表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/45

第42話 ラスボスは大切にしたい

遅くなって申し訳ありません。

「ペルス王はどちらに?」


 確かペルス王が立会い人となっているはずだ。王妃が代わりを務めるなんて聞いたことがない。


「あの人は逃げましたわ。」


 イグレイン王妃があっさりと告げる。一国の王が逃げ出したというのに顔には薄笑いさえ浮かべている。


 『鑑定』スキルを使ってみるとエンヴィー首魁という称号が確認できた。この女ラスボスか。


「ちょっと止めてください。何するんですが隣に座ったと思ったら。」


 イグレイン王妃がソファーに座るように勧められたので腰掛けると隣に座って太腿の辺りを撫で回してきたのだ。アーサー王伝説ではこんな手段でペンドラゴンを誘惑したのだろうか。


 絶世の美女にこんなことをされれば寝室に忍んで行っても不思議じゃない行動だ。だが醜悪な肉塊のような女にされれば背中が凍りつくほかない。


 この世界はセクハラが多すぎる気がする。前世で異性から受けたセクハラの数倍。いや無限大倍のセクハラを受けている気がする。


「貴方が欲しいの。」


「違うだろ。俺の持っているものが欲しいんだろ。言ってみろ。大抵のものは交換してやれる。」


 エンヴィーとは嫉妬や羨望という意味。その首魁となればよっぽどなものなんだろう。だがそれが満たされた場合、どう変わるのか見てみたいのだ。


「貴方の持っているもの全てよ。」


「なかなか豪快な回答だな。俺の持っているものなんて苦痛ばかりだぞ。魂の交換ができるならしたいくらいだ。」


 マーリンなら出来ると言いそうで怖い。聞いたことはないけど。


 この女、見た目は中年女性だが『鑑定』スキルで確認した年齢は20代だったのだ。余程、羨ましい羨ましいと言うだけでだらけた生活を送ってきたのだろう。


「何よ。それだけ何もかも持っていて。何処が苦痛なのよ!」


「俺を引き止めても無駄だ。これが天命なんだろうな。過去の王が国外に2週間と居た例は無い。神獣共々死ぬ。ひたすらブリデン国の中心に居続けろということだ。」


 決して戦争を仕掛けたわけではなく、外交で他国を訪れてそのまま死んだらしい。今回も散々心配されたことだ。


 過去の王の死因を調べてみると圧倒的に自殺が多い。初めの100年は開拓で費やされるだろうがその後平穏無事で何も変わらない毎日を何百年も居続けなければならないなんて苦痛というほか無い。歴代の王は生き飽いたのだ。


「そんなことくらい何よ。この国には何も無いのよ。全ての国民が出稼ぎに出る。そうでなくてはやっていけないの。今は国の半分が豊かになりつつあるからいいわ。でも農地を育て人を育て国が豊かになるころ突然荒野に戻るのよ。」


「それならば、何故。先々代の王を謀殺した。先代の王を唆したんだ。」


 前ブリデン王が創設した影の軍団が初めにしたことはエンヴィーの過去の行状だ。先々代の王の死因に疑念を持ち徹底的に調査したところ1人の人物が浮かび上がり、その人物がエンヴィーと繋がっていたのだ。


「影の軍団を取り込んだという情報は本当だったのね。・・・私たちだけが不幸になるのが許せなかった。ブリデン国の国民も同じ目に遭えばいい・・・そう思ったそうよ。」


 この女が俺のところに間者を送り込み、竜の剣を奪い偽王を立てようと目論んだと思っていたのだが何かが違うようだ。


「君の考えは違うのか?」


「今の豊さを見てしまうとね。前ブリデン王を唆さなければ一生幸せに暮らせた我が国の国民もいたはずよ。私だって違う人生を歩んでいたかも・・・うちの組織もブリデン国王の即位と同時に代替わりするの。貴方たちと違って人の寿命があるから、私で33代目だけどね。」


「随分と話してくれるんだね。」


「このまま、この国と共に滅ぶのかと思うと・・・。」


 俺がワイバーンを伴って訪れたことで国を組織を滅ぼしに来たと思っているようだ。


「滅ぼさないよ。この国はこの国で頑張って貰わないと困るんでね。だから欲しいものを教えてくれ。豊かさならばすぐには無理だが王都をもう少し南下させれば増やせる。美貌は無理だが若さなら不老の隠者に加えよう。我が国に住みたいのなら住居を用意しようじゃないか。」


 何年も掛けて竜の剣の影響範囲を見定める必要があるが北端は殆ど不毛の大地だ。大ブリテン島の最南端に居た方が農作物の収穫量は上がるはずなのだ。


「そうね。美貌は自分で頑張るしがないわね。・・・でも対価が無いわ。本当に何も無いのよ。この国には。でも乞食じゃないのよ。プライドのある人間なの。」


「こちらにも欲しいものがある。君がロマンス帝国とブリデン国との物流を握るんだ。それぞれの国の欲しいもの輸出入する。自然とこの国は豊かになる。そして俺が死んだときにセーフガードの役割を担って欲しい。」


 物流を握るには難しいわけじゃない。ペレス侯爵家とこの国を経由しない商人の入国を止めてしまえばいいのだ。何十年も掛けてこの国に繋がるロマンス街道に道を繋げれば物流量も格段に増えるだろう。


「貴方も死ぬの?」


 いつかは俺も死ぬ。不老と言われているが寿命があるような気がするのだ。


「さあ。どこまで生きられるんだろうな。今までの王のように生きていたく無いと思えば死ぬ。これだけ先が見えてしまえば、人生に飽きるのも早いかもしれない。」


「貴方を人生に飽きさせないことが私の仕事というわけね。それはやりがいがありそうね。」


「何をする気だ。」


「さあね。組織を拡大させるのもいいかもしれないわ。そして貴方を私のモノにするのよ。」


「無理だ。何があっても君を抱くつもりは無い。多分な。」


「多分?」


「ああ絶世の美女に何度も何度も迫られたら、ウッカリ・・・ということもあるかもしれないということだ。」


「そんなこと言っていいの。昔、私は傾国の美女と謳われたのよ。元々、傾いた国だったけど。」


どんな組織も原動力が必要です。しかし、それが満たされたとき組織は崩壊する。

ブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ