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第5話 パーシヴァルが男らしい理由

 『箱』スキルから皿とスープ皿を取り出して、料理を盛っていく。あれくらいのことで食欲無くなるような弟妹じゃなかったようで、ついでに出したパンも次々と無くなっていく。


「じゃあ、パーシヴァル。洗い物は頼むな。」


 妖精である湖の乙女も食べるとは思わなかった所為か少し足りなかった気がするがパンで誤魔化した。


「わかったわ。終ったら洞窟の奥にあるという浴場を先に使うわよ。」


 洞窟の奥には温泉が湧いていると、湖の乙女が教えてくれたらしい。


「ああ女性たちが終ったら知らせてくれ。疲れているだろうから、ゆっくりと浸かれよ。」


 本当のことを言えば女性たちは置いていきたかったがマーリンの相手ができる人間が必要というだけで連れて来てしまったのだ。エレインもパーシヴァルも大変だったと思う。












「ひとつ聞いておきたいんだが、即位する王は我が家の男なら誰でもいいんだよな。」


 マーリンに質問する。神獣ユニコーンの導きならば、竜の剣を手にすることは確実にできるだろう。だが俺が王になるわけにはいかないのだ。そんな器でも無いし、バックボーンも持たない人間に国を任せれば、どんな些細なことでも上手くいかないに違いない。


 その点、ガウェインやガラハッドなら侯爵家というバックボーンがある。これは大きな強みだ。


「兄貴っ。」


 俺の言いたいことが解ったのだろう。ガウェインが焦った様子で睨んでくる。


「もちろん。誰でも構わないが王はたったひとりだ。ブリタニア騎士爵家の男性たち皆で試してみればいい。間違った剣はそもそも刺さらない弾かれる。間違った人間が刺しても鞘ごとは引き抜けないんだ。」


「剣が正しく竜の剣ならば鞘に刺さるのか。当家に王が居なければ、次のペンドラゴン王の血筋の家に挑戦権が回るわけだ。」


「そうなるな。」


 アーサー亡き今、我が家に王になれる人間は居ないだろう。ガウェインやガラハッドにだけ儀式をやらせればブリタニア騎士爵家は安泰だ。


 他の弟たちがやりたければやらせても良い。万が一の場合はガウェインやガラハッドを通じて侯爵家に引き取って貰えば良い。だが家の跡取りである俺と万が一の際の代理となりうるランスロットはダメなのだ。


 しかし、こんなストーリーのアーサー王伝説って・・・あっただろうか?


 主要人物が弟妹なのは置いておくとしても、領地の中にアヴァロン島があるなんて、ご都合主義もいいところだ。きっとペンドラゴン王の血筋の領地には湖の乙女たちが居る島が必ずあるのだろう。


 竜の剣は明日舟に乗って行き、湖の中から腕がニョキっと出てきて剣を与えてくれるのかな。元絵は知っているけど、あれは後世の画家が描いた作品だからなあ。どこまでどの物語に沿った話なのかイマイチわからないんだよな。


 幾ら考えてもわからん。大雑把なストーリーは合っていると思うんだが、もしかすると過去に絶版になった書物に書いてあった物語なのだろうか。そうなるとお手上げだよな。


 大雑把な流れだけでもわかるというのはかなり有利だと思うんだけど、アーサー王伝説って各作家が独自のテーマに沿って話を書いているから俺の知っているだけでも十数通り、失われた書物を含めると数百、いや数千通りの物語があってもおかしくない。


 しかも日本語訳でさえ絶版が大部分だし、原典の写しが研究者の書棚にあればいいほうで大半が英国王室かローマ法王庁にしか無いと言われているんだよな。


 アーサー王伝説は研究すれば研究するほど訳わからなくなる物語なのだ。












「ちっ・・・エレインの奴。」


 女性たちの入浴が済んだというので湖の乙女に案内されるままについていくと確かに温泉があった。温めだが結構な深さがあるので、ゆっくりと浸かれそうだった。


「道理で弟たちが誰もついてこないはずだ。パーシヴァルは知っていたのか?」


 パーシヴァルは背を向けて首を振っている。俺とパーシヴァルを2人っきりにするつもりでエレインが仕組んだらしい。


 薄暗い洞窟に仄かに明かりが灯った場所に行って見るとパーシヴァルが居たのだ。


 アーサー王伝説でも異父姉と平気で結婚していたりするし、この世界でも孤立した騎士爵家を存続させるのに止むを得ない場合、兄妹で結婚したりすることもあるが、どうしても現代日本人の感覚が残る俺は二の足を踏んでしまうのだ。


「お風呂に入るくらいどうってことはないさ。俺が10歳くらいまでは良く一緒に入っていたものな。」


 俺が10歳でパーシヴァル6歳くらいか。そのころから弟や妹が大好きだった俺は何かとパーシヴァルの世話を焼いていたと思う。


 初めてできた妹というのも珍しかったのか。良く構っていた気がする。それこそお姫様扱いだった。それが突然髪を短く切ったのは俺が18歳、彼女が14歳のときだった。


「もしかして、その髪は俺が結婚したのが原因か。」


「それだけじゃ無いんです。縁談の申し込みを断るにはこうするしかなかった。ごめんなさい。」


 跡取りの俺は子孫を残すという命題の下、何の疑問も持たず隣の騎士爵家から嫁を貰い結婚した。当時、弟たちは才能に恵まれ、より良い師につくために金策に走っていた。


 俺の結婚もそのひとつだ。女系しか居ない隣の騎士爵家には次男を養子に出す条件の下、持参金を釣り上げている。


 彼女の縁談にもそんな目論見が隠されていたのだ。当時、上手く纏まらなくてガッカリしたが、自分の所為だったなんてマヌケ過ぎる。


 だがこれは元の女性らしい姿に戻すチャンスかもしれない。


「もう終ったことだ。一生一緒に居る。それしかできない。多分な。」


「多分?」


「ありえないだろうが俺が王になれたならば、お前を輪廻の楔から解き放つ。何百年と一緒に綺麗な女性と連れ添えば、一度くらいフラフラっとなるかもしれない。男だからな。だから女性らしくしていてくれないか。」


 俺が王になれば、きっと弟や妹を不老の隠者にするに違いない。実際に前王の娘は財産や権益など全て剥奪されているが不老のままだという。そして円卓の騎士のように皆で物事を決めることになるだろう。


 王になるなんて絶対にありえないけど、この機会を利用してパーシヴァルを女性らしくするために頑張ってみるのもいいかもしれない。いつか彼女も他の男性から求愛され女性の幸せを手にできるかもしれないのだ。

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