れば濡れ鼠になったヴィヴィアンさんの服が透けてて思わずバスタオルで周囲の視線から隠したのだ。


 決してラッキースケベなんて思ってないぞ。俺は誰に言い訳しているんだか。


「馬たちの様子を見てくるよ。心配だからな。」


「ダメだ。先に料理を作ってくれ!」


 とんでもない方向から待ったが掛かった。マーリンだ。だから餌付けした覚えは・・・。


「まだ昼だぞ。」


 この世界は昼食を摂るという習慣は無い。朝食と夕食の2回だけだ。


「魔法を使いすぎて腹がへったんだ。用意してくれないか。」


 水中のヴィヴィアンさんたちと意思疎通していたくらいで大層な魔法を使っていた様子は無かったんだがなあ。言い訳なのだろうが、竜の剣まで導いてくれたマーリンに無碍な扱いもできない。


「皆もそれでいいか?」


 2回に分けて作ってもいいし、日持ちしそうな料理にしてもいい。皆が頷くので調理に取り掛かることにした。











「どうだ。このオーブンなら本格的な料理もできるぞ。」


 マーリンに調理場に連れていかれるといつの間にかオーブン窯が出来上がっていた。


 褒めてくれと言わんばかりの態度は昨日、オーブンがあればと言っていたのを聞いて即席で作り上げたらしい。もしかして魔法を使いすぎたのはオーブン窯を作った所為ではないだろうか。このユニコーン食い意地張りすぎだ。


 しかし、オーブンレンジしか使ったことの無い俺に薪を使ったオーブン窯を使えというのか。高度過ぎる。


 とにかく作ってみるしか無いな。


 ガンの丸焼きとクリームシチューを作るつもりだ。


 綺麗に羽を毟られたガンをエレインから渡される。パーシヴァルはまた見ているだけだ。もう何も言うまい。後で寸銅鍋を洗って貰おう。


 既にお腹に大穴が空いているので、そこから内臓を取り出して中を洗っていく。5羽の内、3羽はバラバラになってしまったのでシチューに入れる分だ。もう少し鏃を小さくしないと小さい個体なら当たった途端にバラバラというスプラッタ状態になりかねない。


 囲炉裏のコンロには常に火がついており、その上に寸銅鍋を乗せる。


 まずは小麦粉をゆっくりと炒める。この世界の小麦粉は粗い上に水分が残っているので先に炒める必要があるのだ。少し色が付いたところでガンの内臓の脂を入れてジャガイモやニンジンやタマネギを入れて更に炒めていく。


 表面上焼き目が付くか付かないかのところで水を投入する。後は野菜が煮えるまですることが無いのでガンを捌くことにする。


 そう言ってもぶつ切りにしていくだけだ。本当は内蔵も使いたいのだが野鳥は寄生虫が怖いので諦める。レバーとか凄く美味しそうなのにもったいない。


「お兄様。そろそろ野菜が煮えてきたわよ。こんな大量のジャガイモをどうするの?」


「エレイン。ジャガイモの半分。崩れかけた分を皿に取り出して潰しておいてくれ。」


「どうするのよ。こんなもの。」


 エレインはそう言いながらもジャガイモを取り出す手を止めない。一家の台所を預かるだけのことはあるよな。


「潰したジャガイモはガンのお腹の中に入れる。代わりにこっちの肉とヤギ乳を入れておいてくれ。」


 バラバラになったガンをぶつ切りにしたものをエレインに手渡す。コンソメは無いので骨付き肉だ。これで良いダシが出るはず。


 本当ならハーブやにんにくを使うらしいがオーブン窯の状態がわからない。上手い具合に中まで火が通るとは限らない。表面が黒こげでも全然中まで火が通らないなんてこともあり得る。


 従って中だけでも食べられるように事前に熱の通ったものでガンのダシ汁が浸透すれば美味しいものをということでマッシュポテトにした。


 内側に塩を塗りハーブを敷き詰め、そこにマッシュポテトを詰め込んでいく。そして、周囲にもハーブを擦り付ければ完成だ。


 昔、イタリアンレストランのピザ焼き窯で見たときのように周囲に薪を敷き詰めるがその次が解らない。どうやって着火すればいいんだ。着火剤なんてないだろうし。


「次は藁よ。その上に薪と空気が流れやすいように敷き詰めるの。オーブンは温度管理が難しいのよ。大丈夫なの?」


 俺がオーブン窯の前で悩んでいるとエレインが教えてくれる。囲炉裏から火種を持ち込むと一瞬にして藁に燃え広がる。続けてエレインが藁を追加していく。なるほど、ああやって着火していくのか。


 大丈夫じゃないから困っているんだよな。ピピッと設定すれば自動で温度管理してくれるオーブンレンジがあればなあ。


 そんな便利なものは・・・無いか・・・ちょっと待て、俺にはスキルがあるじゃないか。知りたい・・・『鑑定』スキル・・・ちょっと強引かな。まあやってみるだけやってみよう。


 『鑑定』スキルを窯の何も無いところに向かって使ってみたところ、『150度』と知りたかった温度が出てきた。低すぎる。俺は『鑑定』スキルを使いながら薪を足してゆく。


 丁度良い温度になった所で詰め物をしたガンを2羽ゆっくりと窯の中に入れると窯の中の温度が下がっていくので薪をかき回して温度を上げる。こんなものかな。


 引き続き温度管理を行いながら、じっくりとじっくりと焼き上げる。キッチンタイマーも無いから時間計測もできない。後は見た目で判断するしか無い。


「お兄様。こっちはドロドロになってきたわよ。」


 シチューも囲炉裏が弱火な所為か中々煮立ってこなかったがようやく最終段階に来たようだ。


「丁度良いとろみになるまで水を足してくれ。」


「これくらい?」


 エレインがかき回してみせる。大鍋にいっぱいの具材だから重そうだ。


「代わるよ。」


 俺は鍋の前に立ち、ゆっくりとかき回す。食べる人数のことも考えてヤギ乳と水を足していく。再び煮立たせる。これも時間が掛かるのでエレインに任せる。後は塩で味を調えてじっくりじっくりと冷ましていけば味が染み込んで出来上がりだ。


「丸焼きは、もう良いんじゃないか?」


 良い香りが漂い見ているだけなのがツライのは解るが・・・マーリンが口を挟んでくる。


「まだまだ、これからだ。」


 窯の前に戻るとジュウジュウとガンの肉が良い音で焼け始めていた。合計1~2時間は焼かなければいけないはずなのでまだまだ先は長い。適当なタイミングで新しい薪を入れて温度管理をしていく。ここまでいけばルーティンワークだ。










「良し出来たぞ。」


 出来上がった頃には周囲の弟妹たちがお腹が減ったを連呼していた。そんなに一挙手一投足見逃すまいとばかりに見てなきゃいいのに、皆美味しそうな匂いには勝てなかったようだ。

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