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第43話 どう考えても無理そうです

『そうですよ! 少なくとも私はキス経験済みです。中学校のとき、同じクラスの女の子とですが・・・。』


 ああ。いつもの夢だ。


 何度となく繰り返し見る夢。前世テレビ番組で見た彼女は凄く大人びて見えた。


 そう私にとってもファーストキス。


 当時から女の子の恋愛ごっこの対象だった私にできたはじめての恋人。独特の雰囲気を持つ彼女に夢中になった。


 どこに行くのも一緒でキスをして女の子同士のエッチのやりかたなんてわからず裸で抱き合った。


 だけど病的なくらい2人きりの世界を作り出す彼女が怖くなっていった。彼女が離れていったときはホッとした。


 でもテレビ番組での彼女は凄く純粋で私のことが好きだったことを語っていた。


 恥ずかしくなった。私も私から離れていった女性たちと何も変わらない。


 後悔した。私は運命の相手を手放してしまったのじゃないか。そう思った。


 その後もテレビ番組や映画に出演する彼女を追いかけた。世間は多くの男を手玉に取る悪女扱いだったが彼女は医者になりたいという一途な女性だった。


 彼女が多くの賞を取り、有名になっていくたび、誇らしいという気持ちと惨めな気持ちが綯い交ぜとなっていき、とうとう海外に逃げ出してしまったのだ。

















「志保さんって誰?」


「パーシヴァル。勝手に寝室に入ってくるなよ。お前は女性としての自覚が無さ過ぎだ。」


 俺がぺラム王国に到着した翌々日には、次男ランスロットと次女エレインを除く弟妹たちが追いついた。


「だから志保さんって誰?」


 相変わらずパーシヴァルは馬耳東風だ。寝言で言っていたのかもしれない。


「前世の友人だよ。」


「恋人ね。」


「ひとの話を聞けよ。恋人だったら良かったんだけどな。」


「好きだったのね。」


「いや今でも好き・・・違うな。彼女に救いを求めていたんだな。」


 女優としての才能も。いい男にモテるところも。優秀な医学生なところも。何もかも持つ彼女に救いを求めていたのだ。彼女に成り代わりたいと思っていたのかもしれない。なんて最低なんだ俺は。


 ブリデン国の王になって初めてわかった。何もかも持つ人間など存在しないのだ。


 王として国の中心に居なければならない。理屈はわかる。わかるのだが退屈になるのは目に見えている。


 刺激を求めて何でもするようになってしまうだろう。人の不幸は蜜の味というからな。


 ファンタジーなら残虐非道を繰り返せば天命を失うのだろうがそういった禁忌も無い。


 実際に国民を殺して殺し回った王も居たらしいが反乱軍に討たれるまで死ななかったらしい。




















「卑怯だぞ。」


「1000人も兵士を連れてきた君たちにそれを言われるとは思わなかったな。」


 交渉のテーブルに着いたロマンス国の皇帝を名乗る男は背後に、何処かに隠れていたらしい丸腰の1000人の兵士たちが並んだときの威圧感はすさまじいものがあった。


 後で呼ぶはずだったワイバーンたちを先に呼んだとしても仕方が無いところだろう。


「私も君に言われると思っていたセリフを言ってしまうとは思わなかった。どういうつもりなんだ。」


 それでも強気な表情を浮かべているであろう男の周囲には兵士が取り囲んでおり、その影に隠れて言っている。


「どうもこうも当事者を呼ぶべきだと思っただけだ。彼ら魔獣の中で天災と呼ばれるワイバーン族は危害を加えられない限り、ロマンス帝国に被害を与えないと約束しようと言っているんだ。」


「誰が信用すると言うんだ。そんな戯言。」


「竜を統べるペンドラゴン王の末裔として俺が約束しよう。」


「誰が信用すると言うんだ。そんな戯言。」


 折角、格好をつけて言ったのに同じセリフを繰り返されてしまった。


「お手・・・おかわり・・・ちん。」


 ワイバーンが俺の言葉に合わせて両前足を手に載せてくれる。以外とノリが良い。というか何処で覚えたんだか。


 仮にも女性だからな、最後のは止めておこう。後ろ足が上がりかけているけど。 


「わかった。とにかくワイバーンを下げてくれ。」


 俺がワイバーンにお願いすると少し後方に下がっていった。


 そのときだった。交渉のテーブルの上に置かれたロマンス皇帝の剣を先頭に居た兵士が持って躍りかかってきたのだ。元々、隙を突いて殺そうという腹だったのだろう。


 周囲の兵士も襲いかかろうとするのを弟たちが抑えてくれる。


 俺は咄嗟にオリハルコンの聖剣を取り出して応戦するが力量が違いすぎる。


「うっ。『ウォーターボール』」


 3合わせもしないうちに左腕を切られてしまった。不壊の鞘でHPは殆ど減らないとはいえ痛いものは痛い。


「どうした殺さないか!」


 傷付けられると同時に唱えた魔法により俺の血液が混ざった水が兵士たちに襲い掛かる。


 凄い。それでも男を守るつもりなのか仁王立ちで痺れを堪えているようだ。


『ウォーターボール』『ウォーターボール』『ウォーターボール』


 傷口が深かった所為か多くの血が流れ出したので『治癒』魔法を使う前に残りの兵士たちに向けて血液入りの水を降らせた。勿体無いからな。有効活用しないと。


「ああ痛かった。なんてことをするんだ。交渉のテーブルで切り掛かるなんて・・・卑怯だぞ。」


 不壊の鞘で塞がり掛けた傷口に『治癒』魔法を使う。


「毒の雨を降らせた君の言われると思わなかったな。私たちをどうするつもりだ。」


 男の周囲の兵士たちは痺れて動けない。その兵士たちに囲まれている男も同様だ。


「殺す。」


 俺に襲い掛かってきた兵士の心臓目掛けてオリハルコンの聖剣を突き刺す。まずは1人。


「待て! 皇帝である私を殺せばどうなると思っているんだ。全土から兵士たちがお前の命を狙って襲い掛かってくるぞ。」


「兄貴!」


 次にガラハッドが抑え込んでいる兵士の背後から袈裟切りにする。それを見ていた動ける兵士が弟たちを突き放して逃げ出す。


 俺はオリハルコンの剣を『箱』スキルに戻すとエクスカリバーを取り出し弓形態にすると俺の血液を塗った毒矢を次々と逃げ出した兵士たち目掛けて放った。狙いは足だ。


「お前が本物の皇帝ならな。たかだか自称皇帝の地方指揮官を殺しても、他の皇帝候補が喜ぶだけだろう。」


 この男の称号には、この地方を司る指揮官の称号しかなく王らしき文面は無かったのだ。俺がそう言うと目を白黒させている。


 俺は男の周囲の兵士たちを引き剥がすように1人ずつ殺していく。


「兄貴やり過ぎだ。」


「煩い。ガラハッド。俺1人で960人殺さなきゃならないんだから大変なんだぞ。」


 アーサー王はベイドン山の決戦で960人もの敵を殺したとされているのだ。麻痺して動けない兵士たちの心臓を突き刺しという簡単なお仕事だが、20人ほど殺したところで腕が上がらなくなってきた。どう考えても無理がある。アーサー王はどうやって殺したんだか。




アーサー王はベイドン山の決戦で960人もの敵を魔法も使わずに殺したらしい。


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