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第33話 やっぱりモブみたいです

「まさかあの組織が。」


「その組織の名前は口にするなよ。俺も竜の剣を奪われそうになった。俺を殺し剣を奪い、傀儡の王を仕立てたかったんじゃないかな。」


 あの当時はここまで大きな組織だとは思わなかった。だが歴史を紐解くと竜の剣が見つかるのは大抵1本と相場が決まっており、見つけたものが王になっているのだ。闇の組織が暗躍してもおかしくはない。


「あの組織と対立したの?」


「ああそういうことになるな。組織に忠誠を誓っているような輩は調べ上げて王宮や後宮から排除した。」


 本当は『鑑定』スキルを使って徹底的に排除したのだが、今は言うべきときではない。


 天命に背き、命を落すとしても『鑑定』スキルで組織の人間を皆殺しにすることもできるのだ。まあ最終手段だが。


「大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないだろうな。」


 俺は立ち上がり様に『箱』スキルからエクスカリバーを抜き天井を突く。


「こういう輩が入り込んでいるところをみると。」


 エクスカリバーを引き抜くと穴から血が滴り落ちてくる。『鑑定』スキルを使って警戒していたのが良かった。『鑑定』スキルを使ったまま周囲を見回す。


「きゃっ。」


「天井裏の掃除を頼むな。俺は後宮の庭の掃除をしてくる。」


 俺はクリスタルローズの間を飛び出すとエクスカリバーを弓形態にして続けざまに3本の矢を打ち込んだ。3方向から人の落ちる音がする。慎重に近寄ると3人共首を掻き切ったようで絶命していた。


 統率の取れた組織のようだ。


 その全てを『箱』スキルに入れる。こうしてしまえば生死がわかるまい。捕らえられたと組織が勘違いするかもしれない。少しでも足並みが乱れてくれればこちらも付け入る隙ができるというものだ。












「どうだ。グィネヴィア怖くなったか。今なら逃げてもいいんだぞ。」


 随分と怯えて見える。頭オカシイ女だが人並に神経が細いらしい。


「そ、そんなことで逃げるわけ無いでしょ。」


「モルゴースはどうする?」


 こちらは全く動じていないどころか険しい表情をしている。


「もちろん付いて行くわ。どちらにせよ排除しなければならなかった輩だもの。それよりも天井裏の気配に気付かなかった。物凄く衰えてしまったようね。」


 突っ込めない。『衰え』なんてセリフを口にしないで欲しい。でも物凄く意味深なセリフに聞こえる。


「何よ。オバさん、まさか本当のことを伝えてないの!」


「また叩かれたいのか。」


「違うのよ。本当にオバさんなの。母親の姉なのよ。モルゴース伯母さんは。」


 グィネヴィアは前ブリデン王の第1王妃の娘だ。


「前王の第1王妃の姉?」


 知らないどころかとんでもない人物が飛び出してきた。だが前ブリデン王の第1王妃といえば、別の意味で有名だ。


「そうよ。世間にはダイヤモンドカッターという異名のほうが有名だけど。」


 第1王妃の一族は決して表舞台には立たないが情報収集能力が優れた影の軍団を持ち、ブリデン国に常に一定の影響力がある。前ブリデン王はその一族を取り込み自由に使っていたという噂があったのだ。


「ダイヤモンドカッターって、前王の懐刀と呼ばれ、彼が亡くなったことが原因で反乱軍蜂起を許してしまったというアレか?」


 男だというのは勝手な思い込みだ。当主と前ブリデン王が厚い友情で結ばれていて、一族の裏の当主を仕えさせていたという噂だったのだ。まさか女性で不老の隠者として一族を統率していたなんて誰が想像できるっていうんだろう。


「違うのよ。我がゴルロイス男爵家は前王に騙されていたの。忠誠を誓った王が偽王だったなんて。」


「父はあの組織に弱味を握られたものの、ゴルロイス家を取り込むことで独立性を保とうとしたの。」


 道理でモルゴースを紹介したときにロット侯爵とペレス侯爵が目を白黒させていたわけだ。単なる知り合いだと思っていたんだが、知らないうちにババ・・・いやジョーカーを持っていたらしい。


「ごめんなさい。影の軍団は一度解散しているのよ。再編成に1ヶ月は掛かるの。それまで後宮は私1人で大丈夫だと思っていたのだけど。ここまで衰えていたなんて。」


「ならばボールスを防御主力、ケイを攻撃主力、グリフレットを情報収集主力、ディナダンを後方支援として使え。」


「いいの? それからエレインを後継者として育てたいのだけどいいかな。彼女のように本心を悟らせない人間は指揮命令系統に持って来いなのよ。」


「ダメだと言っても、もうそういうふうに育てているのだろう。」


 エレインの笑顔にはいつも騙されるからな。それでいて憎めない。


 影の軍団のトップとして人を切り捨てなければいけない場面も出てくるに違いない。それなのに憎めないなんて、物凄いアドバンテージだ。あまりやらせたくはないがエンヴィーという組織と対立していくならば、最も安全な位置なのかもしれない。


「それにユーウェインも既に育てている途中よ。」


 そうだろうな。モルゴースの紹介で今の師匠についたのだ。影の軍団と無関係じゃあるまい。俺の知らないところで着々と弟妹たちが影の軍団に組み込まれていたらしい。


 俺の役どころは、モルゴースを庇って右往左往する滑稽な王といったところか。やっぱりモブだな。
















 天井裏の人間も絶命していたらしく。イゾルテさんの手によって、クリスタルローズの庭に引き摺り降ろされていた。


「この人間に見覚えがあるか?」


「おそらくガウェイン殿の近習グリグロワかと。」


 イゾルテさんが答えてくれる。王宮警備隊の隊長に任命したガウェインの近習ならば後宮にも入りやすいか。


「拙いな。最近雇ったのか。何処かの貴族に押し付けられたんだな。では、この者も此処に居なかったことにしよう。血の後始末だけしておいてくれ。」


 死体を『箱』スキルに入れる。気分が悪いが仕方が無い。こんなことでガウェインが何処かの貴族から責められても困るからな。本人が逃げ出したことにしておけばいいのだ。組織はそう思わないだろうが。


「ついでに紹介しておく。イゾルテがペオニアピンクの間の主で後宮警備隊の隊長を任命している。」


 クリスタルローズの間の向かい側にあり、後宮の門にも近い独立した建物で後宮では寵愛深い第2王妃が入ると言われているペオニアピンクの間にイゾルテさんが入った。


 本当はイゾルテさんを第3王妃とするつもりだったのだが、国民の前に王妃と2人で顔を見せると王妃にコントロールされているイメージが強くなってしまうからという理由らしい。そこで急遽、イゾルテさんをペオニアピンクの間に入れて、2人の王妃を従えて国民の前に顔を出したのだ。


「では私が第3王妃なの?」


「そうなるな。一番大きい建物なんだし、いいじゃないか。」


 第3王妃以下は大きな建物に複数人の女性で共同生活することになっているのだが、今のところ3人の王妃だけなので、ここにはグィネヴィア1人が入ることになる。


 ちなみにこの建物には名前が付いていない。


「この私が・・・『名付き』じゃないなんて・・・。」


 クリスタルローズの間とぺオリアピンクの間に入った王妃が『名付き』だそうだ。へんなところに拘るよな。


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