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第34話 騎士の任命と御言葉

「エクター・ブリタニア。前へ。」


 宰相となったバン辺境伯の声が場内にこだますると父エクターが俺の前に進み出て跪く。


「汝の優れた戦闘能力と勇気と高潔さと誠実さと寛大さと信念を持って騎士に値すると信じようと思う。」


 俺が騎士任命の定型句を口にすると脇に控えた従者から剣が手渡される。


「王に生涯忠誠を尽くす所存です。なんなりとご命じくださいませ。」


 俺は剣を両手で支えて父に手渡すと父が剣を掲げて定型句の口上を述べる。


「エクター・ブリタニア卿にはさらなる開拓を命ずる。」


 それに対して俺は各人のために用意された文句を並べて騎士任命の儀式は終わりだ。


「ははぁ!」


 この国では侯爵だろうが伯爵だろうが関係無く騎士なのだ。子爵や男爵や騎士爵といった名称は単なる年金額のための呼称であって、王の前では平等に騎士なのである。それは父であっても同じでこの国では王が親に教えを請う場面があってはならないらしい。


 ブリタニア家ではこの日、父と12人の弟妹が騎士となった。父は伯爵で弟妹たちは騎士爵だ。将来的にはランスロットが伯爵を継ぐことになるだろう。


 父は王都の伯爵邸と領地を往復することになるだろう。引退同然だった立場から大変なのは解っているが、(おれ)に忠誠を誓ったのだから諦めて貰うしかない。















「驚きましたわ貴方。」


「何を驚いたんだ。モルゴース。」


 その日1日で全ての騎士を任命し、第1王妃のモルゴースと共に後宮に戻ったところだ。モルゴースは座ってばかりでさぞかしストレスが溜まったのだろう。そこはグィネヴィアの上位ということで我慢して貰うしかない。


 第2王妃のイゾルテさんは代理として仕事が回ってくるが第3王妃のグィネヴィアの出番など殆ど無いらしく悔しそうだった。


 父が後宮へ連れてきた3人の子供たちは既に寝ていたのでコッソリ顔をみるだけにした。


「ペレス侯爵への御言葉ですよ。」


 全ての侯爵家は一度伯爵位に落としてから、再度侯爵位を賦与した。こうすることでこれまでの貢献度に応じた部分がリセットされるらしい。まあ確かに過去の王への貢献度を持ち出されても困るからな。


「ああガラハッドの養父殿だからな。無碍な扱いもできないから。ああいうふうにした。」


 ペレス侯爵の騎士任命の儀式では、道を作るように命じたのである。いわゆる公共工事だ。この国の街道は全て土の道であり、天気次第で寸断されてしまう道なのである。


 本当は減税を行い、開拓へ資金が流れるようにするべきところなのだろうが一度でも減税を行ってしまえば元に戻すことは容易くないことは現代社会を見て解っている。そこで減税する分を使って道を作ることにしたのである。


 この国で道作りは軍隊の仕事でノウハウは殆ど無い。基本的にローマ街道を真似て馬車が行き違える幅の石畳の道を作る。両脇には歩道もある道が作られることになる。


 アーサー王の時代には既に古代ローマ帝国が敷設していて基本的な構造は頭に入っている。


 ペレス侯爵からは内々に領地の無心をされたが無視して、さらに多額なお金が転がり込む公共工事を与えたのである。ペレス侯爵からは転々とある領地を結ぶような案が提示されるだろうが広範囲な幹線道路になるため好都合なのである。


「何故か。聞いてもよろしいでしょうか?」


 モルゴースの声が剣呑さを帯びている。怒っているらしい。


「なんだ不満なのか? 政治・経済のことは俺に任せてくれるはずだろ。」


「あの組織にお金が流れこんでしまうとは思わなかったのですか?」


「ある程度は仕方がないがペレス侯爵も儲けたいだろ。そんなに簡単に出さないさ。」


「そんな理由なんですか!」


 怒ってる怒ってる。怖いな。


「まず数年間はペレス侯爵の持ち出しで設計・試掘・試作を行ってもらう。資金を取り戻すには10年は掛かるだろう。儲けられるようになったからといって、あの組織に資金が流れ、俺と組織がドンパチやるようになったら公共工事がストップして全てパーだ。」


 現代社会のヤの付く職業の人間でも表の企業が儲かるようになったら、裏稼業に戻る人間など皆無だからな。


「ペレス侯爵をこちら側に引っ張りこもうというわけですか。もうそれならそうと言ってください。」


「それどころか組織の人間を表に引っ張り出せるかもしれないだろ。」


「そんなに甘くありませんよ。」


「そうなのか。組織の人間と言っても兄弟や子供も居るわけだろう。子供を表稼業の仕事に付けたいと思ってもおかしくはないはずだ。」


「そんな先の先まで見越して・・・こっちは日々の戦いに明け暮れていたというのに。」


「何か動きがあったのか?」


「それが無いので困っているんですよ。こちらの感知能力が劣っているのか。向こうが動いていないのか判断がつかないの。」


「こちらでも従者付きで王都の市場を練り歩いてみたが変わった様子は無かったな。地下に潜ったのかもしれん。」


 常に『鑑定』スキルを使い続けていたのだけど、1人や2人は見掛けた組織の人間を見掛けなくなったのだ。撤退したというよりは地下に潜ったとみるべきだろう。影の軍団の準備が整っていない現段階ではラッキーな展開だが油断しないようにしないといけない。

アーサー王伝説の時代には爵位というものは存在せず『領地持ち=王』と王に忠誠を誓う騎士しか居なかったそうです。

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