第41話 同行者
「王。本気で会談に随行員としてワイバーンを連れて行く気ですか?」
彼女はワイバーンとして名家の出身らしく一際身体の小さいメス個体。といっても人間の大男ぐらいあるが。を2匹従者として連れてきており、3匹で後ろから付いてきている。
オス個体は人間の3倍以上もあったため、家屋に入れなさそうだった。
「当事者なんだから、連れて行ったほうが良いだろう。」
「当事者って。威嚇しているようにしか見えませんよ。」
パロミデスは後ろから付いてきているワイバーンを見て言う。
人間って慣れるのが早いよな。パロミデスは近くにワイバーンが居ても平気になっているようだ。俺なんて未だビクビクものなのに。
「煩いな。魔獣が流れ込んできたのが問題なんだろ。その魔獣がブリデンに移り住むと言っているんだから、ロマンス帝国にとっては願ったりかなったりだろ。全て解決じゃないか。さっさと終らせて帰ろう。」
「そういう問題ですか。向こうは言いがかりを付けて何かをぶん取ろうと来ているんですから、そう簡単に引き下がりませんよ。」
そんなことは百も承知だよ。そもそもロマンス帝国の使者相手にワザワザ出向いたのは魔獣退治をしてレベルアップしたかったからであって、その目的を達したどころかオマケまで付いてきたのだ。
この会談なんぞ放り出してでもマーリンに報告して準備を整えたいところだ。ロマンス帝国がワイバーンを交渉のテーブルに入れたくないと言えば、即会談終了でも良いくらいだ。
「だからこその交渉の材料なんだろ。言いがかりの理由を無くしてしまえば問題無いさ。」
ぺラム王に対して威嚇するつもりは無いのでオスのワイバーンは王都の門近くで待機してもらうことにした。
まず門の中に入るところで躓いた。門を開けてくれないのである。
一度引き下がり、ぺラム王国の衛兵を使者として使うこと半日でようやく門が開いた。最終的にはワイバーンに乗って入れることを衛兵に伝えてあったことが功を奏したようだ。
「参ったな。市場が開いてないじゃないか。弟妹たちに買っていくお土産が無い。」
俺も使える香辛料の種類が増えると期待していたのに。
「そういう問題ですか! 臨戦態勢じゃなかっただけマシだと思ってください。」
「何を怒っているんだ。良好な人間関係の構築にはお土産は大切なんだぞ。」
お土産なんか要らないからという言葉を本気に取って何度痛い目をみたことか。女性の集団では必須アイテムと言っても過言じゃない。
まあ弟妹たちはお土産よりも新しい素材を使った料理を期待しているみたいだ。特にマーリンとグィネヴィア。
王宮の控え室に通された途端、パロミデスが文句を言い出す。
「ちょっと待ってください。なんで王と別室なんですか!」
「何を言っている。王宮だろうと領主の屋敷だろうと控え室は男女別々だよな。そうじゃなければ、普段引っ込めているお腹の力を緩めたり、大股開いてゆっくりとソファーに座るなんて出来ないだろ。」
大学では若い男性講師の前ではお腹を引っ込めていて、授業が終るとだらしなくなる女性講師の姿を良く見かけたものだ。
「何を見てきたかのようなことを言っているんですか・・・そんなことは絶対にありません!」
耳を真っ赤にしているところを見ると正解だったらしい。
「そうじゃなくて、男女別だったら私はワイバーンと同室じゃないですか。」
泣きそうな顔に変貌する。
「受付で彼女たちの性別を聞かれたから、そうなるだろうな。こういったところは杓子定規だから仕方が無いさ。」
「そういう問題ですか! 『抱いて欲しい』とか『愛人にしてください』とか言わないから、なんとかしてください。」
「2度も引っ掛かると思っているのか。大丈夫だ。人間は骨と皮しか無くて不味そうだと言っていたから、取って喰わないさ。」
控え室に入ると肉塊のような貫禄たっぷりの中年女性が訪ねてきた。こちらならワイバーンたちが美味しそうとか言いそうだ。
「ブリデン王。長旅お疲れ様でございます。この度、ロマンス帝国との会談の仲介を務めさせて頂きますぺラム王の王妃イグレインでございます。」
アーサー王の母親のイグレインがこんなところで登場かよ。アーサー王伝説では絶世の美女という設定でアーサーの父親のユーサー・ペンドラゴンが彼女の夫に化けて強姦同然にアーサーを産ませたということになっているが、その後ペンドラゴンの妻になっているところをみると誘惑したのかもしれない。
目の前の女も確かに若い頃は美女だったかもしれないが今は醜悪な顔をしている。
この辺りもキリスト教が歪めた設定で不義の子アーサーが近親相姦の子モルドレッドに討たれたという2重のタブーによる教訓的話になっている。
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