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第4話 マーリンはやはりマーリンだった

 洞窟に入ると所々に空間があり、その1つに囲炉裏があったので早速調理を開始することにした。『鑑定』スキルで魚を見ても病気を持っている様子は無かったが、この辺りの人間は刺身では食べないのでバター焼きやチーズ焼き、シンプルに塩焼きにする。


「オーブンがあればもう少し凝った料理も作れるが・・・まあ仕方が無いか。」


 これだけ大きなマスならば塩釜焼きやパイ包みという手段もあるのだがここには無さそうである。


 残ったあらは潮汁にする。もちろん醤油は無いが塩だけでも十分に美味しいものが作れるはずだ。


 『箱』スキルからナイフを取り出して、内臓を取り出して適当な大きさに切りそろえて、軽く塩を振っていく。


 さらにフライパンと寸胴鍋も取り出すと火にかけておく。水を入れて魚のあらやハーブの類を適当に放り込んでおく。


「随分と手際がいいのね。家では料理なんか全くしない癖に。」


 パーシヴァルが皮肉混じり呟くと俺の調理を見ている。フライパンに十分に火が通った頃合いをみて先に塩焼き分を調理する。本当は丸ごと一匹串に差して焼いたほうが旨いのだろうが、やり方がわからない。


「ああ・・まあな。野外では結構作るぞ。」


 野外ではするということにしておいた。拙い拙い。前世では1人暮らしだったので良く料理を作っていたが、今世では料理は見ているだけ、食べるだけの男だった。


 狩猟や漁業でもなるべく早く捌いたほうがいいことは変わりはないので、捌くことはできるのだが料理は女性任せだった。やろうとも思わなかったのは、時代錯誤だがこの世界で料理は女性の仕事とされているためだ。


 火が通った塩焼きは皿に盛り付け、次はバター焼きに取りかかる。本当は魚フライを揚げたいのだが植物油の精製技術が無いらしくて動物性油脂を使うのが限界だ。


「パーシヴァル。この3匹を丸焼きにしてくれないか。」


 知らないものは他人に任せるしかない。自分1人の分しか作らなかったので大人数向けの調理はしたことが無いのだ。内臓を取り除いた魚をパーシヴァルの目の前に取り出す。


「お兄様。ダメよ。パーシヴァル姉さんは鍋洗い専門なの。それは私がやっておくわ。」


 エレインが横から口を挟んでくると小ぶりの魚3匹を軽々と持ち上げていく。


「なによ。」


 俺の視線が痛いらしくてパーシヴァルが顔を背ける。これじゃあ、嫁の貰い手が無いわけだ。


「料理を作ってあげたい男性とか居なかったのか?」


 キッと睨まれた。


「そこまで睨むなよ。ハイハイわかりました。兄さんが悪かった。」


 とりあえず、パーシヴァルの頭を左手で撫でておく。嫌がらないんだよな。『清』スキルを持っているからといって潔癖症というわけでも無いらしい。


「酷い兄さんだな。目の前で上手に料理するわ。好きな男性のことを聞くとか。幾らアーサーを溺愛していたからって、パーシヴァルの気持ちも気付いてあげ「ダメっ。」」


 ケイが俺の知らない情報を教えてくれる。腕力だけかと思っていたが優しいところもあるらしい。


「優しい弟を持って兄さんは嬉しいよ。」


 鈍感だったらしい。周囲を見渡すと呆れた表情の兄弟たちが居た。


「そうじゃないだろ。何かパーシヴァル姉さんに言うことは無いのかよ。」


「そうだな。兄妹愛しかやれないが兄妹なんだから一生一緒だ。それで満足しろ。」


 アーサー王伝説では騎士たちの女性への執着心が身を滅ぼすことが多いが兄妹愛なら大丈夫だろう。


「うん。」


 パーシヴァルは俯いてしまった。耳が真っ赤になっているところを見るとイヤな答えじゃないらしい。


「それにしても、そんなにアーサーを溺愛してたか?」


 弟や妹たち、息子や娘には等しく愛を注いできたつもりだった。


 その間も俺の右手はフライパンをせわしなく動く。バター焼き分を皿に取り分けると残りがチーズ焼き分だ。フライパンの上にはタップリと魚のダシ汁が出ているのでヤギの乳を投入して味が馴染んできたところでチーズを投入すると出来上がりだ。


「モルドレッドが嫉妬するほどにね。」


 パーシヴァルは顔を赤くしながら少し上目づかいで返事する。女性としてのテクニックは持っているらしい。


「あのクールな息子がか? 冗談だろう・・・。」


 18歳になる息子はその年齢に似合わず年寄りめいた人間だと思っていたのだが違うらしい。俺のアーサーへの愛の注ぎ方でそんな性格になってしまったのか。


 ヤバイなアーサー王や円卓の騎士たちを笑ってられないぞ。帰ったら愛していることを伝えなければいけない。


 5匹で1食分としては十分な量の料理ができた。


「おおっ。出来たのか? これは旨そうだ。」


 自分の部屋に籠もっていたらしいマーリンが顔を出す。なにやら儀式の日和をみるとか言っていたはずだ。生贄を使わずに占えるものらしい。


「日時は決まったのか?」


「そんなことより食わせろよ。」


 そう言いながらマーリンは勝手に塩焼きの皿から一切れ口に持って行く。ユニコーンは何でも食べられるのだろうか。もしかすると乳製品はダメなのかもしれないな。


「勝手に手を出すな。まだ出来上がって無いんだ。」


 寸胴鍋の潮汁に塩を足していく少しマイルドにしたいがここには味噌が無い。ヤギの乳をいれたら生臭くなってしまう。せめて醤油が欲しい。シンプルな塩味で我慢我慢。


「明日の朝に行う。なかなか旨い。」


「マーリンは食べられないものは無いのか?」


「無いな。殺生を行い食べないのは、生贄にした人間くらいだな。」


 食欲を失くすようなことをいうなよな。マーリンはやはりマーリンと言ったところか。

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