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第31話 少し頭オカシイ妹

 辺りが夕闇に包まれてくる。


 今日は終わりだな。明日はスモークハムでも作ろうかな。それともパーシヴァルにソーセージを作らせてソースを使ってグリルソーセージにしようかな。


 暗くなってくると要塞の屋上に松明を持った兵士が数人上がってきた。おかしいな。ランスロットの話では時折1人が様子を窺いにくるだけだったはず。


 ズッサッ。


 テントの屋根に矢が突き刺さる。俺に弓で戦いを挑むとはいい度胸だ。『箱』スキルからエクスカリバーを取り出し弓モードにするとバーベキューグリルコンロで程よく焼けた肉を皿に取り分けて食べる。


 うんうん。美味しい。


 残った串を無造作に弓に引っ掛けると屋上の兵士に向って解き放った。


 「『ジュ。』ぎゃああああぁぁぁーーーー。」


 悲鳴が上がる前に肉の焼ける音を聞いた気がする。串の先は火に炙られていたからな。突き刺さされば焼けるに違いない。しかも威力が上がっているから突き抜ける。


 立て続けに串を3本矢の代わり解き放つと屋上の上の兵士たちは悲鳴を上げ、辺りに暗闇が戻った。













『きゃっ。』


 バーベキューグリルコンロの上で肉を焼いて団扇で扇いでいると固唾を呑んで見守っていたらしく。辺りはシーンと静まり返っていたらしい。


 俺の耳に悲鳴が飛び込んできた。振り返ってパーシヴァルを見てみるが首を振るところを見ると彼女が悲鳴を上げたわけではないらしい。彼女の他にエレインもユーウェインも女性兵士も居ないはずだ。


 まさかね。


 それでも要塞の入口付近を見ていると一瞬入口が動いた気がした。


 俺は慎重にご飯の上にカレーをかけて持ち、もう片方の手に程よく焼けた肉を持って入口に近付いていく。


『私は・・・きた・・の。こんなの良く・・・できる・・・わね。』


 途切れ途切れだが女性の声が耳に入ってくる。


「きゃっ!」


 俺が要塞の入口に力を入れるとあっけなく開き、女性が飛び出してきた。グィネヴィアだ。


 カレーの皿と肉を彼女に手渡して、『箱』スキルからエクスカリバーを抜き放ち、追って来ようとする男たちを刃先で脅かす。


「メルワスだな。何故、こんなことをした?」


 『鑑定』スキルで相手の名前やレベルも丸裸にできる。こいつ騎士爵のくせに剣士Lv1だなんて、まあ人のことは言えないが。


「綺麗な女性をつかまえて『頭オカシイ』とか『ババア』とか言うからだろ。要らないんだったら俺が貰う。俺様にこそその権利があるはずだ。」


「何故そう思う?」


「お前みたいな優男に『不壊の鞘』が抜けて、この俺様に抜けないはずがねえ!」


「そうか。じゃあ持ってみろ。」


 俺は『不壊の鞘』だけを投げ渡すと男は取り落としてそのままひっくり返った。


 『勇者専用』は伊達じゃない。俺が持つと3百グラム程だった『不壊の鞘』は他人が持つと1万倍の重さに膨れ上がるのだ。これじゃあ抜けるはずが無い。


 目の前の男は辛うじて内臓はかわしたようだが左足から股間に掛けて見事にひしゃげて声にならない声を上げている。まあ再起不能だな。


「ほら持てないだろ。解ったと思うが『不壊の鞘』を俺から取り上げようとすると同じ目に遭うことになるだろうから、心しておけよ。」


 それとなく周囲にいた兵士たちに言う。噂が広まれば俺から取り上げようという輩も少なくなるだろう。まあ普段は『箱』スキルに入っているんだけど。


 『不壊の鞘』を拾って『箱』スキルに入れる。


「ああっ。このババア何やってんだよ。俺の肉を食いやがった。」


 振り向くとバーベキューグリルコンロの前でグィネヴィアとマーリンが争って肉を食べていた。


「私を助けにきたのでしょ。じゃあ私のものじゃない。」


 どんな理屈だ。やっぱりグィネヴィアは頭オカシイ女だ。俺が渡したカレーライスと串は既に平らげていた。コイツの食い意地はマーリンに迫るらしい。


「おいおい。見てないで取り上げないとお前らの分が無くなるぞ。」


 食卓の前で呆然と見守る弟妹たちに告げるとバーベキューグリルコンロの前に殺到した。


 俺は悠然と食卓に戻り、丁度良い焼き具合の肉の串を『箱』スキルから取り出して、その様子を眺める。こりゃグィネヴィアも妹みたいなもんだな。少し頭オカシイ妹。そう思って付き合うことにしよう。


矢の代わりにされた串は細長いタイプ。

しかも所々にカレー粉が付着していたという。痛そう(笑)


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